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37. 衝撃の真実

 拉致事件の翌日、九月七日火曜日。

父様は通常通り動物病院で仕事をしている。

僕は学校を休んだ。さすがに眠くて起きられなかったのと、石田刑事が家まで来て話をすることになったからだ。

徠人は…いつもの通り、僕の背後で眠っている。


拉致事件の一件で、僕は母親を失った。

とても悲しいはずなのに、緊張感無く背中にくっついて眠る徠人を見るとなんだかどうでもいい気がしてきた。

僕が寂しくないようにしてくれてるのかもしれないな。

逆に、あの人は本当に母親だったのかという疑問も頭をよぎる。


昼近くになって、ようやく目が覚めた僕は、徠人を起こした。

「おい、パンツ履けよ。」

「いいだろ。二十四年間、何も着てなかったから、これが俺の普通なんだよ。」

「あんた、植物状態だったんだろ?どうやってそんな事わかるんだよ。」

「時々チェックしに行ってたからな。変な事されてないか、とか。ふふ。」

「…。」

徠人はそう言って全裸のまま僕の部屋を出て自室に戻って行ったようだ。

だいたいさ、裸で寝るから寒いんだろうが…。


身支度を整え、昼食に間に合うようにダイニングへ行く。

あれ、徠人が来ていない。

かえでさんに聞いても知らないという、何かあったのかとあわてて探し回る。

徠人の部屋にもいない。

あちこち探し回って、僕は一旦自分の部屋に戻った。

げげっ、僕のベッドで徠人はまた全裸で寝ていた。

どうやらトイレに行っただけでまた戻ってきたらしい。

「あのさ~、その格好でうろうろしたら全部セキュリティカメラに写っちゃうよ。」

僕は徠人の部屋から着替えを持ってきて徠人に投げつけて着るように言った。

「便利だな、お前。ふふっ。」

もう、絶対やらせようと思ってるだろ。


ちょいちょい徠人との面倒な絡みがありつつも、どうにか昼食の時間だ。

父様は動物病院が混みまくって少々疲れ気味だ。

「徠人、暇なら動物病院の受付とか手伝ってくれないか?」

「あん、俺の言うことなんでも聞くなら、やってやってもいいぞ。」

「本当かい?」

「あぁ、でも言っておくが、今より混んで後悔するかもしれないぞ。ふふっ。」

「手伝ってくれるなら何でもいいよ。明日から頼む。」

何でも言うこと聞くとか、父様約束しちゃっていいのかな?恐ろしい未来しか見えないよ。

結局徠人は翌日から父様の動物病院で受付や助手をすることになった。


食事の後、石田刑事が鑑識担当者を伴って訪ねてきた。

僕は、前日の夜に計画を知った時の映像や、当日の家の中の拉致現場の映像などを全てデータで石田刑事に渡し、さらに車内での犯人グループの会話を記憶をたどって話した。

鑑識担当者は、渡した以外のセキュリティカメラの映像もチェックするというので更にデータを追加で渡す。そして、杏子の指紋、DNAの採取などを行った。

僕と父様、徠人、かえでさんの指紋やDNAもだ。

僕たちが飲まなかったスープのカップも証拠品となった。

そして、拉致されて車で移動したときの犯人の会話を説明した。

睡眠薬がどれくらい持つか、ゼットという仲間の呼び名…そしてゼットは海外逃亡を予定しているということ、前回のような薬物投与の失敗をしないように、希少だから丁寧に扱うようにも言っていたという内容から、徠人を拉致したグループと同一犯だと考えられることなどを話した。

気になったのは、犯人が電話で話していた「先生」と呼ばれる人物のことだ。

徠人が監禁されていた地下施設のところで電話していた男も「先生」と電話で相手に話していたことも伝えた。

石田刑事から、捜査の進捗を聞いた。

あの建物はある企業が三十年前に購入し、倉庫として登録していた物らしい。

しかし、その会社は実際には実体がなく、代表として登録されている人物もやはりすでに死んでいる人間だった。


そして、やはり拘束された三人の男のうち、二人は毒物による中毒死ですでに亡き者となってしまった。残る一人は黙秘を続けているらしい。

麻酔薬の針を首に刺した女は眠り続けているため、警察病院に入院中とのこと。

「あ、忘れちゃうところでした。その女の人、僕に一回会わないと目が覚めないかもしれません。昨日も言いましたけど。」

「どうしてだ?」

「あ~、実は…ちょっと暗示をかけたんです。許可するまで眠ってろ。って。

まぁ、催眠術、的な…。もし、それにかかってたら、解かないとだめかなぁって。」

「そんな小学生に催眠術なんてかけられるはず、なかろうよ。」

「う~ん。そうですよね~。別に信用してもらわなくてもいいんですけど。」

「面白いから、見せてやれよ。」

徠人が気軽に言う。いや~、それは…。

「何を見せるっていうんだ?」

「じゃあ、鑑識の誰かに来てもらって下さい。」

父様が言うと、石田刑事が若い鑑識の担当者を呼んだ。

「猫の真似してみてください。」

父様が真顔で言った。

「仕事中に悪い冗談よしてください。」

とその人はきっぱり拒絶して言ったのだが…。

「あの…。」

ライルがその人に話しかけ、声には出さず目を見て命令する。

「手を頭まであげて、猫耳作ってにゃんにゃんって言え。」

鑑識担当者の目に赤い輪が浮き出て、くいっと腰をひねったかと思うと、両手を頭まで持っていった。

「にゃん、にゃ~ん。」

「お、おまえ…。」

「ん?あ、あれ。なんでこんな所に手が…。」

鑑識担当者が首をひねりながら、仕事に戻って行く。

「あ、あの…別に普段いたずらに使ったりしてるわけじゃないですよ。非常事態だったので、眠ってもらっただけで。今のだって、小学生にはできないって言うから、証明するために…。」

石田刑事は開いた口が戻らない様子だったが、どうにか返事をした。

「あ、あぁ、ちょっと病院に様子聞いてからだな。うん。明日まで待っても起きないようなら手配させてもらうからな。」

ちょっと目が泳いでる気がするけど、どうにかわかってもらえたようだ。

そこで父様が口を挟む。

「ところで、薬物で死亡とは、穏やかじゃないですね。眠っている犯人の歯の中などに

薬物が仕込まれていないか、眠っているうちに確認した方がいいのではないですか?まるで、ドラマのスパイが証拠隠滅するときみたいじゃないですか?」

「お、おう、そうだな。もっともだ。」

石田刑事は引き続き捜査すると言って帰って行った。

この能力、ばらしてよかったのかどうかは疑問だけど、こうなってしまっては仕方がない。


父様は午後の診療に戻り、僕は家でゆったりと過ごす。

あぁ、なんだか色々と大変なことになっちゃったな。

あ、そういえば、今日の昼までのセキュリティカメラの映像も全部渡しちゃった

けど、徠人の全裸があちこちに写ってて、どんな家だと思われちゃいそうで嫌だな。想像しただけで、僕が恥ずかしいよ。

特に何もすることがないので、ホールのピアノの蓋を開けてポーン、と音を出してみた。

あっ、ピアノの中に蓄積された記憶が流れ込んできた。

僕は小学一年の時に少しだけピアノを習ったが、練習が嫌いで、全然上手にならなかった。正直嫌な思い出だ。

そんなこともあったな。このピアノはもっとずっと前からここにあったようだ。

僕ではない子供が弾いている姿も一瞬見えた。

ピアノの椅子に座って鍵盤に手を置いてみる。

母様はピアノ上手だったな。母様のことを思い出してちょっと悲しい気分になった。

その時だ、僕の手が、いや体が緑色に光って、勝手に手が動き出した。

頭では指を動かそうとは一切していない。

僕が今弾いているのは「英雄ポロネーズ」、母様がこの前弾いた曲だ。

僕はこんな難しい曲弾いたことがないし、自分の腕が自分の物ではないように動く…。ホラーだ。

一曲全部弾き終わったら緑の光が消えた。

これも、僕の能力の一つなのだろうか?

特殊な能力がない人間の持つ技量もコピー可能なのだろうか。

切ない気持ちをねじ伏せてその場を離れる。


僕は、暇を持て余して部屋に戻って勉強をすることにした。

一応、今日は本来なら学校に行く日だからね。

まぁ、学校では大したことはやっていないので、さらっと教科書をめくる。

あっという間に予習完了。あーぁ、暇だな~。

あ、そうだイヴにネズミになったか聞いてみよう。

あ、あれ?イヴがいない。出かけてるのかな?勝手に何か食べ物探しに行くって言ってたもんな。

むー、つまんないもんだな。一人の平日って。

徠人でもいじりに行こうかな…。と振り返ったところで、衝撃の光景。

また、僕のベッドで徠人が昼寝をしている。

「わっ、いつからいたんだよ。」

「ん、最初からいたぞ。どうしてこんなに大きいのに気付かないんだ?面白いやつだな。ふふっ。」

「うそだろ。」

「まぁ、うそだな。」

どうやって気配を消して入って来たんだろう?かろうじて服は着ているようで一安心だ。いつもの調子じゃ、全裸で宅急便の受け取りとかしちゃいそうだからね。

「おまえ、ピアノ弾けるんだな。」

「あ、いやあれは、多分、僕の力じゃないよ。多分、母様のだと思う。」

「わかりやすく言え。」

「僕が命を救った人の能力をコピーできるんだよ。多分だけど。」

「ほぉ。」

「でも、何ができるかはわからない。僕たちみたいな能力かもしれないし、さっきのピアノみたいな技能かもしれないし。」

「ふうん。俺もピアノ弾いてみたいな。」

「そっちかよ…。」

くだらない会話だけど、ちょっと気がまぎれたな、徠人と話してると調子狂うけど。


その後は、日記ノートに一連の記憶や情報を書き込む。

読み返せば読み返すほど、どんどんホラーな内容になってきている。

何か見落としや書き忘れはないだろうか…。


その日の夜、父様がぼろ雑巾の様に疲れて帰って来た。

夕食を食べながら、徠人に明日の開始は十時だから、絶対起きて手伝ってほしいと懇願している。

「俺のいうこと全部聞くっていう約束、守れば、俺も約束守るよ。」

「お、おう。」

「じゃ、早速だけどよ、一つ正直に答えろ。この前も聞いたけど、嘘ついてるか隠してること、あるだろ?」

「う、嘘なんかついてないよ。」

「ほほぉ。言い切ったな。」

「お、おう。」

「じゃ、隠してることは?」

「う、隠してたわけじゃないけど、言いたくないことは一つある。」

「今すぐ、言え。ほら、3.2.1」

「わ、わかった。わかったから。驚いても、いやな気分になっても後悔するなよ。」

「あぁ、いいから言え。」

父様は、言葉を絞り出すように話し始めた。

それは、今年の七月、あの写真立てを触って一八七五年のドイツに僕が転移し、アズラィールを連れてきてしまった時のことだという。

アズラィールは僕と同じ九歳だと言っていた。

父様は双子と思うほど似ている僕とアズラィールをすごく不思議に思ったそうだ。

なぜか、というと、ほくろの位置も、耳の形も、瞳孔の形までも同じに見えたというのだ。

さすがに、もし祖先だとしても何代も先のひ孫くらいの隔たりがあれば、こんなに似るはずがない。似すぎていると思ったというのだ。

僕が生まれたとき、父様は出産に立ち会ったという。

確かに双子ではなかった。生まれた子はたった一人僕だけだった、父様と同じ瞳の色と髪の色。

それが、目の前に二人になったような気がしたと、あの子も自分の子ではないかという疑念がわいたそうだ。

アズラィールが転移して時代を超えて去る直前、花瓶を割って出血したことがあった。

父様はその血液を拭いたハンカチを使って、DNA鑑定を行った。

僕とアズラィールが双子かどうかを調べるために。そして、自分の子供かどうかを確認するために。

結果は衝撃的だった。

僕とアズラィールのDNAが完全に一致し、それは、一卵性の双子である可能性を指していた。

そして、もっと衝撃的だったのは、父様とアズラィールのDNA鑑定の結果だ。

その二人も、完全にDNAが一致した。

父様は、その結果から、僕と父様のDNA鑑定も行った。

当然のことながら、それは完全に一致したというのだ。

ただ、父様はそこで終わらせなかった。

父様の父親、と父様のDNAもおじいさんのへその緒を使い、鑑定した。

そして、その前のひいおじいさんも。

サンプルがある全てのDNAが完全に一致したというのだ。

父様は自分が狂っているのかと思ったと。これはきっと悪い夢だと思ったと言う。

しかし、そこで、徠人が見つかり戻ってきた。

徠人のDNAを検査できる検体がなかったが、戻ってきたことで確認できた。

徠人は父様達の母親のDNAを半分持っていた。

同じ時に生まれた一人だけが母の遺伝子を持たないというのはどういうことなのか?

しかし、それは自分たちだけではないとわかった。

他にも三代前に存在していた。一人は完全に父親と同じDNA、もう一人は母親のDNAを半分持つ双子の片割れだ。

江戸時代にクローンなんて存在するはずがない。

何か、朝霧には秘密があるんじゃないかと、そう考えて秘密を探ろうとしていたというのだ。

今の時代でも人間のクローンは禁呪的な扱いだ。

アズラィールが言っていた、彼の家系では男は百年に一度程度しか誕生しないということと、何か関りがあるのではないかと考えていると。


僕は、その父様の話を聞いて、正直なところ、全然頭に入って来なかった。

遠い宇宙のファンタジー小説でも読んでいるかのようだった。

そこで、「パチン」と徠人が指を鳴らした。

「おい、それってさ、ただの父親に100%似ちゃった系、とかじゃねーの?親父にばっかり似てるやつとか、お袋にばっかり似てるやつとかいるんじゃねーの?

それか、完全無欠の優性遺伝DNAだったりとかよ。」

そこで、伏し目がちながらも父様が頷く。

「調べようがないんだけれど、僕たちの能力が関係しているのかもって、ちょっと考え始めてたところなんだよ。100%この遺伝子じゃなければ、発揮できない能力だから、完全優性遺伝をとげているのかも…とかね。

あくまでも、仮説だし、検証不可能だと思うんだけどね。」

「だからあんたのは紫なのか?」

あ、ヤバい、つい口に出ちゃった。

「おい、どういうことだよ?あん?」

「どういうっていうか、能力を出すときに出る光がさ、僕と父様は白色だけどあんたは紫だっただろ?」

「その二種類しかないのか?」

「いやぁ、多分赤いのもあるみたい。アズラィールは赤でヤバいやつだから封印するって書いてあったよね?父様。」

「あぁ、そうだったな。」

「ちなみに赤いのは精神支配系ね。猫耳にゃんにゃんさせちゃうやつ。」

「なんでお前が使えるんだよ。」

「だから、僕の能力は、どうやら命を助けた人や動物の能力をコピーさせてもらえるみたいなんだって…。」

「おまえ、それ反則だろ?」

「でも、他の人からコピーで得たやつは、基本的にどんなのかわからないから、怖くて使えないしね。あんたのだって超うさんくさいやつじゃん。

憑依とか言ってさ。絶対戻ってこれなくなりそう。」

徠人はこっちを横目で見ながら「ちっ」とか言ってる。

本当に戻ってこれなくなるやつなのか?リスク高すぎるだろう…。


その後、父様の取り寄せたDNA鑑定の書類を全部見せてもらい。

徠人と僕はもう一度唸って思考を停止させたのだった。


議論は尽きないが、夜も更けてきたのでそれぞれ入浴後就寝となる。

明日は学校だ。ちゃんと起きなければ。


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