365. らちが明かない話合い
皆が心配しては本末転倒である。
私はいつもの薄いブロンドの髪に平凡な顔のリリィに変化した。
ライルはこの前、髪の色しか違わないと言ったが…私にはどっからどう見ても月とすっぽんである。もちろん月は上位覚醒後の姿で、すっぽんはこのどこにでもいそうなリリィである。せっかく美人になれたのに、とても残念だと思うのであった。
そういえば、一つ確認することがあった…。
「ねぇ、ライル…生身の体が無いからもう融合する必要が無いってこと?」
「そうだな、眠れないし、食べても美味しくない、リリィもそうなったし、それを回避するための融合だからね…確かに意味ないかな。あるいは、二人だと定員オーバーになるときには一人減らせる程度には役に立つけど…。」
「ははは…そうだね。聞いて損した。」
アンジェラが苦笑いをしている。
ライルが部屋から出て、リリアナとアンドレを呼びに行った。
その時、すかさずアンジェラが私の耳元で小声で聞いてきた。
「リリィ、あっちの方は大丈夫なのか?」
「え?あっちって?」
「あの、仲良くするというか、その夜の営み…。」
「ぶ、ぶぁか!そんなの普通に決まってんでしょ!子供が出来ないってだけよ、違うのは…。きっと。だって、つねったりしたら痛いし。さわったら、それなりにわかるし。」
味がわかんないのと疲労を感じない以外は、どちらかと言うと神経が細かいところまで行きわたっていて感度はいい方だと思ってるけど、そんなことは恥ずかしくて言えない。
バッチーン、とアンジェラの頭を引っ叩いたタイミングでリリアナとアンドレとアズラィールと左徠まで入ってきてしまった。
「「あ…。」」
とても気まずい。
「あぁ、お騒がせしてすまない。仲いいところを見せてしまったな、ははは。」
アンジェラ…誰もそうは思ってないって…。
リリアナが白目がちになってて怖い。
「それで、リリィ、どこ行ってたのよ?」
「月。」
「何してたの?」
「小惑星と月に挟まれて粉々になってた。」
「へぇ、それで、良く生きてたわね。」
全然信用してない風のリリアナにちょっとむかついたのもあるけど、話すのが面倒になって記憶を頭に流し込む。4人一度には出来ず、リリアナとアンドレに最初に行い、次にアズラィールと左徠の頬に手を当て記憶を流す。
「や、やばいやばい、これ、まじやばい。」
「え?どうすんのこれ、何とかなるレベルじゃないよね?あー、やだ。まだ結婚もしてないのに…。」
アズラィールと左徠は動揺して変なことを口走っている。結婚してないのは左徠だけだ。
リリアナは冷静だ。
「いや、すごいわ。よく生きてたわね。私も上位覚醒できるかしら?いやぁ、でも味がわかんないのはちょっといやだわね。それで?体、どうするの?」
「あ、うん。一度お爺様に相談して調べてもらおうと思うの。」
「そうね、何か原因がわかって解決できるなら、それに越したことはないわね。」
そこにアンドレが発言した。
「リリィ、これはかなり大変なことだ。そしてもし避けられないと皆終わるという事だな。」
「そうね。時速54000kmの物体が衝突してきたら、正直一瞬で終わるわ。
最後まで見たわけじゃないけど、想像できるでしょ…。引力の均衡を失くした月がいくつもの大きな破片になって地球に向かって激突するのよ。海に落ちた破片は大きな津波を引き起こし、陸地に落ちた破片は巨大なクレーターを創り出し、何年も消えない巨大な砂埃を巻き上げる。」
「専門家の話では2029年には、この小惑星が地球に衝突する恐れはないと計算されていると聞いたんだが、考えようによっては、この小惑星の軌道上に何か別の物体がたまたまあって衝突あるいは接触し、大きさはそのままに軌道がほんの数ミリ、数センチ変わっても地球や月に接触する可能性はあるのだろう。」
アンジェラが補足してくれた。私も専門家の話を思い出しながら話した。
「違う小惑星に探査機をぶつけて軌道を修正したという例もあるらしいけど、アポフィスはものすごく移動が速いから、できるのかどうかもわからないわね。」
もちろん、この場で話し合っていきなり解決するとは思っていない。
しかし、希望を見出せるようなことは一つも見つからなかった。
「一回や二回話し合ったところで解決できるわけではないだろう。今回は、ここまでにしよう。残りの休みも楽しんでくれ。」
アンジェラが言葉を閉めてこの日の話し合いは終了となった。
不安ばかりが頭をよぎる。そんな日だった。




