361. VACATION(8)
結局、午後はホテルのプールで子供達とボール遊びをして過ごした。
でも、大きくなっているマリアンジェラのおかげか、アズラィールと左徠が遊んであげていたので、リリィとアンジェラはゆっくりとプールサイドで見ているだけでよかった。
僕はというと、マリアンジェラとリリィから距離を取るように寝室で読書をしていた。
しかし、同じことばかりではつまらないのが人間だ。
夕食の時に子供たちがアンジェラにお願いを始めた。
「パーパ、ねぇ、明日はどっかに連れてって~。」
大きい姿をしている割に言っていることは隣で同じように駄々をこねるミケーレと同じである。
「もう、プールは飽きたよ~。宇宙センターに行きたい。」
ミケーレがそう言うと、マリアンジェラも大きな声で賛同する。
「いいね、いいね~。宇宙センター。そして、その帰りにショッピングするのよ~。」
「ショッピング?」
「だって、マリー、この大きさのお洋服があんまりないから、パパに買ってもらうんだもん。」
「マリー、普通の大きさに戻ればいいだろう?」
「やだ。お外に行ったらライルとお手々繋ぐんだもん。小さいと繋げない。」
いや、繋げないわけないし…恋人ごっこが楽しいらしい。
7月6日、火曜日。
子供たちのお願いが叶い、朝食後に宇宙センターへ観光することになった。
開館の時間に合わせホテルのリムジンで送ってもらう。
前日の夜にホテルのスタッフに入場チケットを頼んであったので、入場もスムーズにできた。
さて、どうしたものか…赤ちゃん達は今日もベビーシッターに頼んできたからよかったが、この施設、思いのほか大きい。
そして、結構人も多い。ぞろぞろと歩きながら、ミケーレ中心に展示物の見学をしていく。
マリアンジェラも楽しそうだ。
途中、予想通りのことが起こった。宇宙飛行士トレーニングプログラムにミケーレが参加したいと言い出したのだ。参加資格は10歳以上、17歳までは大人の同伴が必須だ。
ひっくり返って駄々をこね始めたミケーレに、アンジェラが困り果てた時、アンドレがアンジェラに耳打ちした。
「できるか?」
「多分。」
そんな会話の後、ひっくり返っているミケーレをアンジェラがひょいと抱っこし、トイレに連れて行った。
2、3分で戻ってきたのは…え?えぇ???
12歳…くらいかな…という大きさのシルバーブロンドの超イケメン少年…アンジェラがミケーレと合体したらしい。ちょうど中間くらいの大きさになっている。お揃いの服着ててよかったな。
「そっか、アンドレとアンジェラの技を試したんだぁ。ミケーレ、すごいイケメン。」
リリィが嬉しそうに笑った。
ミケーレ+アンジェラも品のある微笑みで頷いた。
「それで、大人の同伴は誰が?」
見回すと、しっかり手を挙げているアズラィールと左徠。
「あ、でも3人だと大人も3人必要?」
どうやらミケーレ、マリアンジェラと僕まで体験の数に入っているらしい。
「これだけで4、5時間かかるみたいだけど大丈夫なの?」
サラッと言ったリリィにミケーレが走って行って抱きつく。
「ねぇ、ママぁ、今日はこれだけでもいいからぁ、お願い。」
つるペタなおっぱい辺りに顔をぐりぐりこすりつけてお願いするミケーレ。
「もう、仕方ないなぁ…。」
そう言って、アンドレに顎で指示を出すリリィ。うわっ、丸投げ、しかも王太子を顎で使うってどんだけ偉いんだよリリィ…。そして、ちょっとトイレと言ってリリィが席を外してまたすぐ戻ってきた。
でも、こういうのって何か月も先まで予約でいっぱいなんじゃないの?と思った時、リリィがポーチから予約の紙を取りだした。
「ほら、こっちだよ。」
そう言って6名の受付を済ませる。ジャスト、予約の時刻だ…。
「え?どういうこと?」
どうやら、トイレと言って、過去に転移し、自宅で今日のこの事件の体験を予約して印刷までしてきたらしい。いつものリリィとは違うしっかりした側面を見た瞬間であった。
まぁ、本気で5時間かかった貴重な体験をし、待っていたリリィとリリアナと合流する。
どうやらトイレからホテルに転移し、昼寝をしてきたらしい。
すっきりした顔で出迎えてくれた。
合体を解こうとトイレに行こうとするミケーレの体にミケーレ本人がストップをかけている変な光景を見た。
「パァパ、今日はこのままでいいでしょ~。こっちの方が楽しいぃ。おねがい~。」
困った顔をしたかと思うと、ニパァと笑っている。
合体はどちらの意思でも体が動く、たいていは同じことを考えているので問題ないようだが、意見が分かれた時は単なる変な人である。
結局、その後は少し館内を見て回り、ヘロヘロになったアズラィールと左徠がギブアップした所で帰宅することになった。
もう出ようというところで、ミケーレが『触れる月の石』なる展示を発見。
走って行って一番に触る。
「うわ~、普通の石だね。小さいな。ママも触ってみたら?」
「あ、うん。」
リリィが手を入れた。
「あっ、ダメだ。リリィ、触るな!」
「え?」
そう言った途端、リリィはその場に倒れ込んだ。僕はリリィの体を抱きかかえ、トイレの入り口の死角に連れて行きその体に入った。
そう、リリィは魂が抜けた状態になっていたのだ。




