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360. VACATION(7)

 ロビーに着いて、腕輪型のキーを四人分カウンターに返している時、マリアンジェラが急にそわそわしだした。

「ライル、ちょっとトイレ行ってきていい?」

「あ、うん。アズラィール、ちょっと一緒に行ってやってくれよ。」

「オッケー。ドアの前で待ってるから、一人でできるか?」

「げ。おじいちゃん、レディに失礼じゃない?」

 そう言いながらトイレに向かう二人だった。

 マリアンジェラが女性用のトイレに入っている間は、ドアの前で待っていたアズラィールだった。


「ふぅ。さっきのジュース一気飲みが良くなかったのかにゃ?うほほ、いっぱいでた~。」

 独り言を言いながらマリアンジェラが個室で用を足し終え個室から出た時、女性に声をかけられた。

「あら、お顔になにかついていますよ。」

「え?顔に?」

 ハンカチを持つ女性の手が近づいてくることに何の警戒心もなく振り向くと、そこにはあの茶色い髪のどこぞの王女が…。と思った瞬間、鼻と口をハンカチで押さえられ、目の前が真っ暗になった。

「うっ、お、重い。この女、なんでこんなに重いの?」

 そう言いながらシルビアはマリアンジェラを引きずって用具入れのドアを開け、その壁にあるプレートを持ち上げ、中のスイッチを押した。

 すると、壁がスライドして奥の通路に通じる入り口となる。

 シルビアはマリアンジェラを引きずったまま、通路に入って行った。


 一瞬の暗闇の後、リリィは違和感を感じたまま目を開けた。

 そう、マリアンジェラが意識を失くしたので、リリィがマリアンジェラの体のコントロールを得たのである。

『うわ、何か薬品を嗅がされて拉致られてるってことだよね。最悪だわ、この王女。マジで真っ黒…。』

 この通路はスタッフの移動用の様だ。掃除用具や、備品などの保管と、目に着かないようにスタッフが移動するために設けられているみたいだ。

 薄目で見ながら、確認しつつ、引きずられていく。

 備品を置いておく小さな物品庫の一つに着いた。その中に入れられ手足を縛られた。

『どうするつもりなんだろう?こんなことしてバレたらただじゃすまないよね…。』

 シルビアは物品庫の中に隠しておいた缶を棚から出し、何かをしている。後ろ向きで見えないが、何だろう…。

 くるりと振り返った彼女が手にしていたのは注射器だ。液体が入っている。

『違法薬物に手を出してるとか言ってたけど、これ?何…マリアンジェラにそんなもん注射してどうしようっての?』

 リリィは注射針が刺される直前、転移でその場から入り口付近に移動した。

 照明のスイッチを入れ、物品庫の中を明るくした。

 そして床にしゃがんだまま振り向いたシルビアが、マリアンジェラが目の前から消え、後方に移動したことに動揺している目を見て心の中で言った。赤い目を使って。

『それは、あなた自身に打ちなさい。ふふ、楽しみね。』

 恐怖に震えるシルビアの手…しかし、自分の腕に注射針は無情にも突き刺さり、自分自身によって液体がすべて注入された。

 シルビアは白目をむいて、ぐらぐらしだした。

 多分致死量に近い量を打ったという事だ。

『全く、ビッチが…。』

 リリィは、さっきのトイレに転移し、外に出た。遅いので心配になったアズラィールがスタッフに中を確認してくれと訴えているところだった。

 リリィはスタッフに出てくるのが遅くなったのは、用具入れの先から変な声が聞こえてきたから気になったせいだと言った。

『早く発見されないと、多分死んじゃうからね。でも治してあげない。』

 トイレから出た後、ライルの耳元にチュとキスをした。

 ライルはそれでマリアンジェラとリリィの記憶を全部見たのだ。

「リリィ…。危なかったな…。よかった、一緒にいてくれてて。」

「マリーの予感、当たったね。」

「僕、もう一つ確認したいことがあるんだけど。」

「ウィリアムでしょ?」

「そうなんだ。」

「今、電話で呼び出した方がいいわよ。」

 ライルはリリィの言う通り、その場でウィリアムを呼び出した。


「ウィリアム、僕達もう帰るよ。」

「え?どうして?」

「君の従妹だっけ、彼女にさっきマリアンジェラが変な薬品を嗅がされた。」

「え?大丈夫なのか?」

「すぐに気づいて逃げて来たけど、そんなことされたら怖くていられないよ。

 警察に通報してもよいレベルだ。」

「すぐに確認するから、待ってくれよ。」

「悪いけど、もう巻き込まれたくないんだ。」

 そこにマリアンジェラ(リリィ)が近づき、赤い目を使い心の中で質問する。

『ウィリアム、お前は私がシルビア王女に襲われるのを知っていたか?』

「いいえ、そんなことするなんて、思いもしませんでした。だって、だって、僕の天使様とお話したいだけだって、そう言ったから会わせてあげたのに…。」

「ウィリアム、悪いけどシルビアのいないときにまた会おう。あと、彼女裏の方で変な声出していたらしいから確認してあげた方がいいんじゃないか?」

「え?何?裏?」

 僕達はそのままリゾートの地下駐車場にエレベーターで移動するふりをして、エレベーターから出る瞬間に4人とも転移し、ホテルに戻ったのだ。

 戻るなり、リリィはマリアンジェラの体から出た。そして体の様子を確認し、嗅がされた薬品の成分を浄化した。

 マリアンジェラは何も覚えていない。

「ママ、あれ?もう帰ってきたんだ…。プールねぇ楽しかったよー。」

「よかったね、マリー。」

「うん。」

 その時、ホテルの前を通り過ぎる救急車とパトカーのサイレンが聞こえた。


 次の日のニュースで、『シルビア王女、違法薬物過剰摂取で意識不明』と報じられた。

 マリアンジェラに打とうとしていた薬物の量はやはり相当多かったようだ。

 回復しても、しばらくは自由に動き回ることも制限されるだろう。

 それ以前に精神状態がまともになるかもわからないが…。下手すると薬物所持と使用で投獄の可能性もある。これを機に余罪も追及されたらいいのに…。


 アンジェラにはリリィと僕で報告をした。

 アンジェラはリリィを抱きしめて安堵した様子だった。

 まだ、VACATIONは始まったばかりだというのに…騒がしい限りだ。

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