358. VACATION(5)
7月5日、月曜日。
朝、早い時間から子供たちはお腹がすいて寝ていられず、早々にルームサービスを頼んだらしく、今日はパンケーキとフルーツがてんこ盛りの朝食だ。
「うわっ、ヤバいわよ、このパンケーキ、しっとりでふわふわ。」
「マリー、このピーチとマンゴーもヤバいよ。」
ミケーレとマリアンジェラが一口食べるごとに大絶賛をしている。
旅行中、僕がリリィと融合できたのは二日目の朝食時のみのせいか、僕は少しストレスを感じていた。あぁ…イラッとくる。
アンジェラとリリィも起きてきた。朝からお姫様抱っこで出てきたのを見ると相変わらず仲いいんだろうな…。それもイラッと来るんだが…。
とりあえず、挨拶は交わし、アンジェラにつっかかる。
「あのさ、左徠がSNSに動画アップなんかするから、ウィリアムから今日迎えに来るって電話が来てさ。」
「一回くらい行ってきたらいいだろう?」
「なんかされそうで嫌なんだよ。」
「それはそうだが…左徠とアズラィールを連れて行ってやったらどうだ?あそこのリゾートは使ったことが無いが、なかなか高級で充実しているという噂だ。それこそお前に使ってもらって宣伝したいんだろう?」
そこへアズラィールと左徠が起きてきた。
「何の話?」
「父上、近くの高級リゾートにライルが招待されたんだが、行くのを嫌がっているんだよ。父上たちも一緒に行ったらどうかと思ってね。すごいVIPも泊ると噂のところだよ。しかし、SNSはだめだぞ、左徠。」
二人は食いついてしまった。
「うわ~、ヤバい。行きたい。」
「ライル、連れて行ってくれよ~。」
何だか二人の行きたい雰囲気に押され、結局朝食をとった後、身支度をして待つことになった。ホテルのフロントから部屋の電話に『お迎えの車が到着しました』と連絡が入ったのはちょうど10時だった。
部屋を出てエレベーターで降りる時、後ろからマリアンジェラがトコトコついてきた。
「マリー、今日はダメだよ。」
「どうして?」
「パパとママが行かないからね。何かあったら困るだろ。」
「えー、ちょっと待って。」
バタバタと走って部屋に戻ると、マリアンジェラはリリィを連れて帰ってきた。
「リリィ、今日はマリーは連れて行けないよ。何かあったら僕は責任取れないし。」
「ママー、マリー行きた~い~。だって、ライルのことが心配なんだもん。」
三歳児に心配されるほど僕って頼りないのでしょうか?
そこで意外にもリリィが真剣な顔で言った。
「マリーの心配事、ママにもわかるよ。今日、なんかありそうだよね…。」
「うん、やばそうだよね。じゃ、私はマリーに入って行くから、一回体を封印の間に置いてくるね、マリーいつもの大きいマリーになってて、10秒待ってて。」
そう言うと、リリィは消え、本当に10秒後戻ってきた。
「マリー、ちょっと痛いよ。」
言うなり『ガブッ』とマリアンジェラの腕を噛んだ。リリィはキラキラになり消えた。
マリアンジェラは噛まれたところをさすって、ケロッとしている。
「あれ、ママ消えたね。」
憑依されてる方は自覚症状が無いのか…。
「大丈夫、マリーの中に入っていて、いつでも出て来られるし、困ったら話しかければ答えてくれると思うよ。」
「うん、わかった。」
マリアンジェラとリリィの奇行を目の当たりにしたアズラィールと左徠はドン引きだ。
「君たち、かなりやばい技使えるんだね。」
「ママもライルも神レベルで、しゅっごいんだよ。」
そんな事を言いながらエレベーターで下りていくと、フロントの人が案内してくれた先にリムジンが停まっていたいた。
車内には運転手のみで、乗車後、無言で車は走り出した。
なんか、感じ悪いな…。
車が走り始めて、わずか5分。海沿いの高い塀で囲まれているところに着いた。
ガレージに入る門が開き、リムジンが中に入る。
そのまま地下への通路にリムジンが吸い込まれて、到着したのは地下の駐車場だった。
駐車場で車から降りると、そこでウィリアムが待っていた。
「ライル!」
そう言うと、バッと飛び出してきてライルにハグしようとするウィリアムだったが、そのライルと手を繋ぎ、体半分を密着させている女子の存在に気づき、止まった。
「あ、こちらは?もしかしてCMに出てた子?」
「うん、そう。マリアンジェラっていうんだ。」
「ライルの恋人なのか?」
「…ま、まぁ。そんなところかな。」
恋人と言われ、マリアンジェラはうっとりライルを見つめる。
「で、こっちがアズラィールと左徠。うちの従妹たちだよ。」
「身長は違うけど、すごいそっくりだな…。」
「そうだろ、よく言われる。」
そのあと、使う部屋に案内された。
「ウィリアム、悪いんだけどさ。今日は午後8時には帰らないといけないんだ。」
「わかった。それまでゆっくりしていってよ。この中のどこの施設で何使っても、何飲んでも、何食べてもお金はかからないからさ。サービスを受けたらこの腕輪になってるキーを読ませてくれ。」
四人に一つずつ腕輪型のキーを渡してくれた。
「で、僕には何も要求しないわけ?」
「お願いは一つあるんだけど…」
「何だよ。」
「ランチタイムにレストランのピアノで君の曲を弾いて歌ってくれないか?」
「それは…アンジェラに聞かないと勝手には出来ないな…。」
僕はアンジェラに電話をかけた。
事情を話すと、そんなことだろうと思ったと言っていたが、上流階級の客層へファンを増やす機会だから、と許可が出た。しかし、『自分の曲は一回しか歌っちゃダメだ』と念を押された。クラシックの演奏ならいくらでもやっていいとのこと。
それを伝えたら、ウィリアムは満面の笑みで飛び跳ねた。
「君たち、水着は持ってきたかい?なければ1Fのショップで選んだらいいよ。
プールはこっちのベランダから下りられる。貸し切りではないけど、こっちのサイドは超セレブ用だから、騒いだりする人はいないと思う。11時45分にレストランに一緒に行こう。僕はこれからプールに行くけど、君たちはどうする?」
「少し館内を見てから、プールに行くよ。」
「じゃあ、後で…。」
そういってウィリアムはその部屋から出て行った。
「ライル、さっきのやつとは友達なのか?」
アズラィールが聞いた。
「友達とまでは行ってないかな。学校で今同じ学年なのと、あいつのおじいさんが持ってる会社のCM2つに出演したのと。僕は否定し続けてるけど、あいつはおじいさんの代からアンジェラの天使の絵画を持っていたりする天使オタクさ。僕のことも天使だと思っている。」
「するどいな…。」
「ねぇ、ライル。あの人とは違う人との間で何か悪いこと起きるよ。」
マリアンジェラが不安そうだ。
「十分気をつけるよ。とりあえず水着でもお店で見てこようか?」
4人で1階に移動し、ブティックで水着を物色…。まぁ、セクシーなのもセクシーじゃないのも揃っている。
マリアンジェラが生地の小さいのを選ぼうとしているので、制止し、普通の露出少な目の水着を選んであげた。
アズラィールと左徠と僕は無地の色違いのトランクスを選んだ。
一度部屋に戻り着替えた。
「ライル、背は伸び続けてるのか?」
「いや、上位覚醒してから体はもう変化していないよ。最後の生身の姿がこれから変わらず使う姿になるんだろう…。」
「じゃ、この普通に触れるお前の体は生身じゃないってのか?」
「まぁ、そういうことだよ。」
よくわかっていない様子のアズラィールだったが、着替え終わると同時に元気よくベランダの階段からプールの方に走って行った。
僕はマリアンジェラと一緒にゆっくり後からついて行った。




