355. VACATION(2)
7月4日、日曜日。
朝、結構な早い時間から、マリアンジェラとリリアナの腹減り度合いが本格化して、ルームサービスでずいぶんと朝から豪華な食事が運ばれてきた。
寝ぼけ顔でそれを見たリリィが、今日誰かの誕生日だっけ?と意味不明の言葉を発していたのはご愛敬だ。
時差ボケ気味のアズラィールと左徠は、まだぐったりとベッドの上で泥酔中。
アンジェラは、酔いも醒め、すっきりした顔で子供たちの朝食を手際よく手伝っている。
リリィは…時差ボケが激しいらしく、起きても3分でまたカクンカクンし始めている。
それに比べて、昨日一日ベッドの上で映画を見ただけのリリアナとアンドレの元気のいいこと…。リリアナは出産後も食べる量がおさまる様子が無い…。
「あらやだ。ちょっとこのフルーツ、おいしすぎ。」
とリリアナが言えば、マリアンジェラがすかさず後を追う。
「しゅっごーい、強烈においしい。リリアナ、大正解。」
二人は大食い仲間のように朝から爆食いをするのだった。
美味しいと聞けば食べてみたいのが心情だが、ライルは生身の肉体を持っていないため、味がよくわからない。リリアナとマリアンジェラの話を聞けば聞くほど、興味をそそられていた。
そして、リリィがトイレに行った時にライルは動いた。
自分の部屋に行ったと見せかけて、トイレの中に転移する。
騒がれないように、いきなりリリィの口をふさぎ、耳元でささやいた。
『ごめん、リリィ、フルーツを味わいたいから、融合してくれ。』
そう言うと自分の唇を噛んでリリィの唇にもかみついた。
パンツを下げかけていたリリィだったが、なんだか早くフルーツを食べに行かないといけない気がして、パンツをあげて、トイレから出た。
「あ、手は洗っとくか…。」
そそくさと朝食の前に座り、さっきリリアナが言ってたフルーツを取り分けて食べる。
「ん?何これ?クリーム?果物?」
へんてこな味に驚きつつも何かを確認する。チェリモヤという果物らしい。
その他にもいつもと違う朝ごはんを堪能し、無言で食べ漁る。
「リリィ、なんだかいつもよりすごい勢いで食べてるよね?」
リリアナが指摘すると、マリアンジェラがすました顔で言った。
「ライルが入ってるのよ。食べ物目当てで。ね?」
『ドキッ』なんでバレてるんだ…。トイレに逃げようとしたら」腕をガシッとアンジェラに掴まれた。『おおっ、なんだ…』
「リリィ、座りなさい。」
ちょっとびくついて座ると、アンジェラが優しく濡れたタオルでパジャマの襟のところについてる血を拭きながら言った。
「ライルも無理やりじゃなく、もうちょっとスマートにできないのか?」
「む、無理やりじゃないもん。」
「話し合ってから決めたのか?」
「そ、そうでもなかったけど、私も食べたかったから…。」
「ならいいんだが…。」
ちょっと怒られて、シュンとしてると、目の前にリリアナがお皿に乗っている丸い食べ物を置いた。
「これ、最高だから、騙されてみてちょうだい。」
「え?」
食べるとチーズ?芋?コロッケ?よくわからないけど、おいしい揚げ物だった。
ポンデケージョと言うらしい。思わず顔がニヤニヤしてしまう。
「おいちい。」
それを聞いたリリアナはうんうんと頷き、さすが味覚が私と同じだけあるわ。と言いながらさらに食べまくっていた。
朝から胃もたれしまくりの朝食だった。
トイレに行って、そこでライルとリリィは分離した。
「リリィ、ごめん。」
「大丈夫だよ。でもトイレ終わってからにしてほしかった。漏れそうだし。」
僕の存在を気にせずトイレで用を足すリリィにため息を残して転移で自分の部屋に引っ込んだ僕だった。
どうにか泥酔から二日酔いに変わったアズラィールと左徠を起こし、朝食をとらせる。
「味噌汁とかおにぎりがいいな。」
とわがままをいう左徠にミケーレが荷物からパッケージを1つ取り出して渡した。
「じゃ、これあげる。」
お湯で戻すとおにぎりになるレトルト食品だ。
アンジェラが文句も言わずお湯を注いで左徠の目の前に置いた。
数分後、ちょっと微妙な熱々のおにぎりができた。
「すごいものが売ってるんだな…。」
海外なんてほぼ行ったことのない左徠の感想である。
今日も朝から全開の僕たちのVACATIONだ。




