354. VACATION(1)
プールに入り子供達と散々ビーチボールで遊んだり、泳いだりしていたが、いい加減2時間も経つと飽きてきた。
アンジェラはパラソルの下でスパークリングワインをがぶがぶ飲んでいるし、リリィは子供達の動画撮るのに夢中だ。
マリアンジェラがアンジェラのところに行って耳打ちすると、二人でどこかに行ってしまった。ミケーレも疲れたようで、休憩するという。
僕もプールはもういいやと思い、部屋に戻ってシャワーを浴びて、あの家族でお揃いのリゾート風の洋服に着替えた。一人でいれば平気だけどな…全員で同じ格好はイタイな。
部屋の外でマリアンジェラの話し声が聞こえたので出てみた。
どうやら電池切れのようだ…。
お腹がすいて動けないと言ったらしい。
アンジェラに着替えさせてもらい、食事が運ばれてくるのを待っている。
ソファに座るアンジェラに抱っこされて、いつになくぐでっとしている。
まぁ、子供らしい感じだ。
「パパ…。まだ来ないね。」
「そうだな。」
「パパ…。もう来るかな。」
「そうだといいな。」
「パパ…。どうしてこんなに遅いんだろうね。」
「…。もうちょっと待てるか?」
アンジェラは忍耐強い男だ。認めよう。僕なら『あ~、もううるさい。』と言ってしまいそうだ。そこへ、リリィが入ってきた。
「おなかすいちゃったの?」
「うん、死ぬかも。」
「じゃ、これ食べる?」
リリィがカバンからバナナを一本取り出した。
「ぷっ。なぜ、バナナ…。」
僕は思わず言ってしまった。
「え?だって、テーブルの上にこれだけ残ってたんだよ。2週間もそのままにしたら大変なことになると思って、持ってきた。」
バナナは出した瞬間にマリアンジェラによって捕食された。
「2秒でなくなった。」
その時ようやくルームサービスがやってきた。ものすごい量のステーキとポテトとサラダ、そしてブリトーなんかもいくつかワゴンに載っている。アンジェラがミケーレを呼びに行った。ミケーレの体を拭くと、アンジェラがブリトーを手渡した。
「夕食まで少し時間があるから、ちょっと食べておきなさい。」
「はーい。」
ミケーレがブリトーを食べる横で、マリアンジェラは肉をガツガツ食べている。
さすがに分厚い肉を三枚程食べた後、ちょっとペースが落ちた気がしたが、それは夕食のためにお腹を空かせておくべきか葛藤しているらしかった。
その後、更に2枚の肉をたいらげていた。
絶対フードファイターになったら世界一だと思う。
リリィがブリトーを持って、リリアナとアンドレにも渡してきた。
その少し後でリリアナ達の少し大きい声が聞こえた。
アンジェラが慌てて部屋に入る…。
「お前たち…大丈夫か?」
「あ、ははは…すみません。よそ見しているうちに子供たちがブリトーを食べてしまっていて…焦ったものですから…。」
生後2か月のわりに1歳児くらいの大きさになっている赤ちゃん達…ベビーサークルに掴まり立ちをして、皿の上のブリトーを掴むと、豪快に食べてしまったようだ。
もっとよこせとばかりに唸っている。
もしかしたら普通に食べられるんじゃないかと思うけど、こればっかりは心配だからね。
そこで、リリィが爆弾発言。
「マリーとミケーレも生後2か月だったら普通になんでも食べてたよね?」
アンジェラはスマホの写真を見せて言った。マリアンジェラがチーズバーガーをかじってる写真だ。
「パンとかチーズくらいは大丈夫そうだな。」
もはや、常識なんて通用しないね、ここの子たちは…。
その後、普通に夕食もルームサービスで頼み、皆で平らげ、ぐうたらタイムだ。
ミケーレとマリアンジェラのリバーシ対決をまったりと見守りながら、いつもより家族と距離が近いな…と思いつつそれもなんだか心地いい。
そんな時、僕のスマホにメッセージが入った。
『ライル、君、今フロリダのホテルにいるんだろ?』
ウィリアムからだ。どうしてわかったのだろう?
すぐに次のメッセージが来た。
『売店で水着を買っているところを客に隠し撮りされてSNSにアップされているぞ。』
ちっ、痛恨のミスだ。仕方がないから返信する。
『今日の午後に来たばかりだよ。撮られてるとは思わなかったな。』
『いつまでいる予定だい?』
『2週間ほどらしいよ。』
そんなやり取りの後、電話がかかってきた。アズラィールからだ。
「ライル、今フロリダなのか?」
「そうだけど、どうして?」
「SNSで見た。」
「親戚エゴサーチ、怖いよ~。」
「僕も行きたい、左徠も休みだしさ、迎えに来てくれよ。二人なら泊れる?」
「スィートだから、寝室が僕と一緒でいいなら二人位は平気だけど…。」
「じゃ、早く頼むな。お前の部屋に行ってるから。」
そう言って電話は切れた。
アンジェラに一応聞いてから行くことにする。
「アンジェラ、アズラィールと左徠がこっちに来たいって電話が来たんだけど。」
「しまった。何も言わずに来てしまったな。来るのはかまわないが、父上は学校を休んで大丈夫なのか?」
「何も言っていなかったよ。」
とりあえず、迎えに行った。二人で普通に荷物持って待ってた。二人を連れてすぐに戻ってきた。
「アズラィール、お爺様たちにちゃんと言ってあるんだよね?」
「あ、今からメッセージ送っとくから。」
そう言って、アズラィールがメッセージを送った。事後報告かよ…。
アンジェラがアズラィールを気遣って聞いている。
「父上、旅行に出る報告を忘れていました。食事が必要であれば、すぐ手配いたします。」
「あ、大丈夫だよ。朝飯食べたばかりだから…。それに、急にお邪魔しちゃってるのこっちだし…。あとで一緒に酒でも飲もうよ。」
そう言って、二人は水着に着替え、ライトアップされたプールに入りに行った。
生きのいいのが増えて、明日からの子供の世話が楽になりそうだ。
なにせ、本物のおじいちゃんだからな。
1時間ほど本気で泳いでいた二人は、プールから上がって着替えると、アンジェラが用意したスパークリングワインとつまみで大宴会状態に突入した。
アンジェラは昼間っから相当飲んでいるけど、大丈夫なのか?
宴会の話題は結局、昨日のドローン落下事故だ。アズラィールがリリィを見て腕を掴みまじまじと観察する。
「リリィ、昨日のドローンがぶつかったところは大丈夫なの?」
「あ、うん。アズちゃん。私、体を置いて行ったから怪我してたように見えるけど、大丈夫なんだ。」
「うわ。体を置いてくとか実際に起きてたとしたらホラーだよ。な?」
つまみをむさぼりながらジュースを飲んでいたリリアナが大きく頷きながら言った。
「本当よ、ホラーだったわよ。ね、アンドレ?急にガクッとかなって、白目むいてて…。さぶっ。」
アンドレは楽しそうに頷いて、最近ちょっとずつ飲み始めたスパークリングワインをちびちび飲んでいる。
「マジか~、しかし、なんであの白い髪の毛で出て行ったんだ?」
「プラチナブロンドって言ってよ。あの姿が本当は今のデフォなんだけど、皆が嫌がるからこの姿をしてるのよ。」
「父上、逆にあの姿で良かったんですよ。今のこのリリィで出てしまったら、また妻が天使だと大騒ぎになったでしょうから…。」
「まぁ、そうか…。」
夜更けまでそんな大人の座談会は続いたのだった。




