353.ど~だ、ど~だ、ど~だ
夕方4時頃、リリアナとアンドレが戻ってきた。
彼らは里帰りで500年前のユートレアへ持って行くお土産を買いに行っていたらしい。
里帰りがいつもより長い一週間なのは、現在生後2か月になる双子のお披露目パーティーがユートレアの新城で行われる予定だからだそうだ。
何を買ったのかと思えば…、グランドピアノがアンドレ達の部屋のど真ん中に置いてあった。
「これ、お土産?」
僕がそう訊ねると、リリアナは嬉しそうに言った。
「そうそう、いいでしょ。500年前だとまだピアノはないのよ。」
「それって大丈夫なの?歴史を変えちゃうとかにならない?」
「どうせあの人たちが弾けるわけないから、行ってるときだけ使うのよ。」
「はぁ…。」
その他には、数点の絵画…。
「これって…。」
「わかるぅ?昔のアンジェラ画伯に描いていただいた私たちの絵よ。」
王様と王妃の衣装を着たアンドレとリリアナのツーショットと、子供たちを抱いた二人、そして、なんだこれ?
「なんでマリアンジェラの肖像画まであるの?」
「マリーは500年前のユートレアではもう信仰対象になっているのよ。」
リリアナがちょっと笑い顔で言う。
「マジか…。」
「マジだ。」
アンドレも笑い顔だ。いったいそれはなんていう宗教だよ…と思ったが、それ以上突っ込むのはやめた。
更に1時間経って、リリィが呼びに来た。
「ライル、もうフロリダに行くって。」
さっきのわけわかんない状態からは脱したようだ。さすがに走ってきてボディアタックはされなかったけど…。
「あ、うん。ありがと。リリィ、ちょっといい?」
「なに?」
僕はリリィに近づいて、ワンピースに血がついていた辺りの腕を見た。
特に傷は無さそうだ。
「リリィ、昨日、怪我したのか?ワンピースに血がついてただろ?」
「あ、あれは…。」
「なんだよ、言ってごらん。」
「チョコ食べすぎて、鼻血が出たのよ。」
「ぷっ。マジ?」
「マジよ。」
融合した時にそんな記憶が流れて来なかったな…と思いながら思わずリリィをぎゅっとしておでこにチューしてしまった。
「リリィ、心配かけないでくれよ。」
心なしか、リリィの目がキラキラしている気がする。
「えへへ。次からは気をつけるもん。」
なんだか、無邪気で子供っぽいのが、本当にかわいい。
「じゃ、行こうか…。」
「うん。」
アトリエに行くと、皆は持って行くものを一カ所に置いて、着替えて待っていた。
ミケーレとマリアンジェラとアンジェラは思いっきりペアルックだ。
以前指摘したからか、柄のないダンガリー生地のアロハシャツと、白いハーフパンツに三人共サングラスをしている。正直ウケる。かわいすぎ。
リリィはアロハシャツと同じ生地のワンピースを着ていた。
「はい、これライルの分。」
リリィから紙袋を渡された。中身はお揃いの服だった。うわ。僕までペアルックかよ。
そこにリリアナとアンドレと赤ちゃんが来た。
すごい、色違いだ。濃い色のシャツを着ている。
そして皆で一気にフロリダの高級ホテルのスィートに転移した。
着いてからアンジェラがホテルのフロントに内線で電話を掛ける。
「今、着いたから、支配人に来るように言ってくれ。」
数分後、支配人が慣れた様子でやってきた。
「ご無沙汰しております。アンジェラ様。ごゆっくりお過ごしください。
プールは、こちらのドアから出て、直接行けるようになっております。
お食事は、お部屋でとられるか、レストランの個室がご利用になれます。
プールサイドに給仕がおりますので、お飲み物など必要な場合はお伝えください。
あと、ライル様にウィリアム・サンダース様から定期的にお電話がありまして、ライル様がこちらに滞在されるときにはぜひ連絡を頂きたいとのことです。」
「ありがとう、さがっていいぞ。」
支配人が出て行くとアンジェラが言った。
「ライル、あのウィリアムってのは本当にしつこい男だな。」
「まぁ、そうだね。」
「気をつけるんだぞ。」
「うん、大丈夫だよ。僕にはクスリや、毒も効かないからね。」
アンジェラは頷くと、これからは自由時間だから、好きにするようにと皆に伝えた。
リリアナとアンドレは自分たちの寝室に入って、持ってきたポテチや飲み物を片手に、部屋でいきなりの映画鑑賞をしているようだ。
『ダダンダンダン、ダダンダンダン…アスタラビスタ、ベイビー』
僕は、しばらく経った時に漏れ聞こえてきたセリフにガクッとなった。これ、この前マリアンジェラが言ってたやつだな。後から聞いたところによると、アズラィールに預けられた時にミケーレとマリアンジェラはアズラィールのパソコンで映画を見まくったらしく、リリアナに面白かった映画を教えてあげたらしい。
どうやらプールよりも大画面での映画を楽しみにしていたようだ。
赤ちゃん達はベビーサークルの中で遊んでいるようだが…。
子供たちは、あっという間に服を脱ぎすて、水着姿になっていた。
かわいいセーラー系の水着だ。帽子まで水兵っぽい。
リリィは僕が勝手にサイズを合わせた白いビキニだ。
アンジェラは普通の黒いトランクス水着だ。
そして僕の水着…、あれ?無いぞ。おかしいな…。お店で買った紙袋のまま持ってきたのだが、中身を全部出すと、一番底にあったのは…いわゆるブーメランと呼ばれるど~だパンツだ。
しかも、リリィとお揃いの白だ。
おかしい。僕が選んだのは、紺色のトランクスだ。リリィを捕まえて聞いてみると…。
「え?知らないよ~。お兄ちゃん、バチが当たったんじゃないの?意地悪言うからさ…。」
そう言って薄く笑っている。
やられた。これは絶対にリリィだ。くそ~。
仕方なく、白いど~だパンツを履いてプールサイドに…。
マリアンジェラが両手で顔を覆った。そして、指の間からチラチラ見ている。
「やっぱ、無理。」
僕は着替えてフロントの横にあるブティックへ行き、水着を買った。
紺のトランクスだ。
部屋に戻り着替えてからプールに出たが、マリアンジェラが近づいてきて聞いてくる。
「さっきの水着やめたの?」
「あぁ、あれ、恥ずかしかったから、下で違うの買ってきたよ。」
「そうなんだ…。素敵だったのに。」
「え?」
「マリーがパパに買ってってお願いしたやつだったんだ。ライルに似合うからって。」
お前か…犯人は…。じゃあ僕の選んだ水着はどこへ行ったんだ???
心を落ち着かせながらマリアンジェラに聞いた。
「じゃあ、僕の選んだやつはどこにいったんだろう?」
「もう一個の袋に入ってるんじゃない?全部で3セット買ったから…。」
アンジェラの寝室に置いてあった袋に僕の紺色のトランクスはあった。
隠したのはリリィだ。
やられた。いたずらされたのだ。
そんなこんなで夏の暑い一日は過ぎていくのだった。




