346. アンジェラにハメられた
6月14日、月曜日。
ライルの夏休み三日目である。
昨日の日曜日、僕は、特になにもせず普通の週末のように過ごした。
事前にアンジェラに夏休みも仕事を意欲的にやりたいと言っておいたせいか、週に一度は撮影の予定が入っていた。
暇で時間を持て余すよりは、お金も稼げて丁度いいと思っていたが、直前になってから入れられる仕事もあるらしく、基本的にはずっと空けておいてくれと言われている。
まぁ、正直なところ、僕達は親族以外の人たちとはあまり関わり合わない方がよいと考えている。僕たちの秘密がバレたら、また狙われることもあると思うからね。
基本的に、家でのんびり過ごすのがいいだろう。
そう言えば、昨日も今日もアンジェラを見ていない…。少し心配になり、リリィに聞いてみたのだが…。
「リリィ、アンジェラは?」
「地下のスタジオで創作活動中だって。」
「創作活動?」
「うん、多分ね、曲作ってるんだよ。」
「そっか、そういう方面の仕事ね…。」
「多分、そろそろ出てくると思うよ。」
「なんでわかるの?」
「アンジェラの匂いがするもん。」
「え?匂い???」
そう言ってる途中で、ギ~ッという音と共に隠し部屋の扉が開き、アンジェラが姿を現した。リリィがすごい勢いで駆け寄り抱きついている。
「アンジェラ、解禁~。」
ぐりぐり顔をこすりつけるリリィをひょいとお姫様抱っこして、寝室に入って行ってしまった。僕は廊下にポツンと一人…。取り残された感じだ。
うわっ、なんだか嫌な感じ…。二人がこれから何するのかは知らないけど…。
僕はものすごく嫉妬したのだ。
ムッとして自分の部屋に行こうとしたその時、アンジェラの寝室のドアが開いた。
リリィが顔だけ出して僕を手招きする。
「なんだよ。」
「いいから、早く。」
ちょっとふてくされて、寝室に入って行くと、アンジェラがタブレットを持ってソファに座っていた。
「ライル、ちょっといいか?」
「なに?」
「この曲、どう思う?感想を聞かせてくれないか?タイトルは『BLUE』だ。」
そう言ってアンジェラは地下で撮影された動画を見せてくれた。
『いつもと同じ朝が、違う色に変わり
いつもと同じ空気が、違うにおいに変わる日
僕だけを見つめていた その君の瞳が
遠く手の届かない先を 見つめている
穏やかな なつかしい日々を 夢で見る時には
君のあふれる笑顔が 僕の瞳を 見つめる
ブルー 僕の心は
深い海の色の ブルー』
動画を見終わって、ライルをリリィとアンジェラが見つめる。
「鳥肌立った。悲しい感じだけど、心に響きそうだね。」
「この曲、ライルに書いたんだ。歌ってみないか…。」
「えっ…。やだよ。」
「そう言わずに…。」
「どうして僕になんだよ。」
「ライル、お前、自分で気づいていないだろうが、リリィと離れて寂しいんだろ?」
「「えっ?」」
ライルとリリィがシンクロした。
「お前たち、一緒にいる時はずーっと目で追ってるだろ。リリィはライルが見当たらないと探し回るし…。そして、さっきリリィを私が抱き上げた時のお前の顔…ひどかったぞ。」
「う、うるさいな~。もぅ。」
「シスコンの歌ってところだ。どうだ、売れるぞ。シスコンは内緒にしてやるから安心しろ。どうだ…。黙ってれば、初恋の相手が遠くに行っちゃった系の解釈になるはずだ。」
どっちにしろ恥ずかしすぎる…。しばらく固まったままでいると、アンジェラが急に興味を失ったように言った。
「じゃあ、これはジュリアンに歌わせることにするよ。悪かったな、ライル。」
えっ?何?何…この展開…。すっごい気持ち悪いったらないんだけど…。
僕の中に変なモヤモヤが発生する。そこでリリィが手を挙げた。
「はい、はーい。」
「ん、なんだ?」
「あのぉ、これ私が歌っちゃダメかな?」
「「はぁ?」」
アンジェラとライルがシンクロした。
すると、いきなりリリィがライルの姿に変化し、さっきの歌を口ずさむ…。
「リリィ、お前…。歌、めちゃくちゃ上手いな…。」
アンジェラが僕の姿になっているリリィを褒めた。
僕も、実は思った…歌も上手いけど…なんだろう、この変な気持ちは…。
僕の姿で歌っている、その歌が、アンジェラのデモ動画よりもめちゃくちゃグッとくる。
「これは、ヤバい…。」
思わず言ってしまった。
「だろ?どっちでもいいからライルの姿で歌ってくれないか?」
結局、すったもんだの末、僕が歌うことになった。
配信する動画には、マリアンジェラとのからみと僕の歌っている様子を混ぜて編集するという事になったのだ。
はめられた…完全にアンジェラの手の上で転がされている気がする。




