345. 今のリリアナに足りないもの
そんな初対面を終え、リリィとアンジェラが徠夢と留美にプレゼントを渡した。
赤ちゃんのファーストシューズだ。
側面に天使の翼の形の飾りがついている。アンジェラがデザインして作らせたものだ。
「ありがとう。もう少し大きくなったら履かせるよ。」
「うん、父様も子育てがんばって。」
リリィが言うと、徠夢が恥ずかしそうに頷いた。
それにしてもよく泣く。ずーっと泣いてる。その時リリィが徠夢にアドバイスした。
「父様、動物と会話できるわよね?」
「あ、あぁ。それがどうした?」
「同じよ、赤ちゃんも。そういうつもりで心で話しかけるとわかってくれるみたい。」
「…?そうなのか?」
早速徠夢は試してみたが…。赤ちゃんは泣き止まなかった。
「リリィ、余計に泣き始めたみたいだぞ。」
アンジェラが薄ら笑いを浮かべて言った。ちょっと首を傾げてすっとぼけてたリリィだったが、急に留美に耳打ちして、徠沙を抱っこさせてもらった。
「うわ、軽い…。ちっちゃい。」
リリィが抱っこすると、リリィの体と赤ちゃんの体が緑色に光った。
皆ぎょっとしたが、緑は能力のない人の証なので、それの何を受け取ったのか…気になるところではある…。不思議なことに赤ちゃんは泣き止んで、リリィの顔をガン見している。
「え?うそ…マジ?」
そう言ってリリィは徠沙を留美にそそくさと返して言った。
「うんち出てるって。」
皆、一斉にガクッとなった。アンジェラはリリィに聞いた。
「さっきの緑の光はなんだ?」
「うーん、なんだろう…。あいさつ、てきな…。」
更にガクッとなったが、リリィらしくて憎めないなと思ったのだった。
その後、久しぶりに皆で徠神の店へ行き、昼食を共にした。
小さいライルが来ていたころは毎日のようにここで昼食を取り、時間をつぶしていたリリアナはあの頃のことを思い出して言った。
「私達に最近足りないものがわかったわ。」
「え?何、なに?リリアナ、すごい自信満々に発表するわけ?」
リリィがふざけて突っ込みを入れると。
「外食よ。毎日家でご飯食べてるでしょ。おいしいけど、飽きるのよ。いくつもの選択肢から選ぶ自由。そして、足りないときに追加できる幸せ。これだわ、今の生活にないものは…。」
アンジェラはあきれて言った。
「いつでも来たらいいだろう。別に誰もダメだとは言っていないぞ。」
そこにニコラスが来た。
「殿下、リリアナ妃殿下、お久しぶりでございます。」
「ニコラス、その呼び方はよせ。お前は私の弟ではないか…。」
アンドレは苦笑い…。ニコラスは赤ちゃん二人を抱っこして叔父バカぶりを発揮中。
「か、かわいいですね。赤ちゃん欲しくなっちゃうな~。」
「え?ニコラスには、子供が二人もいるじゃないの。」
リリィが突っ込むと、ニコラスは大まじめな顔で言い返した。
「大きくなるとかわいくないんです。」
「なるほど…。」
そこですかさず反応したのはマリアンジェラだ。
「マリー、もう大きいからかわいくない?」
アンジェラがマリアンジェラの顔を覗き込んで言った。
「マリーは大きくなっても、パパにとっては世界で一番かわいいぞ。」
「パパ…。」
マリアンジェラは嬉しそうに頬を赤らめている。アンジェラがそれを本気で言ってるところがすごい…。とライルは横目で見ながら思ったのだった。
二時間ほどで食事を終え、家に帰ることになった。
リリアナは満足したようで、また時々来ると宣言していた。
アンジェラは、乳母を増員してリリアナの自由時間を作るように配慮したようだ。
家に着くなり、アンジェラはあの地下の隠し部屋に入って仕事をするから入って来るなと言ってこもってしまった。
かまってもらえなくなったリリィは暇そうにしていたが、ミケーレとマリアンジェラと共にサンルームの外のバックヤードでボール遊びを何時間もする羽目になったようだ。
「ライル、助けて~。もう動けない…。」
そう言って四つん這いになったリリィをベッドに運び筋肉痛を癒してやった。
「普段ぐうたらしているのに急に激しく動くからだろ…。」
「てへっ。」
なんだかんだ言って、リリィもライルに甘えているのである。
ライル夏休み初日にしてかなりバタバタな一日を終えたのである。




