表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
344/696

344. 普通の赤ちゃんと普通じゃない赤ちゃん

 5月17日、日曜日。

 リリアナの出産から六日経った。日本と違い、イタリアではあまり長く病院には滞在しないため、出産から三日後には家に戻っていた。

 朝、お手伝いさんが用意してくれた朝食を皆で食べていると、リリアナがフラフラしながらダイニングにやってきた。

 目の下にクマができ、心なしか痩せた気がする。

 アンジェラが気を遣って声をかける。

「リリアナ、眠れないのか?」

「…え、何?」

 聞こえなかったのか…かなりテンパっている。

 朝食を山のように食べ、またフラフラと部屋に戻って行った。

「ホラーだな。」

 ライルがポツリと言った。リリィも頷いた。

「ちょっと様子見てくるね。」

 リリィがそう言ってアンドレとリリアナの部屋に行った。

 とりあえず設置されたベビーベッド2台に赤ちゃんが寝かされている。

 今はスヤスヤ眠っている様だ。リリィがリリアナの側で、そっとリリアナの頭を撫でるとリリィの掌から白い光が発せられ、リリアナはスッと眠りに落ちた。

 アンドレは少し驚いた様子でリリィを見たが、何も言わずにいた。

「アンドレも少し寝ていいよ。私が見てるから。」

 リリィが優しく微笑むと、アンドレも安堵して、座ったまま眠りに落ちた。

 二人をそーっとベッドに寝かせ、リリィは赤ちゃん達の側でしばらく様子を見ながら時を過ごした。2時間ほど経った時、赤ちゃんの一人が目を覚まし、お腹がすいたのか泣きそうなくちゃくちゃの顔をした時、リリィはそっと赤ちゃんの頬を触った。

「お腹すいちゃった?それともオムツ気持ち悪いのかな?」

 リリィが言うと、赤ちゃんはリリィの目を見た。

『おなかすいた』

 リリィはちょっと驚いたが、ふと自分の能力を考えた、動物と話せるんだから、赤ちゃんと話せてもおかしくないよね…。

「ライアン、ちょっと待っててね。ママを起こすよ。」

 リリィはリリアナの頭にそっと手を当て、撫でた。

 リリアナはパチッと目を覚まし、きょろきょろと周りを見回したが、リリィを見て安心したのか、深呼吸をすると、言った。

「あ、の、ありがと。」

「何もしてないよ、見てただけだし。お腹すいたんだって、ライアン。」

「え?」

 ライアンがリリアナを見て、にっこり笑う…。

「か、かわいいっ。」

 リリアナは今までいっぱいいっぱいでかわいいとか思ってなかったようだ。

 ライアンを抱き上げ、ちゅとしてからおっぱいをあげると、不思議なことが起きた。

「え?なんだか、光ってるけど…。」

 リリィが言う通り、おっぱいを飲むライアンが青く光っている。

「どんな能力があるのか楽しみだね。」

 そう言って、リリィはダイニングに戻ったのだった。

 アンジェラが朝食の後片付けを終えて、ダイニングのテーブルで紅茶を飲んでいた。


「リリィ、どうだった?」

「うん。ライアン、ただ者じゃないよ。もう覚醒した。」

「え?そうなのか?」

「落ち着いておっぱい飲んだら覚醒したのよ。すごいわね。うちの子も最初から覚醒してたけど、落ち着き具合がすごいわ。さすが王子様って感じだわ。」

 アンジェラは、なんだかそれを報告するリリィを見ているだけで、胸があたたかく、心地よく感じた。

「おいで。」

 アンジェラが手を広げてリリィに言った。リリィは何の躊躇もなくアンジェラの左の膝に座った。リリィがアンジェラを見上げると、自信に満ち溢れた碧い双眸がリリィを見つめている。それだけで幸せを感じる。

 リリィはアンジェラの胸に顔をうずめアンジェラの匂いを嗅いだ。

「アンジェラはいつも薔薇の香りがするね。」

 リリィが言うとアンジェラは不思議そうな顔をした。

「そうか?特に何もつけていないんだが…。マリーは、私からチーズの匂いがするというぞ。」

『ぶっ。』

 思わず吹き出すリリィ…。

「それってただチーズを食べた後に匂いを嗅がれたってことじゃないの?ははは…」

「そうなのか?」

 うんうん、と首を縦にふって、多分そうだと訴えるリリィだった。


 平和な時間が過ぎ、あっという間にリリアナの出産から一か月が過ぎた。

 2027年6月12日、土曜日。

 ライルが夏休みに入ったのに合わせて、アンジェラ達が日本の朝霧邸を訪問した。

 アンドレとリリアナ、ライアンとジュリアーノも一緒だ。

 同じ日に生まれた叔母と甥達だ。嫌でも比べられることになるだろう…。


 アンドレがジュリアーノを、リリアナがライアンを抱いて朝霧邸に訪問した。

 未徠夫妻はリリィと同じようにリリアナもかわいがってくれている。

 自分のひ孫が二人増えたと本当に心から喜んでくれている様だ。

 その場に左徠もいた。仕事柄、朝霧邸から職場に通った方が都合がよいらしく、いつの間にか徠神の店から戻ってきたようだ。

「左徠、具合はどうだ?」

 アンジェラが気にかけて聞くと、少し恥ずかしそうにしながら頷いた。

「アンジェラ様、いつも気にかけてくださりありがとうございます。」

 リリィは内心『どういう関係?』と思ったが、そう言えば、左徠は芸能関係に絶大な憧れを持っている子だったので、そういう事かな?と思ってやり過ごした。

 リリアナがなんの躊躇もなく未徠に近づきジュリアーノを渡す。

「お爺様、ジュリアーノ・ユートレアです。」

「おぉ、ジュリアーノか、美しい子だな。これは将来、モテすぎて困ったことになりそうだ…。」

 アンドレも亜希子にライアンを渡し言った。

「お婆様、ライアン・ユートレアです。」

「まぁ、パパに瓜二つね。王子さまのオーラが見えるようよ。」

 リリアナもアンドレも嬉しそうだ。

 そして、徠夢のところの子供…徠沙らいしゃと初対面のアンジェラたち…。

 留美が抱く徠紗の小ささに驚きながら、マリアンジェラが挙手をした。

「はい、はーい。」

「何だね、発言したまえ、マリー。」

「パパ、あのぉ、同じ日に生まれてもこんなに大きさが違うのはどうしてですか?」

 確か、生まれた時はどちらも標準的な3000g程度だったと聞いている。

 しかし、たった一か月で大きさは倍くらいになっていた。

 もちろん、大きいのはリリアナの子供達である。下手すると半年以上先に生まれたのかのように見た目が違う。アンジェラは言葉を濁した。

「そ、そうだな…アンドレに似たらでかくなるのかもしれないな…。」

「にゅ?アンドレに似たら???」

 マリアンジェラは脳内思考中…。そこにリリィが来てフォローする。

「マリー、覚醒すると早く成長しちゃうんだと思う。あなたもそうでしょ?同じ年の子の多分倍くらいの大きさだと思うわ。」

「およ?むー…。ママ、すごぉい。知ってるんだ。そうなの。マリー、でかいでかいって言われてるんだよ。かくせいのせいか…。ふふん。」

 妙に納得するマリアンジェラだが、覚醒が何かはわかっていないと思う。


 そう、うちの子は育つのが早く、ある程度の大きさで体の成長を止めるのが普通だ。

 アンドレも20歳になったときに封印の羽のアクセサリーを身に着けるようになった。

 リリアナは基本的にアンドレの成長に合わせて成長しているので自然に任せているが…。

 放っておくと普通の人間より、早く老人になる可能性もあるのだ。

 いい例がライルだ。14歳にして180cmを超え、顔は童顔だが、体はヤバい位でかい。

 ライルもそろそろ封印の羽のアクセサリーを付けないと、あっという間にアンドレよりおっさんになりかねない。


 リリィの答えを聞いたマリアンジェラが、納得しながら言った。

「そっか、じゃあおじいちゃんとこの女の赤ちゃんは天使じゃないんだ…。」

『きゃあ…、マリー、地雷を踏みましたね…。』

 リリィの心の声である。周りの全員が凍り付いている中…徠夢が口を開いた。

「そうなんだよ。今までわからなかったんだけど、これが普通の赤ちゃんなんだって、今思うよ。ライルはすごかったんだな。」

 そう、徠夢は生まれた後、連れて来られたライルの事を思い浮かべて言った。

 お腹がすいても、おむつが汚れても、一切泣くこともぐずることもなかったライルが、どれだけすごいかって、本当にわかったらしい。

 留美に抱かれながらうぎゃうぎゃ泣き続ける徠紗らいしゃを見ながら、ライルは少し心の中で思うものがあった。

『どっちが幸せかは、本人しかわからないものだね』

 何も知らず、生かされる子供時代を過ごすか、全てが自分の手中にあると思いながらも善い行いをして過ごすかの違いである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ