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342. ビバ出産

 ブラザーアンジェラとJC瑠璃リリィがあっちの世界に帰り、紫色の表紙の絵本を見つけてから約二週間、特に問題もなく日常が過ぎて行った。

 日本はゴールデンウィークで休日が多かったせいか、徠神のレストランはめちゃくちゃ混んでいたらしく、リリィとライルは時折『バイト』に駆り出された。

 そんな多忙な日々からもようやく解放された5月9日、土曜日の夕方6時過ぎ。

 学校も休みで、朝から超ダラダラな生活をするライルに、リリィが訳の分からない突っ込みを入れて、なぜかバックヤードで喧嘩をしていた午後のことだ…。


「もう、いい加減にしなよ、ライル。寝なくてもいいくせになんで24時間も何もしないでぐうたらしてんのよ。そんな時間があるんなら色々と手伝いなさいよ。」

「いやいや、リリィ。そういうのめっちゃくちゃウザいって、リリィだって僕の代わりに学校に行って大変なのわかってるはずだろ?何を今更、そんなこと言って僕をこき使おうとするわけ?」

 それを横目で見ながら、アンジェラはマリアンジェラとミケーレが将来、こんな喧嘩をするようになったら嫌だな~と思うのであった。

「お前たち、もういい加減にしなさい。別にぐうたらしていてもいいが、家族で食事をすると決めたら時間を守って出て来ればいい。リリィ、お前もどこぞのお母さんみたいにギャンギャンとうるさいと思われても仕方ないだろう?もう、やめなさい。」

「「むぅ…。」」

 リアクションはリリィもライルも一緒、機嫌悪いのは全く一緒だ。

 なぜ、機嫌が悪いのか…がそもそもわかってなかったせいもあるのだが…。

 実は二人はここ5日ほど、忙しくて統合できていなかった。

 二人はお互いを必要としているのだ。くっついていないと安心できない…だがそれをわかっていない…。


「パパがママとライルのお父さんにもなっちゃったみたいだね。」

 そう言ったマリアンジェラの言葉に、ちょっと複雑な気持ちのアンジェラだった。

 その時、家の中からミケーレがすごいスピードで走ってきた。

「ねぇ、みんな大変~、リリアナがお腹が痛いって…。パパ、来てってアンドレがパニックだって。」

 そりゃあ大変だ…。あわてて皆で駆けつける。

 アンドレはおろおろするばかりで、リリアナもいつもの勢いがなく、とても苦しそうだ。

 リリィは自分も一度出産しているのにも関わらず、かなりのポンコツ具合で右往左往するのみだった。アンジェラは、リリアナが出産予定の病院に電話をかけた。

「はい、痛みを訴えているようなんですが…あぁはい。あ、そうですか。わかりました。

 はい、お願いします。」

「ねえ、なんだって?どうするの?」

 リリィがそう言いながら、落ち着かない。

「双子だから、万が一の事を考えて、早めに来てくださいと担当医が言っているぞ。

 さあ、準備をしなさい。アンドレ、荷物はまとめてあるんだな?」

「あ、はい。入院に必要なものは、このかばんに入っています。」

「ライル、病院はローマの事務所の側だったか?」

「あ、うん。あそこからタクシーで5分かな。」

「リリィ、タクシー会社にローマの事務所に2台回してくれるように、今すぐ電話だ。」

「はい。電話…電話…。」

 そうこうしているうちに、アンジェラは子供たちを連れ、ライルにはリリアナを、リリィにはアンドレを、マリアンジェラには自分とミケーレをローマの事務所へ転移するように指示した。


 皆、5分後にはローマの事務所の会議室にいた。

 そして、更に3分後にはタクシーが事務所のビルの前に着いた。

 2台に分乗し、病院へ急いだ。

 アンドレはウロウロと落ち着かない。

 しかし、さすがに初産という事もあり、そう簡単には生まれてこない。

 病院のベッドで少し落ち着いたところで、アンドレを残し、他の者は一度家に戻った。

 深夜0時を回り、子供達も眠ってしまっていたからである。

 そうなると喧嘩していたことも忘れ、一時休戦だ。

 素直にリリィとライルは融合し、次の日の出産に備え早々に眠りについた。


 明け方の4時頃、物音で目が覚めたアンジェラは、スヤスヤと眠るリリィ…多分ライル入りをベッドに残し、物音のする方へ進んだ。

 そこには、昨日の夜、ライルが結局食べなかった夕飯の残りを乗せたプレートを冷蔵庫から出し、フォークでかっ食らうマリアンジェラの姿があった。

「マリー、今朝の四時だぞ…。」

「うん、知ってるけど、お腹すいちゃって…。」

「そんな冷たいまま食べたらお腹が痛くなるだろう?」

「あ…。でもマイクロウェーブの使い方がわかんないから…。」

「どれ、少し待ちなさい。温めてあげよう。」

 アンジェラは電子レンジでお皿ごと残り物を温め、マリアンジェラの前に戻した。

「はふっ。んっ。あったかい方がおいちい。」

「そうか…お腹がすいたなら、いつでも起こせばいいのに。」

「え、いいの?起こしても…。」

「もちろんだ。マリーは私の大切な娘だからな。困ったことがあったらなんでも言うんだぞ。」

「うん。ありがと。パパ、大好き。」

 そんなやり取りをしていると、今度はアンジェラのスマホが鳴った。

 メッセージが届いたようだ。

「お、留美が病院に行くようだ。ライルを起こして行かせないとな…。」

 寝室に戻り、リリィを揺すりながら起こす。

「リリィ、起きろ。」

「むにゃ、もうおなかいっぱい…。」

「リリィ、ライルはいるか?」

「ほえ?あ、アンジェラおはよう。」

「ライル、いるか?」

 リリィが3回瞬きをしたら、ライルがベッドの中に全裸で出てきた。

「んっ?何…何か用?っーか、無理やり出すなよ。うわっ。」

 慌ててシーツを巻き付けるライルにアンジェラが冷静に言った。

「留美がこれから病院に向かうようだ。お前も支度して、リリィの分身体を連れて行ってくれ。頼むぞ。」

 頭をカクカクさせて、頷くライルを見て、リリィがむくっと起き上がり、一言。

「あ、そっか。分身体いるんだった。」

 と言って、おもむろにベッドわきのキャビネットの引き出しを開け、中から金色の5cmほどの大きさの球を取り出す。

 自分のパジャマをめくって、ぺろんとお腹を出したら、そこにその球を置いた。

 球がすーっとお腹に吸い込まれていく。

「リリィ、お前、どうして核をそんなところにおいてあるんだ?」

「え?普段使わないから…。だけど。」

 それを聞いたライルが横から全裸で突っ込みを入れる。

「リリィ、置きっぱなしで忘れるの得意だもんな。」

「うるさい、そんなこと言ってると、生のお尻触るわよ。」

「や、やめろ。」

 もう、朝からマジでガキっぽいことをやっている二人である。

「リリィ、さぁ、シャワー浴びて来なさい。その後、分身体に服を着せて、いいね。」

「はーい。」

 リリィは浴室に行き、ライルは裸のまま自分の部屋のベッドに転移した。

 ライルも一応シャワーを済ませ、着替えてダイニングに出てきた。


 朝、5時。さっき残り物を食べつくしたマリアンジェラは、ダイニングのテーブルに突っ伏したまま居眠り中。

 アンジェラは、用意してあったパンとハムとチーズと野菜で手早くサンドウィッチを

 いくつも作ると、二つのバスケットに分けて入れた。

「ライル、こっちはお前が自分の食べる分と徠夢で食べろ。いいな。

 リリィ、こっちはアンドレに渡して来い。電話で病室に人がいないか聞いてから転移するんだ。」

「あ、うん。」

 ライルは日本の朝霧邸にリリィの分身体を連れ、転移して行った。

 朝霧邸では、アズラィールの運転する車で病院まで行ったようだ。


 リリィはバスケットをアンドレに渡して戻ってきた。

「アンドレ、目の下にすごいクマできてた。」

 と薄ら笑いをうかべ、写メを自慢げに見せるリリィ。困ったものだ…。

 昼間は何事もなかったが、夜9時過ぎ、とうとう日本の留美が分娩室に入ったと連絡があった。遅れる事3時間、リリアナも分娩室に入ったとアンドレから連絡があった。

 アンジェラ、リリィ、ミケーレ、マリアンジェラで病院に駆けつける。


 そして、それはほぼ同時…、日本では女の子が生まれ。

 イタリアでは男の子の双子が生まれた。

 日本の女の子は黒い髪に、黒い瞳の留美に似た子だ。名前は徠沙らいさと名付けられた。

 アンドレとリリアナの子供は、なんと、一人は金髪にピンクがかった色がまざり、目は少したれ目で、まるでジュリアンそのもの、そして、もう一人はこりゃまたアンドレを小さくした様なパパにそっくりな男の子だった。

 金髪の男の子はジュリアーノ、黒髪の男の子はライアンと名付けられた。

 ライルとリリィがお互い立ち会った方の赤ちゃんの写真と名前をメッセージで送り合った。

 どちらも笑顔であふれたのであった。


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