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341. 紫色の絵本

 アントニオが書庫に入った時、どこにそんな物があるのか気になったライルは一緒に書庫に入った。書庫の中は奥行きがあり、手前にはガラスケースに入った装飾品や武器防具などが陳列されているが、奥の部屋の中は歴史的に価値のありそうな書籍や専門書と宗教画などの絵画であふれている。

 アントニオは真っ直ぐ奥の書籍のある場所まで移動し、書籍の並ぶ棚ではなく、木箱の様な物が並ぶ棚の前に立った。

 いくつも並ぶ木箱は、オルゴールの様な物や、宝石入れの様な物、細工箱の様な物、そして、単なるレリーフの様な物まで飾られていた。いや、見せるためではないのだから飾っているわけではないのだろうが…。

 アントニオはその中のレリーフの様な薄い物を手に取った。

 それは、厚さ3cm、一辺の長さは20cmほどの物で、天使の姿の彫刻が施された艶のある木材でできた箱だった。

「確か、こんな形をしていたような…。」

 アントニオがそう言ってその木箱を持ち上げた。『カコン』と中で何かが動いた。

 アントニオが天使の彫刻が施された表面積の大きな部分を横にスライドさせた。

「あ、やっぱり、これですね。」

 するっと横にずれた蓋のようになった部分が半分ほど動いたところで、中の絵本が姿を見せた。濃い紫色の表紙の様だ。

 アントニオがにっこり笑って箱ごと僕に手渡した。

「ライル様、どうぞ。お持ちください。」

「ありがとう。」

 そのまま二人とも書庫を後にした。


 アンジェラは書斎で仕事をしていたので、そこに絵本を木箱ごと持って行く。

 僕は、リリィにも声をかけた。

「こんな木箱に入っていたよ。」

 アンジェラに木箱を見せると、アンジェラは思い出したように頷いた。

「確かにその木箱は見たことがある。そんなところに絵本が入っているとは思いもしなかったな。」

 僕は木箱の蓋をスライドさせて中の絵本を取り出した。

「へ、へ、へ…へっ、ぷし。」

 リリィがかなり引っ張った感じのくしゃみを一回した。

 アンジェラがにっこり笑って、ティッシュをリリィに渡した。

『ぶーっ』と思い切り鼻をかむリリィを生暖かい目で見つつ、僕は絵本をチェックした。

 取り出した絵本は濃い紫色で、タイトルは、『怒れる天使』だ。

「ちょっと今までと違う感じだね。」

 僕はそう言って、絵本の中を開いた。

「こ、これは…。」

 アンジェラが少しこわばった表情をした。

「あ、あの宗教団体の教会だろ?」

 僕はアンジェラに確認するように言った。その絵本の一ページ目には古びた教会が描かれており、そこにはこんな言葉が書いてあった。

『狂人の集う家』

 次のページには首に金具を付けられた天使の絵が黒塗りで描かれていた。

『天使をとらえていたのは《永遠の翼》と名乗る狂人たち』

 そして、次のページには、翼をもぎ取られ、体をメスで切られる絵が描かれていた。

『天使を食べる、狂人たち。』


 そして、大きな鳥かごに入った傷ついた天使の絵が描かれていた。

『傷ついた天使は悲しみにくれ』

 更に次のページには大きな翼の黒い影に瞳だけが青くギロリと見える絵だ。

『狂人たちには神の裁きが下る』

 土地が割れ、雷が落ち、火災が起き、建物は地中に沈む絵だ。

『狂人を排除するために怒れる天使が召喚される』


「ん?召喚…?」

 ライルは不思議そうな顔をした。その時、アンジェラが言った。

「そうか、あれは、確かライルの分身体だったか…。てっきりライルかと思っていたが、マリアンジェラと助けに行ったのだよ。召喚というのは、あの奴らを排除するために分身体を創り出したからかもしれないな。」

 ライルも頷き言った。

「危険を回避するためと、自身もインフルエンザで死にかけている時だとわかっていたからね、最初から分身体をよこしてくれるようにちびっこに言っておいたんだ。他に選択肢がなかったんだ。」

 そして最後のページだ。


『怒れる天使は狂人たちの狂気を摘み取り、無に返る。』

 碧眼の小さい天使が、狂人の醜い屍の山の上から天に昇って行く姿が描かれていた。

「最初からやられるのを覚悟で対峙したというわけか…。なんだか悲しいな。」

 アンジェラが言うと、ライルは意外にも違う意見を言った。

「いや、あれはそのまま残るべきではない者だった。アンジェラを否定的に考え、僕たちの在り方や、行動にも不信感を抱き、慈愛のこころなど持たぬマシンの様な分身体だった。

 だからこそ、あの宗教団体に情けなどかけず殲滅できたのだろうけどね。」

「こっわ。」

 リリィは鼻を拭きながら一言言った。

「でも、彼のおかげで皆助かったのだ。」

 アンジェラは最後にそうまとめた。


 これで、絵本は全部で7冊だ。

 アンジェラが、また写真を撮って印刷をした。そして封筒にいれ、倉庫のあの絵画の上に置いた。一瞬で封筒が消えた。

「全く、不思議なことがあるもんだな…。」

 アンジェラは一緒に後ろにくっついてきていたリリィに聞こえるように言った。

「そうだね~。迷子になっちゃうもんね~。」

 なんだか、ライルと分離して以降、以前にも増してリリィがそそっかしくて、無邪気で、天然丸出しな気がしてならない…。

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