34. 疑惑
父様と徠人と僕の三人でショッピングモールに行った。
主な目的は徠人の身の回りに必要な物を買うためと父様は言ったが、徠人が社会に慣れるためというのもあるだろう。
駐車場に車を停め、歩いて場内を移動する。
ヤバい、そこら辺にいる人全員がほぼ振り返る。
それじゃなくても僕らは目立つ。
そして、振り返る全員が最終的に徠人に目が釘付けになり頬を赤らめている。
「それって、能力の一つかなんか?」
僕は徠人に半分嫌味で聞いた。
「おまえ、嫉妬してるのか?俺が美しいから。」
「自意識過剰だろ。あんた。」
「あ、おい。ちょっと肩貸してくれないか。」
徠人が急によろめき僕に助けを求める。
仕方がない、側に寄って顔を覗き込む。
がばっ、と僕の肩にうでをまわし徠人が体重をかける。
なんだ、もう疲れたのか?と思って隙を見せてしまった。
「ありがと。」
徠人が僕の耳にキスして言った。
げー、キモイ。やだやだやだ、この人絶対僕で遊んでる。
僕は思わず誰かに見られてなかったか周りを見回した。
「あ…。」
そこには、クラスで一番かわいいと言われている「橘ほのか」がいた。
ヤバい、見られた。最悪だ…。こっちをガン見しているではないか。
急いでその場を去る。あぁ、もういやだ。
徠人はその後、やたらと高級な服をバンバン父様に買わせた。
何だよ、おしゃれ番長か?ファッションショーでもするつもりか?
「あ、これってもうちょっと小さいのある?」
徠人が店員にサイズを小さいのを要求している。着れないだろ、あんたでかいんだから…。
店員が小さいサイズを持ってきたら、徠人が僕にそれを渡してきた。
「試着しろ。」
「なんで命令すんだよ。」
「いいから、着てみろ。」
「父様~。もうやだ、この人~。」
「ライル、徠人はおまえに買ってあげたいんだよ。いいから着てごらん。」
こわっ。父様、どうやったらそれがわかるっていうんですか?この状況で。
遠い目になりつつ試着した。そして、結局徠人は僕とお揃いの服を買った。
「ペアルックだな。」
「やだよ~。」
買い物もひと段落したところで、徠人が思い出したように僕の服を引っ張る。
「なんだよ。」
「ドーナツ、食いに行くぞ。」
そう言うと徠人はスタスタと先にドーナツ屋さんへ歩いて行った。
あれ、絶対アダムの時の記憶あるやつだ。しかし、ドーナツへの執着恐るべし。
徠人が一人で歩いて行ってしまった時のことだ。
突然、喜色ばった高校生くらいの女子三人が徠人の前へ飛び出してきた。
「あ、あの。お名前聞いてもいいですか。」
「…。」
徠人、ガン無視、からのまっすぐユーターンしてきた。
そして、また僕の肩に腕を回し、僕を引き寄せて耳元でささやく。
「おい、あれ、何とかしろ。」
何とかしろって言われたってさ、どうにもできないよ。
「無理でしょ、そんなの。」
と僕が言い終わる前に、徠人は今度は僕の額にキスした。
肩に回してた腕が、腰に絡められてるし。
僕は、背筋が凍ったままその女子高生の方を見た。
あぁ、そうですね、そうですよね。あきらめますよね、目の前でどう見てもそれ系のことしてるの見たら、はい、さよーなら~。
女が寄って来ないように僕を利用してるってことか…。
それにしてもキスはやめて欲しい。気持ち悪い。
どうにかその場を切り抜け、ドーナツ屋さんでドーナツをイートインで堪能した様子の徠人がその場で父様に話し出す。
「徠夢、おまえ、俺たちに隠してることあるだろ?」
「…。何言い出すんだい徠人。そんなことあるわけないだろう?」
「じゃあ、おまえ俺たちの父親の双子の弟がどこに埋葬されてるか知ってるか?」
「えっ?それは…。実は知らないんだ。」
「じゃあ、徠夢。お前と同じベッドに寝てるあの女の事、どこまで知ってる?」
「はぁ?杏子のことをあの女とか言わないで欲しいよ。どこまでって何を言ってるのかわからないけど、結婚してるんだからある程度のことは知ってるさ。」
「ほぉ、そうか。じゃあ、あの女がどこの生まれで、親の素性は知ってるか?」
父様は徠人のその質問に眉をひそめた。
「そ、それは、本人も知らないらしいんだ。」
「え?父様どういうことですか?」
「杏子は養護施設で育った孤児で、自分の出生を知らない。少なくとも僕はそう聞いている。」
父様は伏し目がちにそう言った。
「そうか。じゃあ、俺から少し言わせてもらおう。俺たちの今後に関わる話だ。いいか。」
徠人は、静かに話し始めた。
誘拐された時に、あの地下の施設で母様と全く同じ顔の女を見たというのだ。
しかし、考えてみればあれは二十四年も前の事だ、あの時見た女と今の母様がほぼ同じ年齢と考えれば、親子、あるいは、別の何かだと考えるのが妥当だと徠人は考えるのだという。
母様が家の中から外部に連絡などをしていないか、調べる必要があると徠人は主張する。
そこで、僕は母様に触れた時のことを思い出した。
「あ、あのさ。それなら母様に触ったときの記憶があるから全部かどうかはわからないけど、思い出してみることは可能かも。」
「おまえ、便利だな。」
徠人はそう言って、やさしく僕の頬に手を当てる。
だから、やめてってば~。
僕は、目を閉じ、自分の中にある膨大な記憶の中から、母様の物を探し、時間をさかのぼって一番古そうなところへたどり着く。
ん?水の中だ。ゆらゆら、外に人影があるけど、ゆらゆらしてて見えない。
すぐに、次の記憶だ。目を開けると見知らぬどこかに一人でいた。
壁の一か所が明るくなって、そこから出された。ドアかな?
また場面が変わる。腕に点滴の管と、狭くて明るい白い部屋。白衣の女の後ろ姿。
そして、気が付いたら遊園地のベンチに一人座っていた。
警察に保護され、養護施設へ送られた。
そこまでを、父様と徠人に説明した。
二人は驚きの表情を浮かべていた。特に父様は、震えていた。
「それって、杏子はどこかで用意された工作員という可能性があるということか?」
「徠夢、今の話だとそうなるな。しかも本人は知らないという可能性もあるな。
白い部屋ってのは、あの地下施設の可能性もある。」
「まずは、家じゅうの盗聴器や隠しカメラを探してみるか。」
最初は渋っていた父様も同意した。
僕たちはその足で、盗聴器を探す装置などを買い、自分たちも隠しカメラを取り付けるべく十数台購入したのだった。
画像をチェックするためと連絡用にスマホを各一台、他の人間に番号やこの存在を知らせないことを約束してそれぞれ持つことにした。
「もし、怪しいところが見つかれば、尋問だぞ。いいな。」
父様は黙って頷いた。徠人が僕に真面目な顔で言う。
「おい、ライル。おまえ自分の能力はなるべく俺たち以外には知られないようにしろ。いいな。」
「あぁ、わかってるよ。」
僕たちは家に帰ってからの段取りを打ち合わせ、家路についた