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338. 絵本の内容(5)

 アンジェラは絵本『双子の天使たち』のページをまた写真に撮って印刷し、ブラザーアンジェラに渡した。

 そして、次の絵本を手に取る。クリーム系の黄色い表紙の『愛の天使』だ。


 これは、さっきの『双子の天使たち』の最後のところに描かれていた『愛のちから』を持つ天使と関係があるのだろうか?

 表紙の次の白い紙をめくると、『星降る夜の天使たち』に出てきた聖マリアンジェラ城にそっくりなお城と、その両脇の高い石台に乗せられた王子と姫の像が描かれていた。

 二人の像は『星降る夜の天使たち』と同じく、乳白色の大理石を少し黄色くしたようなクリーム色でできており、その絵本のページは夜の景色で、石像がボヤッと光を含み輝いている。

「パパ。この王子様とお姫様が愛の天使だったのかな?」

「どうだろう…このページには何も文字が書かれていないな、先を読んでみよう。」

 そう言ってアンジェラはページをめくった。

「あっ、これも真っ白だね。」

 ミケーレの言葉にうなずくアンジェラ。

 その次のページも、更に先も真っ白で何も描かれていなかった。

「まだ、これから変わるという事なのだろうか…。」

「そうかもしれないね。」

 アンジェラが呟くと、それにライルも言葉を合わせる。


 なんだか拍子抜けした感じだ。

 そして、今回見つけたほんの中で、唯一タイトルも書かれていない、真っ白い表紙に天使の羽だけが描かれている最後の一冊だ。

 しかし、タイトルも書かれていないのだ、きっと中も何も描かれていないはず…。

 そう思いながらアンジェラはページをめくった。

 文字は何も描かれていなかった。

 しかし、そこには大きな青みがかった白い羽が一枚ページいっぱいに描かれていた。

「あ、これパパの羽みたいだね。大きくて、少し青くて、カッコいい。」

 アンジェラは、そのページの羽が描かれている部分を触った。

 その時、ページから光があふれ、羽の横に文字が浮かび上がった。

『あんじぇらちゃん』

 とても上手とは言えない平仮名で書かれたそれに、アンドレは既視感があった。

「これは、三歳のライルが書いていた羽のコレクションの中にあった文字じゃないか?」

 アンドレがそう言った時、アンジェラも頷いた。

 ページをめくると、そこにはもう何も描かれてはいなかった。

「あれ、終わっちゃった。」

 ミケーレが残念そうに言った。その脇の下から覗いていたマリアンジェラがミケーレに耳打ちをした。二人でコソコソ話をした後、二人は翼を出して、お互いの羽を一本ずつブチッと抜いた。

「うひゃー、思ったよりイタイわよ。」

 マリアンジェラがしかめっ面をしている先で、ミケーレが絵本の白いページにマリアンジェラの羽を置いた。

「ミケーレ、何やってるんだ?羽では押し花は出来ないぞ。」

 つまらないアンジェラの突っ込みにジト目で見つめ返すミケーレ。

「パパ、それつまんない。」

 そう言ってミケーレは絵本をパタンと閉じる。

 すぐに同じページを開くと、真っ白な羽が絵となってページに収まっていた。

「しゅごーい。ミケーレ、やるじゃん。」

 そう言ってそのページをマリアンジェラがさすった。ページから光が出て、文字が浮き上がる。『まりあんじぇら』また下手くそな平仮名で文字が浮かび上がったのだ。


「ねぇちょっとどういうこと?これってさ、おかしくない?」

 ライルが突っ込みを入れる。

 このくそ汚い字もそうだが、その場で羽が吸収されて絵になるとか、ホラーだよ。

 そんな時、リリィが不思議そうな顔をしてライルに聞いた。

「ね、ライル。これってさ、すごい前に失くしたって言ってた羽のコレクションの再現かな?」

「失くしたんだったっけ?イタリアに来る前にどっかに行っちゃった気もするけど…。」

「これって、触ったらどうにかなるのかな?」

「えっ、おま…。」

 止めようと思った時にはすでに遅かった。リリィはアンジェラのページの羽の絵を触ったのである。リリィが金色の光の粒子になり、砂のように崩れお落ちる。


「行っちゃったね。」

 ミケーレが、ボソッと言うと。マリアンジェラも同じように言った。

「行っちゃったね。」

「帰って来るまでおやつを食べながら、お茶でも飲んでましょうか。」

 リリアナが平気な顔で言う。

「あ、あの大丈夫なんですか?」

 ブラザーアンジェラが心配そうに言ったが、アンジェラが真面目な顔で答えた。

「今頃、いつの時代かわからない私を助けるために何かをやらかしているところだと思うよ。」

「やらかして…。」

 ブラザーアンジェラは何とも言えない複雑な表情でJC瑠璃リリィの方を見た。

「大丈夫だよ。リリィは結構すごいからね。」

 ライルが言うと、ますます複雑な表情を浮かべるブラザーアンジェラと瑠璃リリィだった。


 一方、リリィは高い高い塔のバルコニーに翼を出したまま体育座りをして外を眺めるアンジェラの翼を触った状態で気が付いた。

「あちゃ~、絵本触っただけなのに…。やっちゃったか…。」

 リリィが言うと、アンジェラが振り返った。

「どうしてここがわかったんですか?」

「どうやっても、ここはわかってません。アンジェラは今、困っているのでしょうか?」

「…。」

 命の危険にさらされているようには見えないが、じっくり観察すると翼が体内に戻らないように、翼の根元にくさびの様な金属が打ち込まれ血が出ている。

 そして、首に金属の輪がはめられ、それには鎖がつけられていた。

 足にも同様の足かせがつけられ、鎖でつながれている。

 飛んで逃げないようにされているのだろう。

「ひどい…。」

 リリィはアンジェラを抱きしめると、アンジェラごとバルコニーの3m先に転移した。

 アンジェラが元居た場所に首に着けられていた金具と足かせ、そしてくさびの金属がガシャンガシャンと音を立て床に落ちた。

 普通は身に着けている物も一緒に転移するが、それらはこの者に属さないと思いながら転移すれば分離できるのだ。

 無理やり引き抜くより不純物が体内に残らず、体に傷をつけることも少なくて済む。

 くさびが刺さっていた部分を素早く癒し、首や足の金具で擦り切れた皮膚を癒す。

 食べ物を食べないようにしていたのか、痩せている。


「どうしてこんなことになっているの?」

「たまたま通りかかった橋で、子供が転落して。それを助けようと何人かの男が川に飛び込んだのだ、みな溺れそうになってしまい。思わず翼を出して助けてしまった。」

 アンジェラは疲れた顔でうなだれている。

「続きは違うところで聞こうかな。イタリアの家なら大丈夫?」

「あぁ。家の場所は多分、大丈夫だ。」

 リリィはアンジェラをイタリアの家の寝室に運び、キッチンで適当に食べ物を探して持ってきた。パンに、乾燥したチーズを挟んだようなものだ。

「勝手に持ってきたけど、少しでもいいから食べてね。それで、助けたのにどうしてあんなところで繋がれてたの?」

「翼を出したところを見ていた地元の金持ちの護衛に捕まって、愛玩動物扱いとでもいうのか…。そういう扱いを受けたのだ。」

「どうしてあんなクサビみたいなものを打たれていたの?」

「翼を仕舞ったのだが、拷問を受けて…。」

 リリィは慌てて、シャツやズボンのすそをあげたりして傷を探す。

 背中やお腹、すねなどに多数のむち打ちの痕があった。

 リリィはそこも全部癒す。

「ごめんね、ちゃんと見てなくて。」

 アンジェラの頭をなでなでしながら謝るリリィにアンジェラはもたれかかって言った。

「僕の天使、また今回も来てくれた。それだけでうれしい…。」

「何か食べたいものある?」

「君…。」

 と言いかけたアンジェラの口を手で塞いでリリィは言った。

「ダメ、それは食べられない。メッ。」

 リリィが手を離したら、苦笑いをして、アンジェラはリリィの手をブロックして言い直した。

「君が作ってくれたものなら、何でもいいよ。」

 リリィ…スーパー勘違いの後の超赤面。自分を食べちゃうって言おうとしたのかと思って早とちりしちゃった。恥ずかしすぎる…。

 少し様子を見ていたが、アンジェラの調子も落ち着いたようなので、帰ろうと立ち上がる。

 アンジェラがリリィの手を掴んだ。

「リリィ…。」

「泣かないで。アンジェラ。また、会いに来るから…。」

 そう言ってリリィの体は光の粒子になってサラサラと砂のように崩れて消えた。


 一瞬目の前が真っ暗になり、リリィはアンジェラの書斎に戻ってきた。

 誰もいない。ダイニングに走って行ったら、皆でおやつを食べながら雑談をしていた。

 アンジェラが気付きリリィに声をかける。

「リリィ、どこに行ってたんだ?」

「どっかの塔で繋がれてるアンジェラのとこ。」

「あっ…。あの時か…。」

 そう言ってアンジェラがクスッて笑った。

「あ、笑った。何?何?何よ。」

「いや、確か何か食べたいものあるか聞かれて、口をふさがれたんだっけな…。」

「きゃー、言わなくていい。言わなくていいから。ちょっと、あれって何年前くらい?」

「あれは、1940年ころだったかな?」

「あの場所ってドイツじゃないわよね?」

「オーストリアだ。」

 リリィがスマホで地図アプリを開き、場所の目星をつけている。

「どうするつもりだ?」

 アンジェラが聞くと、リリィはニヤリと笑って言った。

「べつに…何にも…。」

 そして、たたーッと走ってどこかに行った。

「落ち着きがないやつだな。」

 ライルが言ったが、アンジェラにはどこに行ったか見当がついていた。


 リリィはさっきアンジェラを助けた時代と場所の近くへ戻って来ていた。

 少し離れたところからあの高い塔を見つめる。塔の東側には立派な貴族の住んでいたような邸宅があった。

「むかつくのよ。まったく、もう。ふんっ。」

 とリリィが地面をドスンと踏みつけた。

 その時、地鳴りがしたかと思うと、立派な邸宅の裏手の山から、土砂が崩れ、あっという間に邸宅と高い塔が飲み込まれてしまった。

「え?私何もしてないのに…。」

 この場にいない方がいいと思い、さっさと現代の家に戻った。

 出かけたかと思ったらまたクローゼットから出てきてバタバタを家の中を走るリリィにアンジェラが言った。

「あまりドスドス音を立てて走り回ったら、崖が崩れるかもしれないから、静かに歩きなさい。」

「え?」

 リリィ、渾身のキョトン。あれって私のドスンが原因だっての???地味にショックを受け、無言でおやつのマドレーヌを頬張る…。うっ、口の中の水分が奪われ、のどが詰まる。

 そっとアンジェラがオレンジジュースを目の前に置いてくれた。

「う、ありがと。」

 アンジェラはニッコリ笑って言った。

「あの塔のあった屋敷だけどな、あの後新聞で読んだよ。土砂崩れで全員埋まったらしい。土砂崩れに巻き込まれないようにリリィが助けに来たのかもな…。」

「うぇ?げほ、うーん。そうなのかな?ま、そう言うことにしておいてください。」


 その後、あっちの世界の二人以外の羽を白い絵本に挟んでは絵にする作業を、ミケーレが行った。なんだか自分で描いた絵本の様で、ミケーレはうれしかった。



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