334. 絵本の内容(1)
その日の午後2時過ぎ、皆でアンジェラの書斎に集まった。
除菌装置に入れてあった絵本四冊の中を読むためである。
一冊目は今まで僕たちはあっちの世界のアンジェラから預かっている
紺色の表紙の『天使の城の王子様』、これにはサブタイトル『ユートレアの伝説』。
二冊目は、昨年のクリスマスパーティーにニコラスがドイツのフリーマーケットで買ったという赤い表紙の『星降る夜の天使たち』。
そして、今回手に入れたのは、四冊だ。
オレンジの表紙の『天使の羽の秘密』
濃い緑の表紙の『双子の天使たち』
クリーム系の黄色い表紙の『愛の天使』
そして、真っ白い表紙に言葉は何もなく、天使の羽だけが描かれている。
あっちの世界のブラザーアンジェラもいることだし、今までの経緯をたどりながら説明することになった。
「ブラザー。君が送ってくれたこの紺色の『天使の城の王子様』なんだが、これはまさしく、アンドレとリリィに起こった実話が盛り込まれているのだ。」
「え?どういうことですか?」
アンジェラは丁寧に説明した。なぜ、500年も前に行こうと思ったのか、それは自分たちが狙われていたことや、連れ去られた親族を探す過程で、怪しい儀式によって親族たちがあの封印の間に捕らわれていたこと。そして、500年前がユートレア城付近で、初めの儀式の行われた時期だとわかったからだということ。
そして、アンジェラが所有する文献には、天使の核を12個集めて、悪魔ルシフェルに望みを叶えさせることが出来ることから、それにより世界征服を狙っていたのが、宗教団体を隠れ蓑にしたテロリスト集団だったことも教えた。
「なんだと…テロリストが世界征服のために親族を…。」
「そうだ、だがライルが全て助け出してくれた。」
その500年前のユートレア城は、現在アンジェラが所有している城と同じものだということが判明し、周りの噂から王太子が天使に心酔していると聞いた。
実際には、先王は王太子が10歳の時に病死…実際は毒殺された、そのため10歳にして一国の王となり、周りからも命を狙われ続けた。
「それがアンドレだ。」
しかし、度々訪れている時に、リリィがアンドレを暗殺者から救い、それをきっかけに私達と共にいることを望んだ。
「私達は三人で暮らし始め、だが、やはり二人の男が一人の女性を…まぁ、無理があってだな…。リリィが変な核を体に入れたら、リリアナが分離して出てきたのだ。」
「へぇ…すごいね。アンドレさん専用の彼女ってこと?」
「そうそう。」
リリィはそこのところを早くやり過ごそうと合いの手を入れる。
そこからはリリィではなくリリアナがユートレア小国担当なのだ。
更に過去に戻り、アンドレが5歳くらいの時から、毎週毎週ユートレアに通い、その間徐々にリリアナもアンドレに合わせるように成長し、あっという間に16歳になり婚約、18歳で正式に結婚し、途中王や王妃の死を回避するなどがあり、まだ500年前では先王は元気でアンドレは王位を継承していない。
毎週行っては公務をこなし、面倒な問題はリリアナが解決しているが、戦争を終わらせたり、城中に毒を盛られた時はリリィとマリアンジェラが浄化するなど、家族で対応しているのだ。
「結局のところ、アンドレの弟がうちの家系の先祖のニコラスだったしね。」
ライルが言った。
「そして、忘れちゃいけないのは、君たちから絵本を預かった後に、絵本の内容が変わったことだ。」
「え?そうなの」
JCが大きな声をあげた。
アンジェラは紺色の絵本を二人に渡し読むように言った。
『王子様と天使は仲良く暮らしていましたが、ある時、天使に異変が起こりました。
高い熱を出し、何も食べられなくなり、こんこんと眠り続けるだけでした。
王子様は、夜も寝ずに天使の看病をしましたが、とうとう天使は眠ったままの美しい形のまま、石の像のように白く固まってしまいました。
王子様は、天使が死んでしまったと嘆き、悲しみ、何も手につかなくなり、天使の後を追って死ぬ決心をします。王子様は、冷たくなった天使の唇に口づけをして、そのまま川に身を投げてしまいました。』
「何これ?誰が自殺したの?」
「パパ~」
ブラザーアンジェラとJC瑠璃は口をあんぐりと開け、アンジェラをジト目で見つめた。
「幸い、マリアンジェラが助けてくれたんだが…。」
『死んでしまった王子の体は川から引き上げられ、教会で眠る天使の隣に置かれました。
王子様の顔はとても穏やかで、国民は皆王子の死を嘆きました。
王子が死んで3日後、天使の体は粉々に飛び散ったかと思うと、大きな不死鳥の姿へと変わりました。天使は死んでいなかったのです。より多くの人々の役に立つために、力を蓄え、変化したのです。
しかし、復活した天使の前に横たわる王子様の死んだ姿を見て、天使は嘆き、悲しみ、神様に王子様を生き返らせて欲しいと頼みます。
神は天使の望みを叶える代わりに、天使の記憶を全て消し、違う姿にするという条件を出しました。男の子だった天使は女の子の天使に姿を変えられ、記憶を全て消され、山の中へ飛ばされました。天使がわかっているのは、この国に留まり、人々のために手助けをすることが自分の役割だということだけです。自分が天使であることも覚えていません。
王子様は、神様の力により一日後に目を覚ましましたが、そこにはもう天使はいませんでした。王子様は家臣たちから天使は生きていると聞きましたが、いくら探しても王子様の天使は見つかりませんでした。
数年が経ち、王子様は王様になりました。王様になっても、天使を探し続ける王に周りの者達もあきれていました。
ある日、王は山の中へ入り、天使を探していました。そこには、小さな山小屋があり、中には若い娘が一人で暮らしていました。プラチナ色の髪が長く、瞳が海のように深い青色の美少女でした。
王は身分がわからない様に粗末な格好をして山に入っていましたが、崖から滑り落ちてしまい、汚れた上にひどい怪我を負いました。
それを偶然見つけた山小屋に住む娘は、怪我を負った汚れた青年に恋をします。
怪我が治るまでと、毎日優しく世話をしてくれる娘に王も心を惹かれていきます。
王の怪我が治り、山小屋を去る日、王は王であることは告げずに娘に結婚を申し込みます。
娘は、私には何もないけれど、それでも良ければ、と申し出を受けました。
三日経ち、王が結婚のためにたくさんの家臣を引き連れ娘を迎えに行きました。
しかし、娘は城に行くことを嫌がりました。
王は娘の嫌がることを押し付けることなく、諦めて山を下りることにしました。
でも、せめて最後にと一度だけのつもりでキスをしました。
その時です。娘の背中には翼が生え、娘の記憶が全て戻りました。
王は、その娘が自分の探し求めていた天使であると知りました。天使も自分がいるべき場所は王の側だと理解しました。
二人は二度と離ればなれにならないと誓い合い、城で王と王妃として長く国を治めました。
その後、二人には二人の王子様と二人のお姫様が生まれ、末永く幸せに暮らしました。』
「す、すごい長くなってる。しかも、なんか話が現実から遠くなってるね。」
「そんなことないよ。ねぇ、ママ。山小屋の天使になって。」
マリアンジェラが言うと、リリィが恥ずかしそうに一瞬光の粒子に変わり実体化した。
「げ、マジ?」
JC驚きのあまり、鼻の穴がおっぴろがってしまった。リリィが長いプラチナブロンドの超美人に変わったのである。リリィはすぐに元の姿に戻る。
「どういうこと?」
「夢の中でこのお話とほぼ同じ体験をしたの、二人で。でね、目が覚めたらプラチナブロンドになってて、皆がこんなのママじゃないって言うから、元の容姿にしているのよ。」
なんだか思ったより複雑で、頭が混乱するブラザーアンジェラとJC瑠璃だった。
そして、赤い表紙の絵本だ。
もちろん、ブラザーアンジェラとJC瑠璃は見るのが初めてだろう。
アンジェラは二人に読むように促した。




