329. 私達にできる事
4月13日、月曜日。
リリィの重体の小芝居に付き合っていたため、学校に行く時間ギリギリになってしまった。
自宅の自分の部屋に転移し、学校へ行く準備をする。
眠りたかったのに、眠ったのはほんの30分というところだろうか…。
課題もどうにかやり終えていてよかった。
そう思いながら僕は家から学校の寮の部屋に転移した。
同じころ、日本では病院で入院中の徠夢の意識が戻り、付き添っていた徠神とアズラィールからアンジェラやライル、そして未徠にそのことを伝えるメッセージが送られていた。
未徠は自分の医院を休むわけにはいかず、自宅に戻っている。
アンジェラは安堵すると共に、早くリリィに帰ってきて欲しいと願うのだった。
未徠夫妻は騒ぎの中で日本に戻っていたが、どちらにせよ仕事の都合で今朝早い時間には帰る予定だった。
今まで大人数でワイワイやっていたからか、なんだか静かで寂しいと思ってしまうアンジェラだった。
日課の午前中の散策を終え、家の中に入ると留守番をしていた身重のリリアナが、ダイニングでまた何かを食べていた。
「リリアナ、さすがにそんなに食べてばかりいたら出産後も大変なことになるぞ。」
「アンジェラ、そう言われても…、私の脳はきっとおかしくなっていて、とにかく食べろという命令しか出さなくなっているのよ。」
「見たまんまだな。」
アンジェラにそう言われても全く動じないリリアナだった。アンドレがフォローする。
「やはり双子ともなると必要な栄養も倍なんだろう。」
「また双子なのか?」
アンジェラが初耳だと言って少し大きな声を出した。
「言わなかったか?」
「聞いていないな。てっきり初めての一人っ子かと思っていたぞ。そうか、またにぎやかになりそうだな…。」
アンジェラが微笑むとそっくりな顔してアンドレも微笑んだ。
それを少し離れたところで見ていたあっちの世界のアンジェラと瑠璃は不思議そうな顔で二人を見ている。
「仲いいんですね。」
そう聞かれて、アンジェラは瑠璃に言った。
「アンドレは私そのものだからな。自分が幸せなら、それ以上のことはないだろう?
それに彼らがいることで私の暮らしも楽しく充実したものになっているのだ。
なぁ、アンドレ。」
「あぁ、アンジェラ、私が500年前に帰りたくない理由がそれだ。
ここにいた方が楽しいからな。愛する者皆に囲まれて、これ以上の幸せはない。」
言い切るアンドレに、アンジェラも渾身のドヤ顔だ。
こんな風にかっこいい男になれるのかな?と思うあっちの世界のアンジェラだった。
その時、アンジェラのスマホが鳴った。
「あぁ、アントニオ、そうかすまない。ありがとう。じゃ、私の書斎に運んでくれ。」
そう言って電話を切ったアンジェラが誰かにメッセージを送る。そして言った。
「ライルが赤外線の消毒器を買ったらしい。リリィのダニアレルギーを考慮したのか…、管理人室に届いたそうなので、私の書斎に運んでもらうよ。あの絵本もチェックしたいからな。」
みんな一斉に頷いた。リリィにもメッセージを送信する。
危篤だったはずのリリィからは、分身体と一緒に変顔している写真が送られてきた。
「全く、リリィは…。」
そう言いながら、アンジェラはご機嫌だ。
「あ、そうだ、忘れていた。君たちに報告があるのだ。君たちの世界ではユートレアの城の対岸辺りにある古本屋で洞窟か落とし穴の様なものに落とされたと言っていただろ?」
「はい、そうです。」
アンジェラが聞くと、あっちの世界のブラザーアンジェラが返事をした。
「昨日、その近辺のベックという元アンドレの城の調理人が開いたレストランに行ったんだ。
そこで、いくつかの謎を解明したので。教えておこう。ブラザー、お前は盗賊の家の隠れ蓑の古本屋に行ったと推測される。また、あの辺りには地下に空洞があり、ユートレアの王の間に迷い込んだ一般人はルシフェルの体に触ると、自動でどこかに強制的に出されたらしい。その時に絵本が持出されたと思うのが妥当なところだ。」
きっと身なりが良かったので、金目の物を盗るつもりで落とし穴に入れられたのだろうとアンジェラは説明する。
そう考えれば、ますます無事でよかった。
そこで、新たに手に入れた絵本の話をアンジェラが教える。
「ダニを退治してから、見てみようと思うのだ。君たちも、ゆっくり傷を治して、絵本を確認してから帰るといい。きっと、留美の出産には帰っておいた方がよいだろう?」
全てを見透かされているようで、瑠璃は恥ずかしかったが、本当のことである。
やはり母の出産のときには側についていてあげたい。
「私達に何かできることがあったら何でも言って下さい。やります。お手伝いしたいんで…。」
瑠璃のその言葉に、アンジェラは少し小さく頷いて言った。
「じゃあ、その服は着替えてもらおうか。」
破れたスタイルのジーンズや、鼠色のパーカーはどうにも目障りだったのである。




