328. 起きてしまった凶行(3)
僕がイタリアの家のアンジェラの部屋のクローゼットに転移したのは現地時刻の午前2時ころだった。僕とリリィが融合して眠りに落ちてから約3時間。
3時間で、ずいぶんと色々なことが起きたものだ。
しかし、今回は新しいパターンだ。何にも触れず、何も想像していないのに、あの場に行くことになった理由が知りたい。
考えてみれば、リリィだけでも僕だけでも叶わなかった事態だ。二人が融合したことで起きたことだと考えられる。
僕達の周りで起きる事には必ず理由があるのだ。
寝室に移動して、アンジェラの体を揺する。
「アンジェラ、ちょっと悪いんだけど、起きてくれるか?」
「うーん。ん?ライルどうした?リリィは?」
「あー、実はリリィの事でさ、すぐに話しておかないといけないことがあって飛んで帰ってきた。」
アンジェラは上体を起こし、ベッドのテーブルに置いてあるライトをつけた。
「2時過ぎか…。で、なんだ?」
「日本の朝霧邸で徠夢が襲われて、留美が拉致されたんだ。」
「何?早く行かないと…。」
「あ、もう解決済みなんだけど…。リリィがちょっとというか、かなり怒っててさ。
制裁を下す的な感じで、今一芝居打ってる最中なんだ。重体のふりをしているから、もし警察が電話してきたら、話聞いておいてくれる?」
「重体だと?何が起きた?」
「あー、犯人が留美を刺そうとしたときにさ、物質転移で移動させようと思ってギリギリを狙ってたら、刃物の刃先にリリィが転移してきてさ。わざと刺されたんだよ。」
「だ、大丈夫なのか?」
この時点で、アンジェラは立ち上がり僕の両腕に指が食い込むくらいの勢いで掴まれている。
「あ、うん、大丈夫だよ。体は封印の間に置いてあるから。どうやらリリィはマジ切れしてて、わざと刺されて、そのまま犯人をサソリ固めにして警察署の前まで行って助けを求めたらしいんだ。犯人の罪を重くするためにね。」
「本当に大丈夫なんだな?」
「うん、一回キラキラになって再構成すれば傷は無くなるんだけれど、わざとICUに入って死にかけたふりしてるんだよ。徠夢の方が傷は深いね。でももう治したからね、心配は要らないよ。まぁ、これで、報告終了。」
僕はまだ付き添いがあるからと言って病院に戻った。
リリィは渾身の演技中。現在心停止2回目で、除細動器で心拍を再開させようと医者が苦戦している。そのさなか、なぜか心肺停止のリリィが右手で小さくピースサイン。
おいおい、怖いよ行動がさ。
二回目の電気ショックで心拍再開…。
結局その後6時間経って、ようやく気が付き一般病棟へ移してもらえた。という状況だ。
策士だ。リリィは完璧な策士だと思う。
その後も数日間たっぷり事情聴取され、あれやこれやでたいへんだった。




