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325. 絵本の出どころ判明

 アンジェラと私、リリィは昔のユートレア小国のお城の王の間に転移してきた。

「あ、いつもの癖で王の間に転移してきちゃった。門の方が良かったね。」

 私がそう言うと、アンジェラは少しも顔色を変えず私の腕を掴み、自分の方へ優しく引っ張りながら言った。

「どうして、門の方が良かったというんだ…あっちだとキス出来ないじゃないか…。」

 そう言って、しばし口答えできないくらいのしつこいキスをされる。

「ん、んんーっ。」

 いい加減三分くらい経ったところで、酸欠とお店が閉まっちゃうよというアピールも兼ねて手足をバタバタしながら唸ってみた。

「リリィ、どうした?」

「ぷはっ、死ぬ。それにお店しまっちゃうよ。」

「そうだな。」

 何事もなかったようにスタスタと城から出てセキュリティロックをかけ、門をリモートで開けて外に出る。

 門の外に出て橋を渡り、わずか1分ほどのところにあるのが目当てのレストランだ。


 この前も来た美味しいと噂のお店だ。店の中はほぼ満席だったが、もう食事を終えて帰る客もちらほら見える。

 入り口に入ると、人数を確認され、すぐに席に案内された。

 この前話しかけてきたウエイターのお兄さんだ。

「これはこれは、城主様、また起こし頂きありがとうございます。」

「こんばんは。今日のおすすめは何ですか?」

 私が前のめりで聞くと、ウエイターさんがおすすめを教えてくれる。

「今日は、カモのローストとスズキのカルパッチョがおすすめです。」

「あ、じゃあそれを一皿ずつと、赤ワイン、グラスは一つで頼む。」

 アンジェラがスマートに頼んだ後に、私も追加で頼む。

「フランスパンとお水もください。」

「かしこまりました。」


 少しして、その彼がワインボトルとグラスを持ってやってきた。

 ワインの栓を抜き、グラスに注いで、彼が戻ろうとしたときに、アンジェラが口を開いた。

「君、ちょっといいかな。」

「あ、はい。なんでしょうか?」

「フランツ・ベックさんという方を知らないだろうか?」

「え?あ、フランツ・ベックは私の曽祖父で、この店の先々代でもあります。」

「そうか、それなら話は早い。実は聞きたいことがあってね。今、いいかな?」

「あ、大丈夫です。」

 アンジェラはそう言ってスマホの写真を見せながら言った。

「うちでね、私の先々代がある絵本を頂いたのが、そのフランツ・ベックさんの様なんだが、その絵本の事で不思議なことがあってね。その絵本がどこから来たものなのか調べているんだよ。」

 スマホの写真のコースターのサインを拡大して見て、その後で、絵本の表紙を見せる。

 ウエイターのお兄さんは慌てて、「ちょっとオヤジに聞いてきます。」と言い、裏の方へ戻って行った。


 少し経ち、背が低く、人の良さそうな太ったおじさんを伴ってさっきのお兄さんが戻ってきた。

「あ、あぁっ…、天使様と城主様ではありませんか…。」

「え?何で知ってるの?」

 アンジェラが人差し指を唇に押し当てた。

『あ、ごめん。』口パクで答える。

「あ、先ほど、うちの愚息から話を伺いました。うちの先々代が書いた手記があるんです。」

 太ったおじさんは今、このレストランのオーナーシェフをやっていて、その先々代がフランツ・ベックさんらしい。

 絵本とコースターの話は小さい頃におとぎ話のように聞かされたんだとか…。

「城主様、昔、祖父が毎晩話してくれたお話は、とても不思議なお話でした。

 うちの店は、かなり昔に、そこのユートレア城の厨房でコックをしていた者が、年をとって隠居するときに開いた店なんです。もう何代も前なんですがね。」

 そう言って、話してくれたのは、このお店の歴史と不思議な絵本の話だった。


 約470年くらい前にここで商売を始めた初代の店主は、ユートレアの城の厨房で料理長をしていたらしい。

 60歳を過ぎた頃、城のすぐ前の通り沿いのこの場所を見つけ、老後は城の側で何か商売をと思い、結局飲食店を経営する。

 初代オーナーはユートレアの王様と王妃様が大好きで、家でもその二人の肖像画を大切にしていて、今でもその肖像画は残っているんだとか…。

「それで私たちを城主と天使だと思ったのか?」

「はい、そうでございます。」

 アンジェラは、急に電話をかけ始めた。すぐに電話は切ったが、何の電話かは言わなかった。店主は続けた。

 この店の土地を買った時には、川の増水でこの周りの土地は形が変わり、かなり整備が必要だったが、王様からかなりの支援をしてもらい、街はすぐに復旧し、綺麗になったという話だ。

 しかし、店を建てる時に、地下から不思議な木箱を発掘したのだという。

 地下には大きな空洞があって、中には木箱の他に人骨も数人分あったらしいのだが、それは相当古い古代のものではないかということで大きな話にはならなかったそうだ。

 空洞は今でも階段を付けられ、ワインの貯蔵庫として使用されているらしい。


 絵本はその木箱の中に入っていたが、木箱は腐りかけているのに絵本はきれいなままで不思議に思っていたという。その絵本は、表紙とタイトルと1,2ページしか描かれておらず、白いページが続くだけの変なものだったが、初代オーナーはタイトルがユートレア城に関係している、あるいは天使に関係していることから、大事に保管していたそうだ。

 ある時、初代オーナーの孫がその絵本を持ち出し、店でめくっていたところ、近所の子供になん冊か持って行かれてしまったらしい。

 そして残った4冊を大切に保管していたんだが、フランツさんがひいきにしていた薬局の甥っ子さんの話を先々代が聞いて興味を持ったらしいという。

「何に興味を持ったんだい?」

 アンジェラが店主に聞いた。

「じいさんの話では、その甥っ子さんはとても絵が上手で、毎日ずっと絵を描いているというんだ。それで、その絵をその薬局のおばちゃんが見せてくれたというんだよ。

 それが、天使様の絵だったというのさ。家に飾ってある肖像画そっくりの絵に膝が震えたらしい。」

 話は続いた。その絵を見て興味を持った先々代が薬局のおばさんに甥っ子を連れてきてくれと頼んだのだという。甥っ子はおばさんについて、この店に来て、先々代が見てみて欲しいという白紙の絵本を手渡したんだそうだ。

 すると、ページをめくるたびに、ユートレアのお城が現れたり、天使が描かれたりと、みるみるページが色とりどりに変わっていったという。

 一度はそのまま甥っ子に礼を言って返したそうなんだが、あの絵本はその子のための本じゃないかと考え直して、薬局のおばさんに頼んで甥っ子に渡してもらったというわけだった。


「マジ?すごーい。アンジェラにくれた絵本だったんだね。」

 アンジェラがまた人差し指を唇に当てる。

『あ、あ…そうでした。』

「なるほど、事情はよく分かりました。私の先々代のアンジェラⅠ世がその甥っ子だということだったんですね。世間は狭いですね。」

「え、そうなんですかい?城主様のお爺様がその甥っ子さん?」

「はい。」


 そこへ、『ガランガラン』とドアに取り付けられているベルがなり、アンドレとリリアナが入ってきた。

「お、来たか…。まぁ、座れ。」

 アンジェラが、席を勧める。その二人を見て、店主が緊張で口をパクパクしている。

「主人、これがこの前言っていたユートレアの王、アンドレとその王妃リリアナだ。」

 店主は、口をパクパクしたまま跪いた。

「アンジェラ、どうしたんですか?」

 アンドレは状況を把握できなくてアンジェラに聞いた。

「アンドレ、お前の城の料理長の名前を憶えているか?」

「500年まえだとローレンツ・ベックですかね。若いけど、いい腕してるんですよ。

 この前、マリアンジェラが獲ったタコを持って行ってカルパッチョを作ってもらったら、絶品でした。」

 アンドレがすました顔でワイングラスを1つ頼み、自分も飲み始める。

 店主とその息子は、床にひれ伏していた。

 そう、この店の初代はローレンツ・ベック。城では、未来へ天使と共に行き来して、ここらでは手に入らない巨大なタコでカルパッチョをふるまった。と初代店主の手記に書かれていたのだ。


 ちょうど注文した料理がテーブルに並べられた。

 タコではないがカルパッチョだ。

「あ、これこれ、この感じ。同じ味がするわね。料理長のと…。」

 リリアナは勧めてもないのに食べ始めた。

「このお店、その料理長さんが開いたんだって。」

 私が説明すると、アンドレもカルパッチョを食べて頷いていた。

「そうか、ローレンツはいい子孫を持ったな。」

 店主親子、感動の涙を流しながら、アンドレとリリアナと写真を撮らせてほしいと言っていた。

「まさか初代の手記に書いてある通りに王様と王妃様が未来と過去を行き来されていたとは…驚きです。」

「誰にも言うなよ。」

 アンジェラが釘を刺す。

「もちろんです。」

「ところで、店主。盗まれた絵本の色は何かわからないか?」

「赤い絵本を含むとしか、あと半分以上を盗まれたとだけ書いてあります。」

「誰が犯人かわかっているのか?」

「多分ですが、この並びに古本屋があるんですが、そこの息子が盗んだのではないか。と言われています。」

「古本屋…。」

 アンジェラとアンドレが顎に手を当てて同じ格好で考えている。

 年は違えど、まるで双子…。

「はい、実はあの古本屋の昔の噂はあまり良くなくて、盗賊一味の隠れ蓑だという話でした。実際、古本屋はやってるんですが、そこいらから盗んだ本を売ったりという話です。」

「オヤジ、あの話もした方がいいよ。行方不明の…。」

「城主様、その古本屋を訪ねた客のうち、金持ちそうな人が何人か行方不明になってるって噂なんですよ。」

「なるほど、そう言うことか…。君たち、今日は本当に助かったよ。

 リリィ、早く食べなさい。戻ってブラザーに話してあげよう。」

「あ、うん。でも、さっきリリアナがパエリヤも頼んでたから、もうちょっと待って。」

 みんな、リリアナに注目すると、すっかりカルパッチョとカモのローストはほぼ完食だ。

「リリアナ、もうすぐ出産だけど、そんなに食べて平気なの?さっき、夕食も食べたんじゃないの?」

「別に、お医者様も何も言ってませんよ。健康そのものとしか…。」

 どっからどう見ても異常に大きいお腹だ、出てきた瞬間に普通の倍くらいの赤ちゃんだったりして…。と思っているのは私だけ???


 その後1時間ほどで食べ終わり、歩いてユートレア城の門まで移動する。

 門の中に入ったところで家に転移した。

 ライルとあっちの世界のブラザーアンジェラと瑠璃リリィに声をかけてアトリエに来てもらう。

「進展があったのか?」

「うん。絵本の出どころとブラザーの怪我の原因が多分わかったよ。」

 私は、今日コースターを触ってから起きたことを三人に説明した。

「じゃあ、絵本はそのレストランの地下にあったんだね。そして、何冊かは盗まれたと。

 じゃあ、あの赤い表紙のは、その古本屋から買った人がフリマで売ってただけかもね。」

 ライルはそう言って、考え込んだ。そして続けた。

「なぁ、リリィ。ずいぶん前だけど、封印の間に入り込んじゃった人間は血族以外の人間がルシフェルに触るとどこかに飛ばされて戻って来られないって聞いたことあったよな?」

「あー、聞いたことある。どこに行っちゃうんだろうって…。」

「もしかして、その洞窟に行っちゃって野垂れ死にしてたんじゃないのかな?」

「あり得る。けど、怖い。」

 二人でそんな話をしていると、アンドレが口を開いた。

「あ、そうだ。あの絵本は、封印の間に落ちちゃった時に、読んだんだ。内容までは覚えていないが、何冊も読もうとしたら、『お前の分は一冊だけだ』って声が聞こえて…。

 私は絵本は持ち出さなかったが、血縁者じゃないものがルシフェルに触って絵本を持ったままあの洞窟に転送されれば、真っ暗闇で水もなしに生きながらえるのは難しいな。」


 結局、絵本はユートレアの封印の間に元々あったものが持ち出されたのだろうという結論になった。

 そして天使の末裔である自分たちにしかお話の続きを描かせることが出来ないというわけだ。最初から天使たちの物であるなら、そういう特殊な力もあって不思議なことではない。

 とんだリリィのドタバタ小旅行、ショタ探訪までおまけでついていた旅となった。

 そうとわかれば、ダニを退治してから自分たちでめくったり触ったりする以外にないのだ。


 ライルはネット通販のサイトで紫外線の除菌消毒器をポチッと購入したのだった。


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