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324. 一夜の外泊

 レストランのコースターと思われるカードの様なものを思わず触ってしまったリリィは、一瞬目の前が真っ暗になった後で、見知らぬ民家の一室に来ていた。

 手には先ほどのコースターが…。

「あっ…。」

 思わずコースターを放す。以前は話すと自動的に元の場所と時間に帰ったが、今はそのままキープするようになってしまった。

『ここ、どこだろう?』

 あまり立派な家ではない様だ。どうやら今は夜らしい。窓の側に行くと、月明かりで景色が浮かび上がる。

 あまり都会という感じでもなさそうだ。

 人の家で夜中に見つかったら大騒ぎになるだろう…。今、リリィがいる部屋は、作業部屋の様だ。壁の一面に、束ねた色々なハーブや薬草が吊り下げられている。

 作業机の上には乾燥したハーブを粉にするすり鉢などが並んでいる。

 目がずいぶん暗闇に慣れてきたので、さっきのコースターのあった場所に目をやると、その下に紙に包まれた例の絵本と思われるものが重ねてあった。

『あ、これじゃん。で、ここはどこかっちゅーのが知りたいわけよ…。』

 そーっとそーっとドアを開け、何かわかりそうな物がないか確認しながら移動する。

 ダメだ。全部の部屋のドアに窓がついていない。開けた途端泥棒だと思われて、大騒ぎになるに決まっている。こそこそと移動しながら覗き見ていたが、結局部屋はいくつかあったけど中に入れず、最後に行きついたのはドアのないキッチンだった。


『ほぇ~、こういうシチュエーション初めてだからか知らないけど、変な歩きかたしたせいか、今朝の運動アレしすぎの筋肉痛と相まって、マジでキツイ。体がガチガチよ~。』

 脳内で間抜けな独り言を言いつつ、腰を伸ばしてストレッチをするリリィ…。

 うんしょ…と体を反らせた後ろの逆さまの景色に、どっかで見たことのある人物が首を斜めに傾げてリリィをガン見している。

『あ、あわわ~。ヤバい。誰?』一気に自分の立場を思い知る。

 その時、リリィの腹の虫が鳴った。「ぐぅ~…。」

 その人物はクスッと笑ってリリィに言った。

「リリィお姉ちゃん、僕が困っている時以外にもお腹がすいたら出てきてくれるの?」

「え?ん?いや、別にそういうわけでは…。」

「よかったら、夕飯の残りだけど、ミートボール食べる?」

「うそ、マジ?いいの?って、君は…アンジェラ?」

「そうだよ。僕はリリィお姉ちゃんのアンジェラだよ。」

 そう言って私の首に手をかけ、べったりくっついてくる、どっからどう見ても10歳~12歳というところか…。

 いや、何…そのね。めちゃくちゃかわいいわけよ。でへへ。

 いや~、若い時からハンサムってこういう言うのを言うんだよね。ライルは鬼のようにでかくなっちゃったでしょ~、それに比べて子供らしい可愛さの中に、美しさを備えてるっていうか…。あ、一人で変なワールドに入りかけた…。

「ん、コホン。あの、アンジェラ…ここはどこで、いつなのか教えてくれる?」

「え?1905年のドイツで、おばさんの家だよ。僕は今12歳。」

「ありがと。そ、それで、聞きたいのは絵本のことなんだよね。」

「絵本?」

「その前に、今何時?みんな寝てるの?」

「夜の10時くらいかな。あ、みんないないよ。おじさんの弟の引っ越しを手伝いに行ったんだ。僕は泥棒が入らないように家を見張ってる留守番なの。」

 そう言って、アンジェラはお皿にミートボールを温めて入れてくれた。そして、すごい硬いパンも…。

 遠慮せず、もぐもぐ食べて世間話をする。

 最近は学校でもいじめられなくなって、充実した学校生活を過ごしている様だ。

「絵の道具は足りてる?」

「まだ半分くらいは残ってるよ。たくさん買ってくれたからね。」

「何か困っていることはない?」

「困っていることはないけど、さびしいかな…。父上も母上もいないし。リリィお姉ちゃんも来てくれないし…。」

 あぁ、ダメ、涙腺が緩んじゃう。連れて帰りたくなっちゃうじゃん。

 涙を押さえつつ、ミートボールとパンを完食し、お皿を洗って片付ける。

「ごちそうさまでした~。おいしかった。」

「で、絵本?」

「そう、こっちこっち…。」

 私は先ほどの作業部屋の作業机のうえにある紙包みとコースターを見せた。

「あ、これ。レストランに飾ってあった絵本なんだ。中に何も描いていない表紙だけの変な絵本だって聞いて、おばさんたちと一度食事に行った時に絵本を見せてもらったら、中は普通の絵本だったんだ。それはもう何か月か前なんだけど、おばさんが仕事でお薬の配達に行ったらこれを渡されたって言ってた。」

「それ以外、何か聞いてる?」

「ううん。何も…。でもすごく古い時代からある本だって言ってたよ。」

 私がネタバレするのは何だか違う気がして、今日はここで変えるね、と伝える。

 すると急にアンジェラが泣き出してしまった。

「リリィお姉ちゃん、本当に帰っちゃうの?僕、寂しい…。ふぇえん。」

 泣き落としにやられ、結局朝まで同じベッドで添い寝をする羽目に…。

 添い寝と言いつつも、自分が爆睡してしまい、朝起きたらくりくりの大きな瞳が目の前で私を見つめていた。

「あ、しまった。普通に寝ちゃった。ははは。さすがにもう行かないとね。」

「リリィちゃん、僕、大きくなったら責任取るために迎えに行くから待っててね。」

「え?責任?」

「うん、一緒に寝たから…。」

 ま、まさか本当に100年以上経ってから、今日の責任取ってもらったのかな?

 なんだか恥ずかしい…。

 後ろ髪をひかれつつ、お別れのハグをして12歳のアンジェラと別れたのである。


 結局、8時間以上滞在してしまった。

 家に戻ったときには夕食が終わっていた。

 リリィとしては、なんだか浮気して朝帰りしたような状態である。

 こっそりクローゼットの中に転移する。

「うわああっ。びっくりしたぁ。」

 目の前に椅子を置いて、アンジェラが足と腕を組んでこっちをガン見している。

「こっちに来なさい。」

「はい。」

 言われるままに、アンジェラの左の膝の上に座る。

「で、言い訳は?」

「う。ごめんなさい…。つい、出来心で…。」

「何?出来心…?」

「あんなにかわいいショタ、アンジェラを一人にできるわけないじゃないの~。」

 どうやらアンジェラは全部思い出したらしい。ただし、絵本に関してはそれ以上のことはわからなかった。

「そうか、一人にできなかったか…。」

 と言いつつニヤリと笑い。後で、現在のあのレストランへ行ってみようと言う。

「え、いいよ。行くなら今行こ。お腹すいた。」

 私はレストランに行ける服装に着替え、アンジェラを連れて転移した。

 スマホにあのコースターの写真と絵本の表紙を撮影して…。



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