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323. 誰かからの贈り物

「ライル~、大変!」

 リリィがノックもしないでライルの部屋のドアを開け、いきなり叫ぶ。

「リリィ、声でかいよ。頭に響く…。」

 僕はしかめっ面をして向き直った。

「で、何が大変なの?」

「ごめん。あの、あれ、しばらく見てなかった、書庫にさ、あの絵本があったんだよ。JCとブラザーが見つけた。」

「え?ブラザーって何?」

「あ、あはは。あっちのアンジェラの事、うちのアンジェラが『ブラザー』って呼んでたから。ライルも来てって。」

 リリィは自分で言って、自分で笑っている。くそ、なんかいちいち可愛いんだよな…。

 僕はリリィと共に書庫へ行った。


 その時には、すでに2つ目の紙包みが開けられていて、最後の部分が外されたところだった。

 濃い緑色の表紙だ。タイトルは『双子の天使たち』だ。

 やはり、外側の茶色い紙はかなり古くボロボロだが、絵本はきれいなままだ。

 ライルがアンジェラの横に立ちじっくりと様子を伺う。

「なぁ、アンジェラ。これ、前からあったのか?」

「イヤ、正直に言ってまるで記憶にない。私はこのような汚い茶色い紙を放置したりすることは無いと思うのだが…。」

 確かにそうだ。どんだけ使っていない所でも、例えば隠し部屋の中だって、散らかっていることはない。全て整然と並べられ、すぐに何がどこにあるかわかるようになっている物ばかりだ。

 あと、2つ同じような紙包みがある。

 アンジェラは続けて次の紙包みを手に取り、すこしずつ紙をめくってはがし始めた。

 パリパリになっている茶色い紙は、一部虫に食われて穴が開いている。

 なんだかダニとかが居そうで、そのまま触るのは危険かもしれない。

「見ているだけでかゆくなりそうだね、ふふっ。」

 小さい声で僕にこそこそ話すリリィ。

「確かに、いそうだな、ダニが大量に…。」

 僕も同意するように言うと、リリィがにっこり笑う。あぁ、なんか僕は最近変だ。

 かなりのシスコン野郎になってしまったのか…リリィが愛しく見えて仕方がない…。


 3つ目の包みの中身が出てきた。中身は黄色い表紙の絵本、タイトルは『愛の天使』。

 すごい内容が気になる。

 もちろん、全部気になるのだが、なんとも言えない艶のある薄いクリーム系の黄色い表紙が、まるでリリィの髪の色の様だ。

「不思議だな…外側の紙は何百年も経っていそうな傷み具合なのに、中の絵本は新品で、現代で作られた様な品物だ。」

 アンジェラがそこにいた皆に向けて言った。

「確かに、そんな感じだね。」

 僕も頷きながら言った。アンジェラは、作業机の引き出しを指さし、僕に言った。

「ライル、そこの引き出しに白手袋とルーペが入っている。出して、この剥した紙をチェックしてくれないか?」

「おっけー。」

 僕は手袋をはめ、作業机の端の方でボロボロの茶色い紙をチェックし始めた。

 なんとも言えないカビの様な臭いがする。

 紙を持ち上げると埃が少し舞った。

「へ、へっぷし」

 リリィがくしゃみをした。皆、リリィをガン見する。

 鼻を押えて赤面するリリィを見てJCが呟いた。

「お姉さん、くしゃみかわいいわね。」

 11歳も年下に言われて、ますますプシューとなるリリィだった…。

「リリィ、マスクした方がいいんじゃないか?」

 僕が言うと、首をカクカク縦に振って引き出しからマスクを出して着けている。


 紙と紙がくっついているところをピンセットで剥していると、何か文字が書かれている部分があった。しかし、薄くてよくわからない。

 他の紙も同じように剥離してみる。

 文字が書いてあったのは最初の物だけだ。

 アンジェラが4つ目の紙包みも同じように開き終えた。その紙を受け取って細かく剥離する。

「あ、何か挟まっているよ。」

 僕は名刺の倍くらいの厚紙の様なものに文字が書かれたカードの様なものをピンセットで

 つまみだした。

 これは少し変色しているが、はっきりと読み取れる。

『天使を愛し、信じる少年へ。この絵本は私の祖先が所有していたものだ。すごく古いもので、中は殆どが白紙で、何も描かれていない。でも、君がこの本に触れた時、一瞬絵が現れたのを見た。君がこの絵本を所有するべきと思い、送ることにするよ。フランツ・ベック』

 僕が読み終えると、アンジェラは眉間にシワを寄せて首を傾げた。

「知らないな。」

 アンジェラはやはり知らないという。

「ねぇ、その紙ちょっと見せて。」

 リリィが前のめりで紙に顔を近づける。

「あっ、これ。この前行ったユートレアの門の前の美味しいって言ってたレストランのコースターじゃん。」

 アンジェラも覗き込む。

「本当だ…私をアンドレだと信じて話しかけてきた店主のいた店だな…。」

「でも、アンジェラは覚えてないんでしょ?」

「覚えていない。」

「このコースターはいつぐらいのものなんだろう?」

 リリィは首を右に左に傾げながら考えてるっぽいが、しぐさが小動物みたいでかわいい。

「むぅ…。」

 唸ったかと思ったら、リリィがコースターを摘まんだ。

「あっ」

 その言葉を最後にリリィは金色の光の粒子になってその場から消えた。

「え、嘘…。ど、ど、ど、どうなっちゃってるの?」

 瑠璃リリィは動揺を隠せない。

「大丈夫…きっとそのうち帰ってくるよ。君も気をつけた方がいいよ。なんでも触るとその時代のその場所に行っちゃう体質が同じだったら、こういうこと起きるから…。」

 僕が真顔で言うと、瑠璃リリィが無言で首肯した。



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