322. お宝発見
結局、リリィ単体でアンジェラとユートレアの王の間で仲良くしすぎてしまった二人だったが、深夜自宅のベッドに戻って疲れ果てて眠ったのであった。
翌早朝、マリアンジェラを連れたライルに起こされた二人だった。
「アンジェラ、リリィ…もう9時だよ。もうみんな朝食も食べちゃったから、散策に行ってくるよ。」
目の下にクマを作ったリリィが半目でライルを見てカクカクと頷いて、返事の代わりとする。
マリアンジェラはライルの方を見てうふっと笑うと厳しい一言を投下する。
「パパは幸せそうな顔で、ママはどうして目の下が黒くなってるの?」
アンジェラは全く起きる気配がないが、肌がツヤツヤしている気がする。
「仲良くしすぎて疲れたんだろ…。」
昨夜は分離しておいてよかったと思うライルだった。
朝の散策後、あっちの世界のアンジェラが起き上がれるほどに回復したというので、軽く朝食を食べるように促す。
瑠璃も彼に付き添ってダイニングに出てきた。
瑠璃はこっちのアンジェラとリリィが見当たらないことに気づき、二人の所在を確認したが、ライルはクスクスと笑いながら、「今は部屋に行かない方がいいよ」と言った。
あっちのアンジェラは、お手伝いさんに、リゾットなどの軽い食事を作ってもらい、少しずつ食べ、回復に努める。
「すごい、こっちはお手伝いさんが何人もいるのね。」
瑠璃が言うと、ライルが答える。
「そっちは基本アンジェラだけだろ?こっちは7人だからな。子供も二人いるし。
でも、アンジェラは結構家事もやってるよ。料理もうまいし。片付けるのも手際いいし。
仕事も結構大変そうなんだけど、家にいる時間を大切にしてくれているんだ。」
「ふーん。すごいね。」
「それより、JC、一度自分の世界で親やアントニオさんに経過報告とかしなくていいのか?」
「そうだよね、連絡が取れないのが面倒だよね。」
結局あっちのアンジェラが食事を終えた頃、瑠璃は10分ほど、あちらの世界へ行き、両親と祖父母とアントニオさんに、しばらくこっちにいて療養すると連絡だけして帰ってきた。
「JC、戻ってくるの早いな…。」
「うん、充電器持ってきた。毎週月・木で連絡入れることにした。」
「え?どんだけ長くいるつもりだよ。」
「だって、居心地いいんだもん。何かあっても不安じゃないし。」
そこに、こっちのアンジェラとリリィが起きてきた。
満足げな表情+肌がツヤツヤのアンジェラと、目の下にクマが二重になっているヨレヨレのリリィだ。
「お姉さん、どうしたの?すごく疲れてそう…。」
JCのその発言に、腰に手を当てながら、作り笑いのリリィ…。
「ちょっと激しく運動をしすぎて…。」
それを聞いたあっちのアンジェラが、コーヒーを『ブッ』と吹き出した。
ライル、笑いを堪えるのに必死である。
『???』なJCが更に『運動』について質問をしようとした時、あっちのアンジェラがJCの口を押えた。
「瑠璃、いいからその話は…。」
こっちのアンジェラはそんな会話を全部聞いていての、どや顔で、リリィと自分の朝食を用意している。
平和な一日の始まりだ。
暇を持て余したお爺様とお婆様が、ローマに観光に行くと言い出したので、ローマの事務所に送って行くことになった。
「帰りは事務所に着いたら電話でお願いします。僕かリリィにかけてください。」
「ありがとう、助かるよ。」
僕は、自分の口座から用意してあった現金を少し祖父母に渡した。
「少ないですが、よかったら使ってください。」
「あぁ、ライルうれしいよ。孫に小遣いをもらえる日が来るとは…。」
未徠と亜希子は大喜びだ。
二人を連れてローマのアンジェラの会社の事務所に転移、彼らと一緒にわかりやすい場所まで歩いて連れて行く…。
その歩いている最中も、ライルに気づいたその辺の歩行者たちが、『あ、あのCMの少年よ』『本物の方が、更にハンサムね』『素敵だわ~』とライルの噂をする。
「ライル、お前、有名人だな。」
「そんなことは無いよ。CMに何本か出ただけさ。じゃ、気をつけて行ってきて。」
そう言って、事務所へ戻るライルを見送った未徠達には、ライルがやたらと輝いて見えるのであった。
家に戻ると、リリィが着替えて待ち構えていた。
「ライル~、ニコラスから絵本の出どころ聞いたよ~。」
「あ、そうだ。聞こうと思ってたんだ。で、やっぱりあのユートレアの古本屋なの?」
「それがさ、全然違うの。ドイツのフリーマーケットで買ったんだって。」
「え…じゃあ、追跡できないじゃん。」
「と、思うでしょ?」
「うん。」
「ところが、なんと、フリマで売ってた人がニコラスの知ってる人だったらしくて、お話を聞くことが可能だって。いえ~い。」
「リリィ、おまえ、疲れすぎて人格崩壊してない?」
「あ、ちょっと、わかっちゃった?へへ。でね、今アポとってもらってる。連絡来るまで待っててね。」
「わかった。」
「あと、悲しいお知らせがあります。グスッ。」
「なんだよ。」
「課題がいっぱい出ていて、リュックの中に入っているよ~。うひゃひゃ。」
ライルは、慌てて自室に戻りドアを閉めて出て来なくなった。
「リリィ、さっきの言い方は意地悪だろう?」
「ううん、全然。意地悪じゃないよ。ちゃーんと課題も半分くらいはやってあるから、そんなには時間かからないと思う。面倒なヤツばかり残してはあるけど。えへっ。」
「そうか、優しいな、リリィは…。」
そう言いながらリリィの頭を撫でるアンジェラを横目で見ているのは、JCとあっちのアンジェラだ。
「なぁ、いつもこんな感じなのか?」
あっちのアンジェラが突然質問した。
「え?こんな感じって?アンジェラと私とライルの会話とか?ってこと?」
リリィが聞き返した。
「ん、あ、あぁ、会話もそうだし、運動のし過ぎとかも、そうだし…。」
「どうだろ?私がライルの学校に代わりに行ったのは初めてだったから、そういう会話はいつもはないけど。それ以外はこんなものかな…。ね。」
そう言ってリリィがこっちのアンジェラの肩に頭を乗せた。
「あぁ、こんなものだ。」
アンジェラの肯定の言葉に、あっちのアンジェラとJCはドン引きだった。
自分たちはキスだけの清い交際歴丸6年。こっちは小姑付で、べた甘な夫婦だ。
『ごちそうさま…。』
JCの心の声である。
その後、皆適当に好きなように過ごし、リリィはクマを取りたい一心でサンルームのピアノを弾きまくり、エネルギーの採取に時間をかけ、こっちのアンジェラは、翌週の仕事の調整で書斎にこもり仕事中。
暇だったら、書庫の古い文献とか見てみたら?とリリィに言われ、地下の書庫を開けてもらった。
「うわっ、ナニこれ???」
宗教画や、天使に関わる文献、古い装飾品や本、武器、置物…所狭しと置かれている。
「もしかしたら、あっちの世界と同じかもしれないし、違うかもしれないから、見てみるといいよ。あ、でもJCは触らないでね。触ったところに飛んだりしたら、困るから。」
そう言って二人をその場に残し、リリィはまたサンルームでピアノを弾いていた。
瑠璃とあっちのアンジェラは興味深々だ。
「ねぇ、アンジェラ、こんなの見たことある?」
「あぁ、確かにこの中のいくつかは見た記憶があるよ。でも、ずいぶん前の火災の時に全て消失したり、どさくさに紛れてなくなってしまったんだ。
それにしても、すごい数だ。同じように生まれても、行動の違いでこうも違うんだな…。」
「すごいね。国宝級の装飾品っていう感じのも多いね。」
うっかり触らないように全てガラスケースに入れられているが、嵌められている宝石一つ一つでも相当の価値がありそうなものばかりだ。
その時、アンジェラが茶色い紙に包まれた物に目を止めた。
「これだけ、どうして紙に包まれているんだろう?」
「本当だ…中見てみたいけど、触ったら怒られそうだから、お姉さんかお兄さん(アンジェラ)を呼んでこよう。」
「そうだな。」
二人はアンジェラの書斎とサンルームにそれぞれ行って二人に声をかけた。
「兄さん、開けて見せてもらいたい紙包みがあるんだが、開けてもらってもいいか?」
あっちのアンジェラがこっちのアンジェラにそう言った。
見た目はこっちのアンジェラの方が若いのだが、風格はこっちのアンジェラの方が偉そうだからね…。『兄さん』と呼ばれて、まんざらでもないらしく、返事も簡単だった。
「3分で行くから、待っていてくれ、ブラザー。」
瑠璃が聞いたのも同じような答えだった。
「お姉さん、開けて欲しい紙包みがあるんだけど、お願いしてもいい?」
「あ、いいわよJC。じゃ、ここ片付けたら行くね。」
『JC』は私の呼び名になってしまったのか???と思いつつも同じ名前なので、仕方ない。二人が出てくるまで、待つことにした。
言った通り、二人は3分ほどで書庫の前で待っているJCとあっちのアンジェラのところにやってきた。
「で、その紙包みとは?」
こっちのアンジェラが言うと、綺麗にガラスケースに並べられた装飾品とは別の縦長のガラスケースに、やはり短剣や腕輪がゴロゴロ並ぶ中の一番下の段に、茶色い紙に包まれた薄くて四角い物が数個重なって入っていた。
アンジェラは文献などを読むための作業机の引き出しから白い手袋を取り出すと、それを手に嵌めてガラスケースの扉を開けた。
茶色い紙は相当古いようで、触るとところどころが崩れて床に落ちた。
「古いな…。記憶にない物だ。」
リリィも作業机の電気をつけて、真剣に見守る。
紙包みは全部で4つあった。
念のため、リリィはスマホで紙包みの外側から写真を撮る。
アンジェラが慎重に紙をめくり、外していく。ずいぶんと大きい紙で何回も包まれている。
外側ほど内側は茶色くなかった。
包み方はまるでプレゼントのラッピングのようだ。
ようやく、中身が見えてきた。
最後に紙をめくった先に見えたもの…それは…。
「「「「これは!!!」」」」
4人の声が重なった。
あの、『ユートレアの伝説』や『星降る夜の天使たち』と同じような絵本が入っていたのだ。今、開いた包みに入っていたのは、オレンジの表紙の絵本だった。
そして、タイトルは『天使の羽のひみつ』とドイツ語で書かれている。
「げ、マジ?アンジェラ、持ってんじゃん。オレンジのもあったってアンドレ言ってたよね…。」
外の包み紙の劣化具合からは信じられないくらい中の絵本は新しくてきれいだ。
「信じられん。」
アンジェラの声に、リリィは逸る気持ちを押えつつ、言った。
「ねぇ、あと三冊あるってこと???やばいよ~。」
リリィがそう言った時、アンジェラはリリィに言った。
「ライルを呼んで来い。」
リリィはバタバタと廊下を走ってライルを呼びに行った。




