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317. あっちのアンジェラの捜索(1)

 僕、ライルは、僕のいる世界とは別の世界に住む女子中学生の瑠璃リリィと一緒に彼女の住む世界に来た。

 四日前から行方不明になっている彼女の婚約者であるこっちの世界のアンジェラを探すためである。

 瑠璃リリィが言うには、アンジェラはあの未来に起きる事がページに描き出される不思議な絵本の出どころを探していたと言うことだ。最後に来たメッセージから、彼はユートレア城近くの古本屋までたどり着き、その古本屋が見つかったと言うメッセージを最後に消息が途絶えたらしい。

 イタリアの家の倉庫に出た僕と瑠璃リリィは、まずこれからの行動を決める。

「おい、JC。タブレットとかないのか?」

「あ、うん。あるけど…どうして、JCって呼ぶのよ。」

「僕にとってリリィは僕のリリィだけだから、呼びにくいんだよ。」

「ふうん、僕のリリィねぇ…。」

「何だよ、文句あるのか、JC。」

「イヤ、別に…。アンジェラのリリィではないわけ?」

「アンジェラのリリィ以前に僕のリリィなんだよ。うるさいな。」

 ライルは瑠璃リリィとは気が合わないと感じていた。僕のリリィは優しくて、いつも僕のことを最優先に考えてくれる。なのに、こいつは生意気で自分の事ばかりだ…。

 ライルは苛立ちながらも、自分の感情を抑える。


 瑠璃リリィはタブレットを持ってきてライルに渡した。

 ライルはそのタブレットの地図アプリでユートレア城の近くにある古本屋を検索する。

 半径5km以内で2軒、10km以内だと5軒…。近いところから当たっていった方がいいだろう。

「おい、JC。もちろんお前も一緒に行くんだろうな?」

「え、連れて行ってもらえるの?」

「僕に何かあったら、お前が僕のリリィにその事を伝えるしかないだろう?」

「あ、そうだよね…。でも行った先から帰れるかな?」

「家に行けるならどこからでも行けるだろ?」

「そっか…。」

 なんとも頼りないJCの反応にかなりがっかりするライルだった。

「JC、アンジェラの携帯に電話をかけてみてくれ。」

 瑠璃リリィは電話をかけたが、『電波の届かないところにいるか、電源が入っていない…』というアナウンスが流れた。

「連絡がつかなくなった時にはすでにこの状態だったか?」

「うん。」

 瑠璃リリィの顔色が曇る。

「ほら、行くぞ。」

 ライルは瑠璃の肩に手をかけ転移した。場所はユートレア城の城壁の内側だ。

 門は内側から開けられる。さっきマップで確認した一番近い古本屋に近い門を選んだ。

 ユートレア城には門が5カ所ある。正面の他に東西南北に位置する場所だ。

 この城は川の中州にあり、橋などはかかっていない。外部からはほぼ侵入することは難しいのだ。

 ライルは翼を出し、ユートレア城の王の間近くのバルコニーに立った。

「JC。ちょっと来てくれ…。」

「どうやって?」

「お前、飛べないのか?」

「あ、あぁ…うん。そう言えば、練習しておくように言われたけど…。してない。」

 ライルは仕方ないな、という感じで、瑠璃リリィのところに戻り、肩に担いでバルコニーに飛んだ。

「きゃ。」

「うるさい。」

「ごめん。」

 ライルは瑠璃リリィをバルコニーに下ろし、川の向こう岸を指さすと、あれが一番近い古本屋だと言った。

 そこには間口の狭い小さな本屋があった。

 現在のこの地の時刻は昼過ぎ、店は開いているかどうかは見た目ではわからない。

「JC、僕はあの店に行ってくる。通話可能なアプリで通話状態のまま中に入るから、会話を聞いていてくれ。いいか?」

「わかった。」

 ライルは瑠璃リリィのスマホを受け取り、タブレットと通話状態にした。

 ポケットにスマホをしまうと、ライルは例の古本屋の入り口のすぐ横にいきなり転移し、中に入っていった。


 本屋に入ると、ライルは流ちょうなドイツ語で年配の男性店員に話しかけた。

「すみません、この本屋に絵本は置いていますか?」

「どんな絵本?作家の希望はありますか?」

「作家は特にないんですが、天使の話が描いてあるのがいいですね。」

「最近は天使の絵本が流行なのかな?何日か前にも同じような質問をされたけど、うちには置いていないって答えたばかりだよ。」

「もしかして、その人って背の高い黒髪の男性ですか?」

「あぁ、そうだよ。絵本のコーナーを見てから希望の物はなかったと言って帰って行ったよ。」

「絵本のコーナーを見せてください。」

「あ、そこの右奥の棚だ。自由に見ていいよ。」

「ありがとう。」

 何冊か手に取ったが、やはりあの絵本の様なものは見当たらなかった。

「お邪魔しました。希望の物は見つかりませんでした。」

「あぁ、また何か欲しい本があったらよっておくれ。」

「ありがとう。」

 ライルは本屋を後にし、店の前を少し通り過ぎてからいきなり転移した。

 もちろん、周りに人がいないことを確認している。


 ユートレア城のバルコニーに戻ったライルは瑠璃リリィに言った。

「さっきの本屋は関係なさそうだ。次に行くぞ。」

 ライルはまた通話を聞いていろと言う。そして消えた。

 次の本屋はここからは見えない場所の様だ。音声だけが聞こえてくる。

『ガランガラン』本屋のドアについているベルの音がする。ライルが店員に話しかけた。

「すみません、この本屋に絵本は置いてありますか?」

「どんな絵本がご希望ですかね。」

 やはり、男性の店員の声だ。若そうではない。

「天使を題材にした絵本を探しているんです。」

「あぁ、そういう絵本なら、そのドアの向こう側に特別な部屋が作ってあるんだ。

 こっちに来て見てみるといい。」

 そう言って『ギィ』とドアが開く音がした。

 そして、一歩踏み入れる足音のあと、「あっ」という慌てたライルの声が聞こえて『ガツン』という音と共に通話が切れた。

『ど、どうしよう…。』

 瑠璃リリィは焦った。きっと今の店がアンジェラの行方不明に関わっているに違いない。もう少し待ってみるべきか、家に戻って警察にあの店を調べてくれと言うべきか…。

 瑠璃リリィは一時間だけ、待ってみようと思い心に決めた。


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