315. 最悪な事故
4月10日、金曜日。
その日の朝は平和そのもの…。段々と気温も高くなり、朝食後に家の敷地内の海岸で散策しても穏やかな陽気の中で、子供たちの水遊びにも力が入るようになってきた。
マリアンジェラのライルに対する恋心はまだそのまま継続中の様で、ライルが散策に同行すると、ライルと手を繋ぐのはマリアンジェラと決まっている。
今朝は早めに学校に行くつもりで朝起きたら早々に分離していたライルだったが、マリアンジェラのおねだり攻撃にやられて、結局散策に付き合う羽目になっていた。
「ねぇ~、ライル…抱っこ。」
「え~?」
「おねがい。抱っこ。」
ライルをうるうるの瞳で見上げておねだりをするマリアンジェラ…。こうなると抱っこするまで引かないと皆知っているので誰も助け船を出さない。
「もぉ~、しかたないなぁ…。」
見た目が小さい割に中身が詰まっていて異常に重いと知っているだけに、若干嫌そうな雰囲気を前面に出しつつ、抱っこをするライルだった。
「マリー、ズルい。ミケーレも抱っこして欲しいのに…。」
ミケーレがそういうと、アンジェラがひょいとミケーレを抱っこした。
ミケーレの顔が『パアッ』とうれしさであふれ、でもちょっと恥ずかしいのか、アンジェラの胸に顔をうずめてぐりぐりした後、ポツリと呟いた。
「パパ大好き。」
アンジェラ、渾身のにやけ顔でミケーレの頬にチューをする。
それを見たマリアンジェラはライルにチューをせがんでいる。
「あ、ミケーレ、いいなぁ…チューしてもらった。マリーもチューしてほしいなぁ…。」
頬っぺたをライルに突き出すマリアンジェラだった…。
仕方なくチュッとした時に顔の向きを変えて、唇にキスさせて満面の笑みを浮かべているのはご愛敬だ。
「むふふ~。朝から愛の証明よ、ふふん。」
全く、困った幼児である。
今日語るべき事件は、この後起こった。
いつものように砂浜に到着し、やっと抱っこから解放されたライルはホッと一息。
そこで、ミケーレはきれいな貝殻を拾い、マリアンジェラは翼を出して少し離れたところまで行っていた。
「マリー、あまり沖に行っちゃだめだぞ。」
アンジェラが声をかけたが、マリアンジェラは無反応だ。
聞こえないのかと思い、ライルが翼を出してマリアンジェラの側まで行こうと移動を始めた数秒後、『ザバッ』という音と共に、目の前でマリアンジェラが大きなサメに喰われ、海の中へと引きずり込まれた。
「マリー!」
ライルの絶叫と共に、緊張がピリピリと伝わり、アンジェラもリリィも立ち尽くしてしまった。ライルに委ねるしかない。即死さえしていなければ、何とかなる。
「頼む、ライル。」
アンジェラがそう言った時にはもうライルの姿もそこにはなかった。
数秒後、海面におびただしい血の色が広がり、アンジェラとリリィが絶望の表情でそれを見つめて震えている時…ミケーレが指さして言った。
「あ、マリー。」
アンジェラとリリィが恐る恐る顔を上げると、口が裂けたサメを尻尾掴んで逆さに持った大きくなっているマリアンジェラがふよふよと飛びながらこっちに近づいてきた。
「マ、マリー大丈夫なのか?怪我は?」
「お洋服、ビリビリ。サメのお口もビリビリ。ひゃひゃひゃ~。」
そして、うしろからライルが飛んできた。
水中で恐ろしい物を見たらしい。ライルが少し笑いを堪えながら説明してくれた。
「転移してマリーの目の前に行ったらさ、噛まれた状態で大きくなって、サメの口が裂けて…」
どうやら海面の血はサメの血だったらしい。
「これ、食べられる?」
マリアンジェラは食べること優先の様だ。
「マリー怪我してないのか?」
「うん、キラキラでカバーされてるから、マリーは怪我しないもん。」
「で、サメをやっつけるために大きくなったの?」
リリィが聞くと、マリアンジェラは首を横に振った。
「ううん。帰りは大きくなって、ライルとお手々繋いで帰ろうって思っただけ。」
「サ、サメは?」
「あ、これ?これ、ジャンプするんだね。ビックリよ。
でも、マリーが噛まれたら、ライルが心配してくれたからうれしい。」
全員かなりのドン引きだった。『すごいな、こいつ』と皆思っていたはずだ。
もしかして、ライル、リリィと同等に最強種?なのか…。
帰りは恋人繋ぎをライルとして、嬉しそうにいちゃいちゃしていたマリアンジェラだった。
家に着いた頃、未徠からライルに電話が入った。
今朝、亜希子が退院できたそうだ。特に問題もないとのこと、よかった。
あっちの世界に関与したことで、こっちの対処が可能になったということもあるな…。と思ったいい例となった。
結局、外でサメの解体ショーみたいな感じになり、部位に分けて冷凍庫や冷蔵庫に入れた。
今晩、お手伝いさんに頼んで調理してもらうそうだ。
どんな料理が出てくるのか…少し楽しみだ。




