314. 新学期とお婆様の病気
4月5日、月曜日。
あれ以来何事もなく2週間が過ぎた。変化と言えば、マリアンジェラの機嫌がずっと悪く、いつもぶすっとしていることくらいか…。
今日からライルの新学期が始まる。
朝、リリィが目を覚ますと、ライルは体の中にいなかった。
「あれぇ?どうしたのかな…」
「ん、リリィ。どうしたんだ。さあ、こっちにおいで…。」
アンジェラはわかっているのかわかっていないのか、ライルが中にいる時にはあまり迫って来なくなったが、いないときにはかなり激しく迫ってくる。
すごい、アンジェラ、本能でわかるのかな?
実は、この日の明け方、ふと呼ばれたような気がして目を覚ましたライルだったが、その時にリリィから出てしまっていたため、自分の部屋に戻ったのだ。
その直後、未徠から電話が来たのだ。
「ライル、お前が言っていた通りになった。亜希子が、亜希子が倒れた。
今救急車を呼んだ。すぐ来てくれ。」
「わかった。」
ライルはすぐさま服に着替え、スマホを持ち、日本の朝霧邸に転移した。
「お爺様、大丈夫、心配しないで。すぐに良くなる。お婆様は大丈夫だから…。」
2週間前に別の世界で見たのと全く同じだ。お婆様は脳梗塞だった。
救急車を呼んでいるため、最小限しか手を加えないで治癒させる。
手術は必要ないが、安静にして投薬治療をと判断された後に、もう一度手を加え、完全に治癒させた。
「お爺様、全て元通りになっていますが、数日はここで安静にしてください。
何かあったら、必ず僕に最初に言ってください。僕に連絡が取れなかったらリリィに…。」
「ん、何?お前とリリィは同じ人間ではないか…。」
「今は違います。僕たちは元々双子だったらしいですよ。僕がリリィの細胞を取り込み、一人として生まれたから、こんなにややこしくなったんです。彼女は独立した一人の女性、僕の愛する妹です。」
「そ、そんなことが…。」
「そして、ミケーレとマリアンジェラはリリィの子供です。」
ライルが未徠にカミングアウトをした瞬間だ。
亜希子を癒し終わった後少し経過を見てから、ライルは一度家に戻り、皆と朝食を共にし、学校へと登校した。
一か月以上ぶりの学校である。しかも、今日からは高校2年生として登校予定だ。
初日にカウンセラーがついて、どのように進めていくのかを指導された。
自分で受ける授業を決めることが出来る様だ。必須の授業と選択があるが、先のことを考え、できるだけ現在受けることが可能な授業を取っておくことにする。
実際の授業は明日からだ。授業は高校のどの学年の生徒でも受けられるようで、学年に関係なく顔を合わせることになる。
翌日から始まる授業に向け、どこの教室でその授業が受けられるのかを確認し、自分で時間割を作っておく。
それが終われば今日は帰ってよさそうだ。
帰り支度をしていると、今度は徠夢から電話が入った。
「ライル、この前アンジェラから聞いていた殺人未遂の犯人だが、今日出所したらしいんだ。それで、うちに警察官を二名派遣してもらうことになった。一応、知らせておこうと思ってな。」
「わかった。父様、もし母様の体調が悪くなっても救急車を呼んで自分たちだけで行かないでくれよ。あっちの世界では、病院に着いた途端に襲われているんだ。必ず僕が同行するし、僕がいれば、体調が悪いのもなんとかできるから。じゃないと、父様、命が危ないよ。」
徠夢はその言葉をきちんと受け止めているようだった。
留美の出産まで予定では一か月と一週間ほどだ。
何とかして、健康な子供を産んでほしい。
素直にそう思うライルだった。
情報を共有するために自宅に帰りリリィと融合することにした。




