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311. あっちの世界の拉致事件(2)

 もう一つの世界のアンジェラとJCリリィが倉庫の床で転んでいるところへ、ライルも空中から飛び出した。

「おっと。」

 危なくJCリリィを踏んづけるところだった。

 二人を立たせて、日本の朝霧邸に転移する。


 ライルは早速話を切り出した。

「僕のアンジェラも言ってるんだけど、自分の生きている世界じゃないのにあまり干渉するのは良くないんじゃないかって、僕も思ってる。

 実際、僕の世界では直系の親戚は徠人以外全員生きているし、こっちではほぼ死んでるんだろ?」

「あぁ、そうだ。」

 服の趣味の悪いアンジェラが言った。今日は黒い革ジャンを着ている。

「あと、もしこっちに来ている時にあのゲートが閉じてしまったりしたら、って不安になるんだ。」

「そうだな、それはわかるよ。」

「じゃあ、そろそろ始めるか…。父様…徠夢のヘアブラシ持ってきてくれないか?

 あと、スマホを貸してくれ。」

 アンジェラがJCリリィのスマホを渡してくれた。

 考えてみれば、別個体のはずなのに、指紋認証が解除できるのは不思議だ。

 バッテリーの残量を確認するが、30%では少なすぎる。机の上の充電器に接続して充電を開始する。その間に計画を練る。JCリリィが徠夢のヘアーブラシを持ってきた。

「本来だったら、君たちを連れて行って一緒にやらせるんだけどね。危険かもしれないから、今回は僕だけで行くよ。現地の様子を写真で送る。場所は送った写真の位置情報から判断してくれ。そして、警察に通報するんだ。

 もし、怪我していたら死なない程度に治しておくよ。とにかく警察に現地に行ってもらってくれ。もう、死んでいたら、諦めてくれ。じゃあ、このスマホからアンジェラ宛にメッセージを送るよ。」

 僕はこっちの世界の徠夢のヘアーブラシから絡まっている5本の毛髪を取りぎゅっと握った。

 僕は右手の先から金色の光の粒子になって崩れ落ちる。どうやら徠夢は命の危機に面している様だ。


 目の前の景色が変わった時、僕は一瞬かなり動揺した。

 それは、湖の底近くだった。

『まじか…。』

 徠夢の手を取り湖上へ転移する。岸に寝かせ、不本意だが人工呼吸を行う。

 いわゆる心肺停止状態だ。指先に空気中の電気を集める。雷を落とすときと同じように操作できるものなんだな…初の試みだが、使えそうだ。

 徠夢の衣服を剥いで、胸に両手を当て電気を流す、短く、少し強めに。

『バンッ』と音がして体が少しのけぞる。

 次の瞬間呼吸が戻り、心拍が再開した。体を調べると背中に刃物の刺し傷があった。

 これ以上出血しない程度に傷の内側の大きな血管を治癒させる。

 ここは、どこだ?JCのスマホで位置を確認する。防水で良かった。危なく水没させるところだった。


 山梨県の聞いたこともないような湖のようだ。

 徠夢の写真を撮り、アンジェラへ送る。地図アプリの位置情報もスクリーンショットを撮って送った。メッセージも送っておくか…。

『転移したら湖の底だった。心肺停止、現在呼吸・心拍ともに再開』

 徠夢の額を触り記憶をコピーする。

 やっぱり、あの北山留美の元同僚の眼鏡のやせ男が犯人の様だ。

 病院で襲われ鈍器で殴られた記憶が最後だった。

 殴られた箇所も調べてみる。硬膜下血腫が出来ている。このままではこれが原因で死ぬだろう。血種を取り除いて脳のダメージを修復する。

『これだけ殴られて意識無いやつの背中を更に刺すなんて、どんだけ恨まれてるんだ…。』

 しかし、犯人の男の名前は僕も知らない。

 アンジェラに追加でメッセージを送っておく。

『後頭部を鈍器で殴打、硬膜下血腫あり、治癒させた。犯人は北山留美の元同僚、眼鏡の痩せ男、名前は知らない』

 さて、留美はどこにいるのだろう…。

 その時、アンジェラの携帯から電話が入った。

「ライル君、すまない。徠夢は、大丈夫なのか?」

 かなりの動揺具合である。

「まだ意識はない、出血は止めたけど、どれくらい出血したかわからないからね。

 警察には連絡したのか?」

「警察に連絡したが、まだ動いてもらえない。どうしたらいいのかわからないんだ。」

「はぁ…。まぁ、そんなもんだよね。うーん…、瑠璃リリィに聞いてほしいんだけど、石田刑事って名前聞いたことある?」

 アンジェラは瑠璃リリィに電話を代わった。

「知ってる、石田刑事さん。私が行方不明になったときに捜査してくれたって言ってた。」

「結構前だな…。連絡先わかったら電話かけて家に呼び出してくれないか?今すぐ。」

「え?夜中の三時だよ。」

「徠夢が死んでもいいの?このままじゃ寒くて死ぬかも。」

「わ、わかった。また電話する。」


 5分ほど経過して、瑠璃リリィから電話がかかってきた。

「今、こっちに石田刑事さんが来てくれるって。あと三分くらいで着くって言ってた。」

「じゃあ、着いたら僕にビデオ通話をかけてくれる?すぐにだよ。」

「わかった。」

 更に三分、瑠璃リリィからビデオ通話がかかってきた。

「もしもし、ライル、刑事さんがきてここにいるんだけど、電話代わるでいい?」

「あぁ。」

 石田刑事がビデオ電話に出た。僕の世界の石田刑事と同じ風貌だ。

「夜中にすみません。実は、朝霧徠夢と妻の留美が拉致されたと思う件で、徠夢を発見したのですが、現在意識がなく、僕には土地勘もないので困っています。救急車と警察官をここに手配してもらうかしてもらいたいんですが、アンジェラが電話で依頼しても断られたそうなので、石田刑事さんに直接お願いしています。」

「あ、あの、あなたは誰かな?」

「信じてもらえるかどうかはわかりませんが、僕はこことは別の世界の者で朝霧ライルと言います。」

「はぁ?何言ってるんだいあんた。ふざけるにもほどが…」

 僕はそのまま、彼の前に転移した。

「徠夢は鈍器で高等部を殴られた上で背中を刺されています。そして意識のないまま湖に沈められていました。今すぐ救急車を要請してください。ただ、僕はこの世に存在しない人間なので、僕が通報したり事情を説明したりすることは出来ません。」

「あ、あ…。え?」

 いきなり現れた僕に動揺し、恐怖で顔が歪んでいる。

「驚かせてすみません。信じてもらうために姿を見せました。徠夢の状況も確認してください。」

 僕は石田刑事の腕を掴み元の場所に転移した。

 濡れて意識のない徠夢の状況を見て、石田刑事が僕との通話を切り、どこかに電話をかけ始めた。

「君、ここの場所わかるか?」

 僕はスマホの地図アプリを開いた。石田刑事はそこに表示のある住所を伝え緊急要請をした。その電話から5分ほどで、救急車が到着、石田刑事は付き添って病院へ向かった。

 僕も一緒に行ったが、その道中、留美がまだ行方不明なこと、それに対し警察は捜査らしい操作をしていないこと、そして、犯人は留美の元同僚の眼鏡をかけた痩せた男だと言うことを伝えた。

「君になぜそんなことがわかるんだ?」

 僕は石田刑事の腕を掴み、僕が見た徠夢の記憶、病院で襲われた時のものを見せた。

「わっ、なんだ今のは…。」

「徠夢の記憶です。襲われた時の。それ以降目を覚ましていない。」

「どうやったんだ。」

「石田さん、僕はいわゆる超能力と言われる力を持っています。

 先ほども言いましたが、僕は並行する別の世界から朝霧瑠璃リリィに頼まれて来ました。僕の世界にも石田さんは存在していて、色々なことで助けてもらったんです。きっと理解を示してくれると信じています。

 残念ながら、犯人の男の氏名までは知りません。これから留美を探しに行ってきます。

 どうか、徠夢をお願いします。」

 僕はその直後に転移し、瑠璃リリィとアンジェラのいる朝霧邸に戻った。


「あ、ライル。」

「石田さんが救急車を要請してくれて今病院へ搬送中だ。」

「ありがとう…うっ。」

 瑠璃リリィは我慢していた涙が込み上げてきたようだ。

「次は留美だ。ヘアーブラシとかあるかな?」

 瑠璃リリィは走って取りに行ったが、髪の毛はついていなかった。

「あとは…血液か唾液が着いた様なもの…。」

「あっ」

 瑠璃リリィがあわてて徠夢と留美の寝室に走り、ドレッサーの横にあるごみ箱を漁った。

「これ、どうかな?靴擦れして絆創膏貼ってたんだ、いなくなる前の日に。」

 それを触ると、ライルはまた光の粒子になり砂のように崩れ落ちた。絆創膏だけが床に落ちる。

「これ、どうなるんだろう?」

 瑠璃リリィが呟くと、アンジェラは無言で首を傾げた。



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