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305. これからの双子の形

 ライルはリリィの気持ちを聞き、自分の気持ちを伝えたことで、またこのままやっていこうという気持ちに切り替えた。一人きりで悩んで、いずれ姿を消すということも考えていたからだ。ライルは本来見栄っ張りでなかなか自分の考えを他人に見せたりはしない。

 しかし、相手が双子の片割れ、自分の半身であるならば、話は別だ。

 結局のところ、ライルもリリィもお互いに依存し、お互いを必要として過ごしてきたからこそ、現在の自分を保っていたのである。

 そういえば、リリィじゃなくなりたいなんて、一回も思ったことないな…。

 男でありながら、女になり、出産まで経験したことは、時には厳しい現実もあった。

 僕には子育ては少し早い気がする。

 いつも、赤ちゃんが泣いたら、一緒に泣いていたのはライルの自我だ。


 そして、アンジェラが死にそうな目に合ったら、駆け付けて自分を犠牲にしてでも助けてきたのはリリィの自我だ。

 自分の片割れのことながら、嫉妬を覚えるよ。

 僕もそれくらい自分を想ってくれる人が世の中に一人でもいてくれたら…。

 脳内でそんな事を考えていたら目の前にまたリリィが現れた。しかもすごく近い。

「わわっ、近いよ顔がくっついちゃいそうじゃないか。」

「え?別にくっついても大丈夫じゃない?いつも重なってるくらいだから。」

「むぅ。チューしたみたいになっちゃうって言ってんの!」

「あ、チューはダメ。チューは浮気だから。」

「誰に言ってんの?」

「ん?自分自身。」

「で、朝食に行こうとしてるんだけど、なんでまた出てきたの?」

「ライル、私、ライルが死にそうな目に合ったら、どんなところにでも助けに行くよ。」

「え?」

 聞こえたか?いや、口に出してないぞ…。

「でも、そのためにはバラバラになっていないとダメだってわかったの。」

「あ…。そういうことか?」

「そんな気がするのよ。融合してたら、共倒れになる。」

「確かに、そういう可能性はあるね。」

 早く、朝食を食べようとせかされて、二人でダイニングへ急いだ。


 アンジェラと子供達、リリアナとアンドレはすでに朝食を食べ始めていた。

「ライル、おはよう。」

 リリアナが声をかける。

「あ、うん。おはよ。」

 ミケーレがニヤニヤしながらライルに言った。

「ちゃんとパンツはいて寝ないとダメだって。パパがお仕置きするってよ。」

「…。」

「ミケーレ、やめなさい。ライルはベッドに入ってきたんじゃなくて、いつもみたいにリリィと一体化したんだよな?」

「あ、うん。体が無いから、全然眠れなくて…。」

「そうなのか?」

「うん、疲労しないからだと思うけど…それはそれで、かなりストレスでさ。」

「そうだろう…心配するな。家にいる時はいつでも二人で相談して一体化してもいいし、その時その時で決めればいい。」

「うん、ありがと。」

 リリィがアンジェラに言ってくれたみたいだ。


 リリィが僕に気を遣って話しかけてくれる。

「ねぇ、ライル。もしかして、食べ物も体がないとおいしくないんじゃない?」

「あ、うん。そうかな…。食べる必要がないってのもあるけど、味もしないしね。

 ただ、口に入れたものはエネルギーにはなっているみたいなんだ。」

「うっわ、味しないとか最悪ね。」

 リリアナがしかめっ面をして悪態をつく。リリィが気を遣って聞いた。

「じゃあ、食事の時は一緒になってた方がいいんじゃないの?」

「う~ん、食べなくてもいいんだけど…。」

「そんなのダメよ。食事は家族のコミュニケーションのひとつでもあるんだから…。」

「あ、うん…。そうだね。」

 なんだかライルの勢いがなくなっている。


「あ、そうそうコミュニケーションと言えば、あれ、あの絵本。ミケーレ、また変わったんでしょ?さっき言ってなかったっけ?」

 リリィがミケーレに聞くと、ミケーレがアンジェラに言った。

「パパ、さっきの写真出せる?」

 アンジェラがタブレットで撮影した写真を見せてくれた。

「ライル、このニコラスにもらった絵本が、あのユートレアの伝説と同じように少しずつ変わってきているんだ。」

 アンジェラがそう言うと、ミケーレがタブレットの画像を進めて言った。

「双子の天使の石像をね、王様が建てるってとこまでのお話だったの、昨日までは。」

 ライルが画像を覗き込んではっと目を見開く。

「これって僕とリリィじゃないか?」

「そうなの、そしてね、次のページがすごいんだよ。」

 ミケーレがめくったその先の画像は、石像になった天使が黄金色に輝きながら翼を広げ、空を舞い、天に向かって二人で飛んでいく絵だ。

「文字はなんて書いてあるんだ?」

『星降る夜の災いから大切な人たちを救うため、天使たちは金色の輝く翼をひろげ、空へととびたちました。』

「星降る夜の災いって何?」

 リリィが首を傾げて誰に言うでもなく質問をする。ライルが急に立ち上がった。

「彗星群が飛来するとか?」

「「「えー--っ」」」

「そんなの来たら地球が終わっちゃうんじゃないの?」

 リリィは、全くあり得ないとひたすらビビる。リリアナも同調する。

「確かに、そんなことがあれば、本当に地球は終わっちゃうよね…。」

 その話を聞いていたアンジェラが、「まぁ落ち着きなさい」と言った。

「あくまでも、この絵本に描かれているお話は、完全に実現する話とは限らない。

 実際、もう一冊の方だって事実とは少しずつことなっているだろ?」

「そうだけど…。」

 リリィは不安そうな顔で言った。

「なぁ、みんな、私が知人を通して、天文学の教授とかでツテがないか調べてみるから、この話は私に預けてくれないか。」

 皆、素直に同意して、大騒ぎの中朝食は終わった。

 歯磨きをした後、リリィはライルの部屋に行った。

「皆で散策するけど、ライル、私と一緒になる?それともバラバラで一緒に行く?」

「ん…じゃあ、今日は融合してもいいかな?」

「やっぱり噛むの?」

「うん。融合なら、それしかないんだよ。」

「わかった。でも指でいいよね?」

 一瞬ライルが固まった…。

「あ、あぁ、うん大丈夫かな~。」

「やっぱり、チューじゃなくてもいいんじゃん。こらぁ!」

 リリィが笑いながら怒ってライルの指を噛んだ。ライルもリリィの指を口に突っ込まれて、ウッとなりながらも噛んだ。

 二人は金色の光の粒子になり絡み合いあっという間にライルになった。

「これって…どっちになろうとか思わずに融合すると、ランダムなのかな?」

『そうなのかな?』

 脳内でリリィが返事をする。

 ま、いっか。今日はライルで散策に行くことにした。


 海岸であさりでも拾ってこよう。


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