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303. ライルの心情(2)

 ライルは一人、日本の朝霧邸の自室にいた。

 そうだ、僕は昔、ダイニングで妹に指を切られ、妹も指を切って…。

 どうしてこんな大切なこと、今まで思い出せなかったんだろう。

 この前まで、イタリアの家にいたあの子が僕の妹だった。それは知っていたはずだ。


 僕は今とても迷っている。

 心の中に、いや僕の中に妹、リリィがいないのが寂しくて辛いのだ。

 僕は、元に戻る選択肢も考えた。また、融合すればいいのではないか。

 今まで通り、昼間はライルになり学校に通い、夜は家族とリリィになって過ごす。

 それが最善の形ではないのか?

 いや、自信がないのだ。僕はアンジェラを本当に愛しているのか?

 多分、彼を愛しているのは僕じゃない、妹だ。

 あまりにも融合が全身に及んでいて、どこまでが自分の自我でどこからが妹の自我かはわからないが、今の僕にアンジェラに抱かれろと言われても、それは無理な話だ。

 あんなに好きだと感じていたのは何だったのか…。

 上位覚醒する前の分身体とは全く違う状態になるなんて…。

 分身体はあくまでも僕そのものを二つに分けた状態だった。

 ただ、分身体に感情はなかった。本体と同じ行動パターンを取り、手に負えないときにはリアルタイムで指示を仰いでくる、まるで遠隔操作をしているもう一体の自分の体の様だった。


 しかし、今の状況はどうだ…。

 二人とももう生身の体が要らなくなった。だが、リリィは生身の体に執着し、自分で体を癒して中に入り続けている。僕は、そんな馬鹿らしいことをするリリィは浅はかだと思っていたのだが、この前彼女を見た時に、どうしても彼女に触れたくなってしまった。

 あの、生身の体を抱きしめてみたくなった。

 自分で要らないとか言ったのに、不思議な感覚だ。

 だから融合を口実にキスをしたのだ。あぁ、僕ってダメな奴みたいじゃん。

 一番キスとかしちゃダメな相手に、しかも人妻で自分の妹だし…。


 そう思いながらも、眠る必要のない体を持て余し、何度も何度も同じ思考を繰り返す。

 日本時間の早朝、イタリアでは深夜頃だ…。

 リリィ寝てるかな?

 僕はなぜかリリィの枕元に転移し、彼女の唇を指で触り彼女の中に入った。

 融合ではなく、浸入だ。


 生身の体に入ったせいか、急激に眠気に襲われた。

 気が付いたら翌朝の7時だった。

 生暖かい風が頬をくすぐる。

 枕元にしゃがんで僕の顔を覗き込んでいるマリアンジェラの鼻息だ…。

「ん…。え?あ?えぇっ?」

 僕はアンジェラとリリィの間に川の字になって眠っていた。しかも全裸で。

「ライル、さびしかったの?」

 マリアンジェラが目を伏せて僕とアンジェラの間の隙間にぐいぐい入ってきた。

 おかげでアンジェラもリリィも目を覚ました。

「ラ、ライル…。どうなってる?」

「…ははは、ごめん寝ぼけてここに入ってたみたいで…。」

 背後からリリィが僕のお尻をさわさわと触り…。

「ちょっとぉ、マッパで人のベッドに入って来ないでよ。うぇ~触っちゃったじゃないの。」

 と叫び、超近い目の前のマリアンジェラはうっとりと僕を見つめて、今にもタコチューをしそうな勢いだ。

 いつリリィの体の外に出てしまったんだろう…。

 僕は恥ずかしさのあまり、『ごめん』とだけ言って使っている部屋に転移した。

 げげ、ライルの黒歴史作っちゃったじゃん。

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