301. 不思議な絵本(2)
朝、朝食を食べて散歩から帰ってきたミケーレは、毎日の日課となっている絵本チェックを始めた。
今は3月中旬。この絵本をもらってから二か月半余り経った。
その間に、お話が少しずつ変化してきた。
最初の方は絵が綺麗な絵本だなというだけの印象だったこの絵本がずいぶんと変わってきている。
この絵本のタイトルは『星降る夜の天使たち』だ。
最初のページには両開きのページいっぱいに夜空と、夜空に浮かぶ星が描かれている。
一番最初にこのページを開いた時にはそれだけだった絵に、今、ページの真ん中には、湖の前に建っている美しい白鳥の様なお城が描かれていた。
『むかし、むかし、とても美しい王子様とお姫様がいました。』
次のページに進むと、まだ小さくて可愛らしい王子様とお姫様が手を繋いで一緒にいる絵が描かれています。
『二人は双子で、お互いの気持ちを言葉に出さなくても分かり合える特別な存在でした。』
ミケーレはこのページを読んで思いました。
僕もマリアンジェラと双子だけど…特別な存在であっても、お互いの気持ちを黙っていてもわかるなんてことは、今まで一度もないなぁ…。
まぁ。絵本のお話だし、現実とはまた違う。そう思い次のページをめくりました。
この絵本はもう50回以上毎日のように読んでいます。
それなのに、次のページは昨日までの物とは変わってしまっていました。
『お前たちは、この星を守るために生まれてきた天使だ。これから起こるこの星の危機を救うために強くならなければいけない!そう言って、王子様とお姫様に神様からのお告げがありました。』
わぁ、このページ昨日は二人で遊んでいる絵が描いてあったのにな。
『おつげってなんだろう?まつげみたいなもんかな?』
次のページをめくる。
『王子様とお姫様はその日の夜からとても高い熱を出しました。
王様は二人を世界中の医者に診せましたが、何日も目を覚まさずに二人はとうとう死んでしまいました。』
うっわ、死んじゃったよ~。やっぱり、パパに見せた方がいいよね…。
また、次のページをめくった。
『二人の死を悲しみ、王様はお城の右と左の塔の前に二人の石像を建てました。』
え?うそ…この顔って…。
ミケーレは絵本を開いたまま両手で持ち、大急ぎでアンジェラの書斎に走った。
「パパ~、大変…。これ、見て…。」
書斎で仕事をしていたアンジェラは、ミケーレを抱き上げ、膝に乗せるとやさしく言った。
「どうした、ミケーレ、そんなに慌てて。」
「パパ、この絵本、また変わったんだよ。ほら、見て。」
ミケーレは最初のページに無かったお城の絵が『聖マリアンジェラ城』にそっくりな事を教えた。
「ね、これマリーのお城と同じに見えるよ。」
「確かに似ているな。」
更にミケーレはページをめくりアンジェラに『神様のお告げ』って何かを聞いた。
「あぁ、『お告げ』というのは、メッセージだ。こういうことが起きるから、こうしなさい。とかいう感じだな。」
「そうかぁ、まつげと似たものかと思った。」
アンジェラはミケーレの言葉に少し癒されながらも、子供の話だと馬鹿にすることなく真剣に聞いてあげた。
更にページをめくるミケーレ、彼が指をさしながら見せた死んだ王子と姫の石像の顔を見てアンジェラも焦りを見せる。
「こ、これは…ライルとリリィじゃないか…。」
「ね。パパもそう思うでしょ?」
ミケーレは、次のページには言葉が書かれていないことと、また夜の石像の絵だけが描かれていることから、きっと続きがまた出てくると思っている事をアンジェラに説明した。
「ミケーレ、おまえは賢い子だ。おまえの事を誇りに思うよ。
この絵本の絵を写真に撮って、ライルとリリィに送っておくよ。」
アンジェラは、また次のページが出て来たり、言葉が変わったら教えるようにミケーレに言った。
ミケーレは、パパに相談してよかったと少し安堵し、アンジェラに言われた通り、毎日必ず絵本をチェックするようにしたのだった。




