300. 不思議な絵本(1)
ミケーレはここ数ヵ月ずっと悩んでいた。
まず、クリスマスのパーティーの日を境に、何か大切な事を忘れちゃっている気がしている事が、常に頭の中に渦巻いている。
そして、もう一つ、やはりクリスマスパーティーの時にニコラスからもらった絵本の内容について、誰かに話すべきかどうか悩んでいた。
最初の悩みに関しては、1月に入った頃、リリィ(ママ)にお絵描きした絵を見せているときに重要なことが分かった。『ケーキどろぼうさん』だと記憶にある薄い色の金髪で、少しミケーレより大きな女の子のことだ。
彼女は、僕と遊んだり、お散歩したり、ケーキを食べられたりしたことがある、はずだ。
でも、名前を思い出せない。彼女のいるワンシーンを思い出す度、スケッチブックに絵を描いてきた。
それは、たまりにたまって段ボールにいっぱいになりそうなほどだった。
そして、パパがママに言ってた話を聞いて、その正体がわかったのだ。
「リリィは昔、ここでイセエビを獲ったことがあるらしいぞ。」
パパはそう言った。ということは、イセエビを頭に乗っけてる女の子はママだ。
きっと、ライルと同じように、過去からこっちに遊びに来ちゃったんだ。
きっと何回も遊びに来て、ケーキを食べたり、僕と遊んでくれたんだ…。
『そっか、きっと過去とごちゃませになっちゃうから、忘れるようになってるのかな…。』
これに関しては、自己解決したおかげで、ミケーレはすっきりしていた。
そうだよ。見たらわかるじゃん。小さいだけで、どっからどう見てもママだ…。
ママなんだもん、名前もリリィに決まっている…。
そしてもう一つの悩み…それは絵本である。
紺色の表紙の絵本は、多分最初から家にあったんだと思う。いや、それも今となってはよくわからない。
その絵本は、何回も読んでいるうちに、内容が変わることがわかった、とても不思議な絵本だ。
ユートレアのお城の王子様と天使のお話だ。
そう、このお話はうちのアンドレとリリアナのお話しとパパとママのお話しが混ざっている。一度は天使と王子様が幸せに暮らしたという話で終わっていたはずなのに、突然続きのページが現れて、天使が石になったのを見て自分から身を投げた王様の話だ。
まさに昨年10月、避難した時に、実際に起きた事件の記録と言っても過言ではない。
この絵本に助けられた部分もある。
よく注意しておけば、何かの役に立つのかも…。とミケーレは思っていた。
ところが、クリスマスパーティーで、ニコラスというアンドレの双子の弟から別の絵本をプレゼントされたのだ。
今度は赤い表紙の絵本で、描かれている内容は、紺色の表紙の物とは全く違った。
『さすがにこれは…こんなこと起きたら大変だよね…。これこそ、ただの絵本だと思う。』
ミケーレは、いつも冷静に考える。完全ではないが、前世、いや、本来過ごすはずだった今生のあるはずのない記憶が、全てではないが、時々頭の中に広がり、自分の周りにいる人間との関わりや、自分が置かれた状況を判断する材料として飛び出してくることがあるのだ。
『この赤い絵本、パパが忙しくないときに見せてみようかな…。』




