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30. 徠人の死

 一瞬の後、僕は小さい部屋の中にいた。

 壁には防音の素材が使われているようだ。

 手には先ほどの赤い自動車のおもちゃ。

 部屋の中は照明の灯りで明るいが、この部屋には窓がない。

 他には小さい子供用の椅子、床に転がるいくつかのおもちゃ、そして子供用の病院のベッドの様だ。

 そして、そこには、点滴が腕に繋がった男の子の姿があった。幼児のすがたのアダムだ。

「あ、アダム?どうしてこんなところにいるんだよ。おい、どうしたんだよ。」

 思わず体をゆする。

 あぁ、アダムを触った瞬間、僕の中に記憶と情報が流れ込んでくる。

 しかし、体をゆすっても反応がない。

 体に異常がないか調べてみる。何も傷や病気は見つからない。

 目を覗き込むと、半分開いた瞼の中で碧眼が金色の炎に燃えるように光った。

 それは、多分、覚醒した時の光だったのだろう。

 意識がないのはどうしてだ、体は何も問題がないのに。


 その時だ、アダムの口から、蒼く輝く黒い球が青白い炎を帯びて浮き上がる。

 なんだ、これは?

「ビービービービー」

 けたたましいアラームの音が鳴る。

 あ、アダムの体に取り付けられていた心拍数や血圧を知らせる装置がアラームで

 異常を知らせているのだ。

 人が階段を下りてくる音がする。まずい。僕はあわててベッドの下に潜り込み息をひそめた。


 白衣を着た男が一人、同じく白衣を着た女が一人。ドアの鍵を外から開け、中に入ってくる。

 外から鍵をかけているって、どういうことだ?

「おい!麻酔の量を間違えたんじゃないのか?早く中和剤を持ってこい。こいつを死なせたらおまえの命もないぞ。」

「い、今すぐ。」

 女が階段を駆け上がって行く。

 男がアダムの体に蘇生術を始めた。心臓マッサージ、人工呼吸をしているようだ。

 あぁ、アダム。間に合わなかったのか…。あれは、アダムの魂が体から抜けるところだったのか…。

 女が戻って来た。 

 何か注射を打っているようだ。

 その時、アラームの音が止まり、心拍の音を装置が伝える。

「あぁ、どうなることかと思ったぞ。」

「はい、すみません。」

「こいつが死んでしまっては俺たちの計画はそこで失敗に終わるんだからな。ちゃんと管理をしろよ!」

 その後、男と女は何やらモニターをチェックした後でその場を後にした。

 僕はもう一度アダムの顔を見た。

 半分開いた瞼から見える瞳にはもう生命の色は輝いていない。

 アダムの体は抜け殻だった。

 僕は、その場でできることはもう何もないと悟り、悔しい思いを胸に抱きながら自動車のおともちゃを見つめた。おもちゃの裏には「徠人」と書いてあった。

 アダムは徠人、父様の双子の弟だったのだ。


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