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297. 将来の夢

 何事もなく1カ月余りが過ぎた2月6日土曜日。

 学校もないので、ライルも朝からゆっくりダイニングで子供たちを観察中。

「ちょっと、何そんなに見てるのよ~。」

 顔を少し赤らめてマリアンジェラがライルに言った。

 すると、正面に座っているライルがテーブルに肘をつき、顎を手にのせて、グッとマリアンジェラに近づきながらやわらかい口調で言った。

「マリー、君は何をしていてもかわいいね。」

 口の周りにメープルシロップとホイップをこってりくっつけた2歳児に言うセリフではないと思うのだが…。マリアンジェラは顔がユデダコのようになり、湯気が上がりそうなほど恥ずかしさとうれしさで舞い上がっている。

「ライル、あまりマリーをからかわないでよ。」

 そう言ったのはリリィだ。

「からかってなんかいないよ。かわいいだろ。な?」

「かわいいのは知ってるけど、そんないい方したら、勘違いしちゃうでしょ。ライルはマリーの実の伯父さんなんだからさ。」

「僕は嘘がつけないだけだよ。なぁ、マリー。」

 マリアンジェラは満面の笑みだ。

 アンジェラは、横目で見ながら複雑な心境だった。自分たちは世間には能力を隠して、一部の協力者と親族との強い関りで人生を過ごさねばならない。ドイツの方の一族も元々の能力を隠し、親族間での婚姻率が高かった。

 今までは、ライルもマリアンジェラの親の一人として接していたが、リリィとの分離以降、どうもその関係性が変化しつつあった。どう見てもマリアンジェラはライルの事を男として見ている。前からその傾向はあったが、これも天使の時の因果か何かの影響なのだろうか?

 ライルの方は、完全に色男オーラ全開で、だれかれかまわず愛想を振りまき、人タラシとでも言ったらいいのだろうか、周りの人間はすっかりライルの虜となっている。

 幸いなことに、アンジェラとリリィ、リリアナとアンドレは、逆にライルが変わってしまったことで、彼への興味を失っている。

 あんなに恋焦がれた天使様であったのに、それはライルの中のごく一部のリリィだったのだ。


 アンジェラはいつもリリィを見ていると少しハラハラする。

 ほんのわずかな出っ張りにつまづいてスッ転んで、わんわん泣いたり。ドアが閉まっているのに直進して大きなたんこぶを作ったり…。

 ドジで泣き虫で、かなり幼稚なところがあるのだ。しかし、考えてみれば、14歳の時に3歳のライルと融合し、ライルが9歳の時にリリィとして出てきたときには確かに20歳前後の容姿だった。辻褄は合うのだ。彼女は現在25歳のはずなのである。

 ふと、小さい頃の彼女を思い出す。アンジェラの記憶は消さずにおいてもらったのだ。

 控え目で、いつも後ろから、出しゃばらずに我慢したり、優しい気持ちがあふれる行動が思い出される。小さいときから小食で、もぐもぐといつまでも口の中で食べ物を噛んでいた。

 そう考えると、ライルの姿になっている時にも食べ方が違うときがあった。

 小さくかじって、もぐもぐしているときはリリィだったのかもしれない。

 なんだか考えているだけでアンジェラは顔がにやけてしまっていた。

「アンジェラ、顔がニヤケテるよ。なんか変なことでも考えてたの?」

 マジ顔で首を傾げる妻リリィに、我に返ったアンジェラが咳ばらいをしながら言った。

「いや、なんでもないさ。子供たちの成長が楽しみだなと思ってだな…。」

 もっともらしいことを言ってごまかした。

「ふぅん、それで?」

 おぉーっと、突っ込みがライルから入ってしまった。

「あ、イヤそのだな…将来どんな職業に就きたいとか、何か希望があるのかな?とおもってだな…。コホン…。」

 アンジェラはシドロモドロだ。

「あ、はーい。僕ねぇ、パパの後を継いで、ホテル経営と芸能事務所のCEO兼オーナーになりたい。」

 ミケーレが即答すると、アンジェラが静かに言った。

「ミケーレ、そうか。お前が後を継いでくれるのか?」

「うん、僕がんばるよ。」

 それを聞いていたマリアンジェラが、アンジェラをチラッと見て、すごく小さい声で言った。

「かわいい、およめさんに、なりたい。」

 これには一同ずっこけ…そうになったけど、まぁ、子供だからね…。

「そ、そうか、お嫁さんか…あんまり早く行っちゃうとパパは寂しいなぁ…。」

 アンジェラも話を合わせあげた。

「ところで、リリィは何になりたいの?」

 ミケーレの急な質問に、リリィは慌てて…。

「わ、私?えっと、あ、アンジェラのお嫁さん。」

 一瞬の沈黙の後、大爆笑である。子供と同じくらいの天然をかましつつ、正直に答えただけのリリィであった。本当は、ついこの間まで、ライルとして医者になろうと思っていたわけで、でも、もうライルから切り離されてその道もリリィのものではなくなってしまったのだ。他に何ができるのか…考えることすらなかった。

「じゃあ、ママは夢がかなったんだね。」

 そうミケーレに言われ、我に返る。

「あ…、本当だ。夢叶っちゃったね。」

 なんだか、普通に終わっちゃった感が満載だ。

「ライルは何になりたいの?」

 解ってるけど、とりあえず聞く、という感じでミケーレが続けた。

 ライルは、少し目を細め、下向きに顔を下げたかと思うと目線だけ上げて皆を見て言った。

「ん、僕はね、そうだなぁ…。神になるよ。」

「「「え?」」」

 予想外の言葉、その上断言したのだ。なりたいとかのレベルではない。

 何か、確信があっての言葉のように聞こえた。


 その時、もう朝食を終えて自室にいたアンドレとリリアナがダイニングに来た。

 ミケーレがアンドレに同じ質問をする。

「アンドレは何になりたいの?」

「私は、優れた王になりたい。」

 さすが、優等生。

「リリアナは?」

「王を支える賢い王妃に…。」

 あっちゃーっ。次元が違うって…。ごめんちゃい。ダメな嫁で満足してて…。

 うまく、アンドレとリリアナが〆てくれたところで、皆、それぞれの部屋に戻る。


 部屋に戻ったリリィは、実は頭の中がまるでくちゃくちゃに丸めた紙屑みたいな感覚に襲われていた…。『将来の夢、将来の夢…』考えたことが無かったのだ。

 実際、アンジェラのかわいいお嫁さんにはなりたかったけど、その後はなんとなくだ、やさしいお母さんになりたいとか、そんな程度だ。

 このまま、人生は今をピークに下っていくのか…。と不安を抱いてしまった。

『自分にもできること、ないのかな…。』

 分離して自我が強くなって、より深く考えられるようになった。

『私、何かになれるのかなぁ?』

 そんな事を思いながら、寝室の窓越しに遠くを眺めるのであった。

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