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296. 消された記憶

 日本で生活していたはずのおっちゃん達が大変な目に合っていたと知りライルが救出し、10年くらい前んい置いてきたと聞いてから半月ほど過ぎた。

 1月5日、火曜日。

 正月気分もそろそろ終わり、ライルの学校も今日から新学期だ。


 ライルは、朝ごはんも食べず、与えられた部屋で誰かと電話で話していた。

「え?あぁ、そうなの…。ふーん。いいけど。じゃ、今着替えてから行くから。うん。じゃね。」

 学校に行く準備をしてから、荷物も持って部屋から出た。ダイニングを覗いて、アンジェラとリリィに声をかけた。

「おはよ。」

「おはよう。ライル、朝食は食べないのか?」

「ごめん、今行かなきゃいけないからさ、今朝はパスね。」

「どこに行くんだ?」

「父様に呼び出されたんだよ。」

「何かあったのか?」

「母様がお腹が痛いって言ってるらしくて、ちょっと診て欲しいってさ。」

「あそこには、未徠がいるじゃないか…。」

「産科じゃないから、外からじゃ何もわからないって。じゃ、急いでるから…。」

「いってらっしゃい。」

 ここ数日、父様のライルに対する態度が、更に軟化して、まるで仲良し親子のようになっている。私は少し、複雑な気分だった。

 なんだか、前にもこういう感じひしひしと感じてた気がする。


 15分ほど経って、ライルからメッセージが来た。

『便秘だった。(^^)』

 ははは、妊婦さんって、便秘するよね~。そういえば、リリアナは大丈夫なのかな?

 横で、モリモリのフルーツとヨーグルトをおいしそうに食べるリリアナに聞いてみた。

「リリアナは便秘とか大丈夫なの?」

「そういうのは、体験したことがありませんね。だいたい食べると押し出され…。」

 アンドレがリリアナの口をふさいで苦笑い。

「ははは、いつか夫婦漫才デビューでもしたらいいんじゃないか?」

 アンジェラは大うけで言ったが、アンドレは「ありえません」と拒否していた。

 リリアナって超天然…というか、意外と真顔で恥ずかしいことしたり、言ったりする。

 マリアンジェラは不思議そうに首を傾げて「べんぴってなぁに?」とパパに聞いている。

 そろそろその話題からは抜けたいところだね。


 ミケーレは朝から機嫌が悪い。

「ミケーレ、どうしたの?何かあったの?」

 私がそう聞いても、首を横に振るだけで答えない。

 ミケーレはマリアンジェラに比べ繊細なところがある。きっと何かしら悩みがあるのだろう…。後で探りを入れてみよう。


 今日は午前中からアンジェラのオンラインミーティングがあるとの事で、今日の散策はなしになった。

 子供部屋で、二人と一緒に遊んであげようと子供部屋に行くと、マリアンジェラはベッドの上でゴロゴロと転がり、端っこに行ったら反対側に転がるのを延々とやっていた。

「マリー何やってるの?」

「ん、べつにぃ。何もしてないよ~。」

 ミケーレは、というと子供用の小さいテーブルにスケッチブックを置いて、色鉛筆でお絵描きをしている。

「ミケーレはなに描いてるの?」

「えっとね~、ケーキどろぼうさん。」

「え?なにそれ?」

 すると、ミケーレが今まで自分で描いたという絵を大量に入れた段ボールをクローゼットから出してきて、その中の数枚を見せてくれた。

「ママ、僕ね。何だか大切なことを忘れちゃったんだよ。でも、この絵を描いたり見ているとね、思い出せそうなんだ。」

 そう言って、見せてくれたのは、白い翼に薄いクリーム色の金髪の天使の女の子が、手にケーキを持っている絵だ。

『ドキン』と私の胸が鳴った。

 他の絵も見てみる。全部、色々な種類のケーキを手に持っている。

 その中の一つは、頭のてっぺんに大きな青い薔薇を乗せている。

『あ…』既視感がある。

 他の絵も見てみる。

 紺色の表紙の絵本を読んで、片手にケーキを持っている女の子の天使。

 書棚の下のキャビネットで丸まりながら、ケーキを持っている女の子の天使。

 イセエビを頭に乗せて、片手にケーキを持っている女の子の天使。

「ミケーレ、この絵っていつ描いたの?」

「このお部屋に来てから。ライルが帰ってきて、ママが目を覚ましてから少し経ったときくらいだと思うよ。このテーブルで描くのがちょうどいいからね。」

 そう言いながら、絵を描くミケーレ。さっき見た書棚は、この部屋の書棚にそっくりだ。

 ふと、書棚のキャビネットを開けた。

「え?何これ?」

 そこには、丸めたブランケットと枕…そして、すっかりドライフラワーになった大きな青い薔薇の花が一輪あった。パッチンクリップがくっついている。

『ドキ、ドキ、ドキ』心臓が早鐘のように鳴る。

 ここに、誰かがいた。そして、多分、それは女の子…。


 恐る恐る薔薇の花を手に取ると、花から記憶がにじみ出てきた。

 ミケーレが、能力で出した青い薔薇を女の子の頭の上にクリップでつけてあげた。あまりにもてっぺんに乗っかっていたので、リリィが髪を結いなおし、耳の上に着けなおした。

『あっ、これだ…忘れてたこと…。』

 ミケーレから絵を一枚借りた私は、慌ててベッドルームに戻り、自分のいや…ライルの日記帳をめくって手に持っている青い薔薇から得た情報を書き留めた。

『ぶわっ』と身の毛が逆立つような感覚がして、忘れていたことを思い出す。

 過去に書いたページを読み返す…。間違いない、彼女の正体がわかった。

『アンジェラにも知らせなきゃ…。』


 アンジェラの書斎を覗くと、もうオンラインミーティングは終わっていた。

「アンジェラ…今いい?」

「あ、リリィ、どうした?」

「あのね、クリスマスの頃からなんだけど、私、何か大切なこと忘れてる気がしてたんだけどね、ちょっとわかったことがあるの。だから、情報をシェアしておきたいなって思って…。」

「さぁ、こっちにおいで。」

 なぜか、膝に座らせようとするアンジェラ…。まぁ、いいか…。記憶を見せるんだし、近い方が都合がいい。

「それでね、子供部屋に空いてるベッドが一台あるでしょ?」

「あぁ、そうだな。」

「あれ、誰のかわかる?」

「さぁ、予備かなんかじゃないのか。」

「それが多分違うの…。」

 ミケーレから借りた絵をアンジェラに見せる。イセエビを頭に乗せ、手にケーキを持っている金髪の女の子の天使だ。

「なかなか辛辣な絵だな。」

 そう言ったアンジェラの頬を手で触り、もう片方の手に持っている乾燥してしまった青い薔薇から得た情報をアンジェラに送る。

「…。この子は…リリィ。」

「え?リリィ?」

「あぁ、そうだ。言っただろ?穴に落ちて体が冷え切ったときに助けに来てくれたんだ。」

 予想外のアンジェラの言葉に、私は思わず、固まる。


 その時、私の頭の中で、記憶と想像と、触れてはいけない部分を自分自身で能力を使い封印したことに気が付いた。

 涙が、たくさん溢れて、前が見えない。

「私、ライルの双子の片割れなんだ…。生まれた後に外に出て、14年間施設で過ごした。ここにたどり着いた時、私、自分自身を本当のママだったらいいって馬鹿みたいに思ってたみたい…。でも、どうして…どうしてここに留まらずにどこかに行っちゃったんだろう?」

 アンジェラが私の体をしっかりと抱きしめてくれた。


「あ、頭が痛い…。」

 私は急激な頭痛に襲われ、気が遠くなった。

 と同時に私の体は金色の光の粒子に包まれ全て光の粒子になったかと思うと、すぐに実体化した。

 その場に姿を現したのは、三歳より少し大きいくらいの、例の女の子である。

 女の子は、パッとアンジェラの膝から下り、少しモジモジした様子だったが、思い切って声を出した。

「あのね、本当は内緒にしたかったけど、バレちゃったから正直に言うね。」

 アンジェラが無言で頷いた。

「私、ライルの双子の妹、ううん、ライルの一部、ちっぽけな細胞なの。ライルが女の子に体を変えられるように、神様が私に細胞を提供する役目を与えてくれた。そのことに気づいたから、過去に戻ってライルと融合したの。」

「細胞…だって?」

 女の子はこくんと頷いた。

「お願い、リリィには忘れて欲しいの。すべてが辛いことばかりだった日々のことは…。」

「どうしたらいいんだ?」

「電話でライルを呼んで、思い出さないように暗示をかけてもらって。」

 アンジェラは悩んだが、言う通りにした。

 ライルがすぐに転移してきた。

「うわ、そういうことかよ…。「リリィちゃんみたいに幸せになる」ってずっと言ってたもんな。でも日本語おかしいぞ。それを言うなら、『リリィは幸せになる』だろ?」

 そしてライルは一つ提案をした。

「ここに来るまでの辛いことをお前が忘れればいい。僕と融合した時からの事だけ覚えていればいいじゃないか。」

 そう言って、女の子の中から出生の秘密や辛い記憶などを全て消し去った。

 女の子の体が金色の光の粒子になり、実体化する。

 普通の大きさに戻ったリリィがふらついているのをアンジェラが支える。

「あれ?私、なにやってるんだろう?」

 手に持ったイセエビを頭に乗せた絵を見て、「あれれ?」と言っている。

「リリィは昔、ここでイセエビを獲ったことがあるらしいぞ。」

 アンジェラが言うと、

「そうなの?」と疑わず笑っている。

「そうだ、お前はいつも笑っていろ。私の大切な愛するリリィ。」

 ライルはミケーレとマリアンジェラにも暗示をかけて学校に戻った。

 もう、リリィはこのことで、不安に思うことなど何もないのだ。


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