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291. 元の場所へ

 大きいライルは日本の朝霧邸のホールに六人を転移させ、そのまま徠夢、小さいライル、そしてライナをその場所の11年前に転移した。

 家の中はシーンとしている。

 2015年10月25日、日曜日。

 未徠の医院は休みのはずだ。徠夢の大学も休みのはずだが…。

 11年後の未来から来た徠夢が小さいライルに聞いた。

「ライル、お爺ちゃんたちはどこにいると思う?」

「うーん、お部屋?休みの日はお部屋にいることが多いもん。」

 徠夢は階段を上り、二階の一番端の部屋をノックした。反応が無かったが、無視してドアを開けた。パンツ一枚でだらしなく寝ている大学生の自分がベッドの上にいた。

「おい、起きろ。一日中寝ているのか!」

「わっ、なんだよ。勝手に開けるな。」

「ライルを連れてきたんだ。話がある。服を着てサロンに来い。」

 舌打ちをしながら服を着て、渋々サロンへ入ってきた大学生の徠夢だった。

「おとうちゃま、ただいま帰りました。」

 小さいライルがあいさつしたが、徠夢は顔も見ないで軽くあしらって言った。

「はいはい、おかえり~。」

「なんだ、お前のその態度は…。」

「なんだよ。こっちだって頭に来てるんだよ。友達と旅行に行ったら、その間にかえでがインフルエンザになったとかで、こいつまで死にかけたとか大げさに言ってよ…。すげー怒られるし、おかげで小遣い没収でどこにも行けないんだよ。くそ。」

「おとうちゃま、ごめんなさい。」

 未来から来ている徠夢が小さいライルの頭を撫でて言った。

「お前はどこも悪くないよ。悪いのは、父親の自覚がない私だ。」

「あんたさ、本当にこいつの事かわいいと思ってる?わかんないんだよね、僕にはさ。

『はい、あなたの子です。面倒見てください。』っていきなり連れてきてさ…。」

「子供の前でそんなこと言うんじゃない!」

 これは、相当ひどいな…。でも確かにこんなことはあった気がする。大きいライルはそう思った。しかし、待てよ…。その時ライナはいたのか?

 僕は、イタリアで初めてライナに会ったと思っていた。

 もし、今までも一日に1時間ほどでも、何か月も交流を持ち、お互いの存在を認めつつ慣れる期間を持ってきたのならば、なぜ、僕にその記憶がない?


「そっちのでかい兄ちゃんは誰だよ。」

「11年後のライルだ。」

「ひぇ~、このちっこいのが、こんなにでかくなるわけ?そんで、そっちの女の子は誰だよ。」

「ライルの双子の妹、ライナだ。」

「は?二人いるなんて聞いてねえし。無理だよ。一人でも面倒なんだからさ。」

 大きいライルが口を挟んだ。

「僕が死にたくなったのは、あなたのそういうところを毎日見ていたせいですね。

 ライナ、帰ろう。ここにいたら心がおかしくなるよ。」

「でも、お兄ちゃんを一人で置いて行くのはイヤ。」

「ライナ、ありがとう。でも、僕はいつもこうだったから大丈夫だよ。」

 小さいライルが涙を目にためながらそう言った。その時、ライルの手を掴み、ライナがダイニングの方へ走って行った。

「どうしたの、ライナ。どこに行くの?」

「おにいちゃん、一人になれば、ずっと一緒にいられるよ。」

 ライルはライナの言っていることがよくわからなかった。

 ライナは11年後の朝霧邸に毎日訪問しているので、どこに何があるかはわかっている。

 ライナはダイニングの戸棚の引き出しからステーキ用のナイフを取り出した。


「お兄ちゃん、ごめんね。ちょっと痛い。」

「うっ。」

 ライナはライルの右手の人差し指の先にナイフで少し傷をつけた。

 そして、自分の右手の人差し指も同じように傷をつけた。

「お兄ちゃん。大好きだから、お兄ちゃんの中にライナは戻ることにする。」

「何言ってるの?」

「ライナは元々お兄ちゃんの中にいた、お兄ちゃんの一部なの。一緒にいないと幸せになれない。だから、お願い。」

「や、何するの?やめて!」

 ライルは抵抗したが、ライルの血の出た指をライナは自分の口に咥え、ライナの指をライルの口に押し込んだ。

 二人の体が金色の光の粒子になり、ぐるぐると混ざり合う。

 やがて、光の粒子は一カ所に集まり実体化した。

 そこにはライルが倒れていた。


 大きいライルと未来から来た徠夢がライルの『やめて!』という声を聞き追いかけてきたときには、ダイニングの床に血の付いたステーキナイフが転がっており、ライルがそこに横たわっていた。

「ライル、おい、しっかりしろ。」

 ライルがだるそうに目を覚ました。

「大丈夫か?ライナはどうした?どこに行った?」

「おとうちゃま、僕、すごく頭が痛いの。」

 徠夢はライルを抱いて、部屋まで連れて行き、ベッドに寝かせた。

 大きいライルはステーキナイフを手に取った。

 ナイフが白く発行し、記憶が流れ込んでくる。

「これは、いったい何だ?」

 ナイフから流れてきた情報にはライルが指を切られている部分しかなかった。

 誰に切られたんだ?さっき、誰かを追ってきたのはライルだけだったか?

 他にも誰かいなかったか?ライルには思い出すことができなかった。


 徠夢にも同様の現象が起きていた。

 さっき、誰かを追っていた気がしたが、ライルは頭が痛いと言ってベッドで寝かせた。

 血の付いたステーキナイフがあったが、ライルは怪我をしていなかった。

 何か重要な事を忘れている気がする。

 しかし、思い出すことはなかった。

 未徠が急病人の往診から帰ってきた。

 徠夢がライルを連れてきたと言い、未徠は息子をちゃんとしつけると断言していた。

 ホールにさっき持ってきたスーツケースがあった。

 中を開けると女の子の洋服が入っていた。

 どうして、こんなものを持たせるんだ…と笑いながら持ち帰ることにした。


 大きいライルは未来へ徠夢を連れ帰り、自分もイタリアの家にスーツケースを持って帰った。久しぶりに家に帰り、子供達やアンジェラ、リリィ、アンドレ、リリアナとゆっくり時間を過ごした。

 スーツケースを子供部屋に置きっぱなしてきたが、きっとマリアンジェラの服だろう。

 子供部屋に使用されていないベッドがあり、そこには絵本が一冊置かれている。

 時々ミケーレがその絵本を開き、変化があると父親のアンジェラに内容を知らせる。

 でも、誰もそのベッドがなぜそこにあるのか疑問に思わない。

 まるで、何も無かったように消えてしまった子がいたことも誰も覚えていない。

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