29. アダムの能力
地下の書庫にアダムを連れて下りてきた。
「アダム、父様がここで待っててって言ってたからさ、ちょっと我慢してよ。」
「あ、うん。いいよ。ここって、こんなんだったっけ?」
アダムが地下の書庫に来たのは初めてのような気がするが、何か見覚えでもあるのだろうか?
アダムは徠人という父様の弟なのだろうか?
でもそうだとすると、疑問がたくさん浮かんでくる。
父様の弟は死んでおらず、ここにいるということになる。
今までどこにいたんだろうか?なぜ、犬になって現れ、わざわざ僕に助けられたり子供の姿になったりしたんだろう?
そこへ父様が遅れてやってきた。
「さて、どこから着手するべきか…。だね。」
「父様は、アダムが徠人だと思っていますか?」
「まだわからないけど、確認する方法はいくつかあると思う。例えば、指紋の照合とか。DNA鑑定。ただ、そういうのは日数がかかるね。」
「何か、徠人が持ってた物ってこの家にはもうないんですか?」
「あるにはあるけれど。それを使って何をする気だい、ライル?」
「物からの情報が取れれば、何かわかるかもしれないと思ったんです。」
「ライル、でもそれはとても危険が伴う賭けだと思わないかい?
今まで、何かに触れてどこかに、いつかもわからないところへ転移したのを忘れちゃいけないよ。もし、徠人が誘拐されて殺されていたとしたら、おまえは、殺される現場に行ってしまうかもしれない。帰れる保証も何もないんだよ。」
「父様の言うこともよくわかります。」
「ここは慎重にならないとダメだ。」
アダムは僕と父様が話している間中、書庫の中の本を物色したりしてこっちには興味を示さなかった。
僕はそこで父様に質問をしてみた。
「徠人は覚醒していたと思いますか?」
「いや、そんな様子は全くなかったよ。」
「そうですか。」
僕らの思考はここで行き詰った。
そんな時だ、アダムが他のとは違う色の収納ボックスを持ってきた。
「ねえ、これ、開けてもいい?」
父様に一応聞いている。
箱には何も表記がない。
「あぁ、アダム、いいけど散らかさないようにね。」
父様が答えると同時にアダムが箱を開けた。
「あ、これ全部僕のだよ。」
「えっ?」
父様が箱をアダムから若干強めにむしり取ってこちらに置き、中を確認する。
父様は驚いて固まって、アダムの方を見た。
「ね、僕の物ばっかり入ってたでしょ?」
それは、徠人のおもちゃや本などが入れられた箱だった。
「おまえ、本当に徠人なのか?」
「徠人?…徠人って?え、えっと、僕、僕は誰だっけ?」
その時だ、アダムの目の赤い輪が薄くなって消えかかった。
その直後、アダムの目が金色の炎のように光った。
「徠夢、助けてよ。もう時間がないんだ。多分、話せるのはこれが最後…。」
そう言ってアダムは気を失った。
父様と僕はアダムを僕の部屋へ連れて行きベッドに寝かせた。
体のどこにも異常がない。でも意識が戻らない。
さっきの箱も一緒に持ってきたが、何の確証もないからうかつに触ることもできない。
「時間切れの様ですね。アダムとのお別れの時が近づいています。」
そう言ったのはイヴだ。
「イヴ、どういうこと?」
「生命の灯が、消えかかっているということです。」
わけがわからない。
「何言ってるんだよ、アダムはこんなに元気じゃないか。」
「…。」
イヴはそれ以上何も話してはくれなかった。
突然、アダムの体全体が光った。
そして、仔犬の姿に戻る。しかし、意識はない。
とても穏やかに眠っているようだ。父様がアダムの体を調べたがどこにも悪いところはなさそうだ。
一体何が起きているのか。
僕は、イヴの「時間切れ」「生命の灯」という言葉がすごく引っかかっていた。
もしや、徠人はどこかで、今死にそうになっているのではないだろうか。
僕が行けば、助けることが出来るのではないだろうか。
リスクは高い。それはわかっている。
もしかしたら、もう死んでいるかもしれない。それも承知の上だ。
僕は、父様に何も言わず、箱の中にあった赤い自動車のおもちゃを手に取った。
「おい!何してるんだ、ライル。」
父様の悲しみの表情、ごめんね父様。
僕の体は金の砂の様にサラサラと流れ崩れて消える。
最後に赤い自動車のおもちゃが、床に落ちた。