289. 親族大集合最後の夜
アメリカの家での晩餐を終え、時差もあって早々に各部屋に引っ込んだおじさま達だった。
ライルは本当に疲れないようで、お爺様やお婆様達と雑談をしている。
「ライル、動画のファイルを送ったぞ。編集はどうする?うちの事務所のプロにやらせるか?」
アンジェラが聞くとライルが頷いて言った。
「あ、頼んでもらえるならお願いしちゃおっかな~。僕そういうのセンスないから。」
やっぱりなんだか飄々としていて、あんた誰?という感じである。
大きいライルが、眠い目をこすって頑張って大人と一緒に起きていようとしている小さいライルに話しかけた。
「ちびっこ、お前、どうするんだ?11年前に帰らないのか?」
小さいライルが固まっている。小さいライルは今回の未来訪問で、祖父母と両親をずっと独り占めしてすっかり甘えん坊になっていた。
「僕、おとうちゃまとおかあちゃまと一緒に寝るのがいいなぁ。」
今までは日本の朝霧邸で子供部屋で一人で寝起きしていたのが、自宅以外に泊っていることもあり、徠夢と留美の居室に一緒に滞在していたのである。
「悪いことは言わないから早く帰れ。」
大きいライルが言うと、小さいライルが少し悲しそうな顔をした。
「またひとりになっちゃうのかぁ…。」
小さいライルは呟いた。
リリィの側にくっついていたライナが小さいライルをじーっと見つめていた。
あまりこちらから過去に干渉して保護するのは、過去を変えてしまう可能性がある。
リリィは内心そんな事を心配しながら、徠夢と留美の決断がどうなるのか見守ることにした。
その日は結局結論は出ず、日本に戻ってから決めることになった。
徠央達と行動を共にしていた左徠が皆で雑談をしているところに来た。
爆発事故の傷も治り、事故当時の記憶があいまいなため大事を取って病院で療養していたが、今回の避難の時に一時退院し、徠央が面倒を見ていたのだ。
「兄さん、私は明日戻ったら荷物を父さんのところに運んで、レストランの方に住むことにするよ。もう入院は必要ないと思うんだ。」
「そうか…。仕事に復帰する時期は決まったのか?」
「いや、それはまだだけど、近いうちにと考えてる。」
その時、左徠に小さいライルが話しかけた。
「あ、左徠ちゃん、ごめんね。僕、あの時怪我の治し方知らなくて、天使のお部屋に左徠ちゃんを置いてきちゃったの。」
「…ん?兄さん、そ、その子は誰だ?」
「左徠、この子はライルだよ。」
「いや、何言ってる。ライルはそっちのやたらとでかい中学生だろ。」
「左徠は入院してたから会ったことがなかったのか…これは11年前から連れてきたライルなんだよ。体調を崩してしまって危なかったんだが、実は毎日一時間ずつ遊びに来てたんだ。」
「うぅ、頭が痛い…。」
左徠は頭を押さえていたが、しばらくすると症状も治まり、口を開いた。
「この子が私をあの爆発から救ってくれたんだな…。」
「そうだ。何か思い出したのか?」
「あぁ、まだ全部じゃないけどな。一度自分で整理してから教えるよ。」
左徠の記憶が戻ったことで、昔の爆発事故と言われている事件の犯人が判明するかもしれない。これは一つ前進したなと思った。
アンジェラが「そういえば」と言って話し始めた。
あの、宗教団体の施設にリリィを連れ去ったベスの兄、トーマスについてだ。
「ライル、ベスは学校に来ているのか?」
「いや、来ていないな。確認はしていないけど、もう学校をやめたんじゃないかな?」
「あの兄はどうなったんだ?」
「僕が調べた限りでは、あの光景を見て精神的に病んだ人がほとんどだ。同じように精神病院に収容されているんじゃないかな?特に能力は使っていなかったようだけどね。そういえば、トーマスは遺伝子研究の教授だったんだよ。なんだか聞いたことあるような気がしないか?」
「ドクター・ユーリか由里杏子か?」
「もしかしたらどこかで接点があったのかもしれないよな。」
アンジェラが由里という名前を出した時、左徠が頭を押えて何かを口走った。
「由里、杏子…。何かを思い出しそうなんだが…。」
「左徠、あまり無理しない方がいい。」
未徠に促され左徠は寝室に戻って行った。
リリィが誘拐されたことは警察に話していないため、表立ってトーマスの事を聞くわけにもいかない。しかし、宗教団体の拠点はつぶせても、あの病院の受付の人間とかも組織に関わっている気がしてならない。
「アンジェラ、この事はまた調べて何かわかったら知らせるよ。」
「あぁ、頼むよ。」
いつの間にかずいぶんと遅い時間になってしまった。
名残惜しいと思いながらも皆自分たちの部屋に戻り、ベッドに入った。




