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287. ホームカミング(1)

 10月24日、土曜日。

 今日はライルの学校で行われるホームカミングのイベントで、チャリティコンサートが行われる日だ。時差があるので、朝はゆっくり聖マリアンジェラ城でそれぞれが過ごした。

 この二日間で、日本、イタリアとドイツ、そしてアメリカの親族の家周辺にすでに脅威はなく、安全が確認できたため、今日のホームカミングに参加をした後は、各人をそれぞれの家に送り届けることになる。

 情報化社会の今、自宅で医院と動物病院を開業している未徠と徠夢以外は仕事もリモートで済むような時代だ。

 仕事も多少やりながら、まるで修学旅行気分で親族が集まった今回の避難生活は、皆の記憶に長く残るだろう。

 しかし、リリィを失ったかと思った時のアンジェラの悲しみは深く、皆、口には出さなかったが、彼の愛は本物だと思ったのだった。


 時差を考慮して、遅めの昼食をとり、城での時刻が夕方四時になったらアメリカの家への転移を始めることにした。

 迷子にならないように、というわけではないが、先日アンジェラファミリーであつらえた紺色の刺繡入りのシャツと色違いで同デザインのものを作り、皆に配った。

 ダンガリー生地2色に同系色で刺繍の入ったものと、白系の生地に金糸で刺繍したものだ。


 昼食を終えてから着替え、転送に使うためにホールに移動してもらう。

 マリアンジェラはライルの希望を聞いて14歳の姿でリリィと同じワンピースを着た。

「おぉ、姫様って感じだな。」

 アンジェラの言葉にマリアンジェラもドヤ顔で答える。

「ママとマリーどっちが美人?」

「そりゃあ、マリーに決まってるよなぁ。」

 横から口を挟んだのは、まぎれもなく爺バカ丸出しのアズラィールである。

 ミケーレもまるでアンジェラを小さくしたみたいにかわいい。

 ライナはこうしてみるとリリィの縮小版みたいだ…。本当の親子に見える。

 こうしてみると、男の血族しかいなかったのに…まぁリリィとリリアナは反則だけど、四人も女性がいると華やかに見える。


 アンドレとリリアナはダンガリー生地の物を着用していた。

「その色もいいねぇ。似合ってるよリリアナ。アンドレも素敵。」

 私がそう言うと、リリアナも嬉しそうに頷いた。

 アンドレは髪を後ろで結わえて、変装用の黒縁眼鏡をかけている。

 そうでした、アンジェラが二人いると大騒ぎになりかねない。


 皆の準備が整ったところで、物質転移を使い半数ずつアメリカの家の寝室に転移させる。

「着いたら部屋からすぐ出てね。次、すぐ行くから。」

 そう言って次も三分後に送り出す。

 最後に自分も子供達とアンジェラを連れて行く。


 アメリカの家に先についていたおじさま方が下のホールでガヤガヤお話し中。

「さぁ、皆、学校はここから徒歩5分ほどだよ。こっちから出てください。」

 私が玄関を開けて誘導すると、ガヤガヤと皆外に出る。

 色違いとは言え、お揃いの服を着て歩く似たような風貌のオヤジの集団…。

 近所の人たちがこっそりのぞいている。


 すぐに学校に到着した。

 正門前で受付を済ませたら、理事長がすっ飛んできて挨拶された。

 そういえば、多額の寄付をしたんだっけ…。

 チャリティコンサートは11時と言っていたので、まだ40分ほど時間がある。

 とりあえず、アンジェラがライルに電話をかけて着いたことを知らせた。

 すぐにライルが校舎の中から走ってきて、合流するのかと思いきや…。

「コンサートは、そっちの中庭で11時からだから、それまでは適当に見て回っててよ。」

 と言い終わる前にマリアンジェラに近づくと何やら耳打ちをしている。

「パパ、ライルとあっちに行ってきていい?」

 マリアンジェラが嬉しそうにアンジェラに聞いた。

「行くのはいいが、絶対に離れないようにしなさい。」

「うん。」

 二人は手を繋いでどっかに行ってしまった。

「あれ、大丈夫なの?」

 私が言うと、アンジェラが苦笑いをしながら言った。

「まさか自分の娘に変なことはしないだろう。」

「それは、そうだけど…。」


 少しぶらぶら見て回ったが、日本の学園祭みたいのとはちょっと違っている。

 ちょうどキャンパスツアーというのがあったので案内してもらうことにした。

 アンジェラは顔を隠していないけど、キャーキャー騒がれることもなく、学校の施設を案内してもらいながら回る。

 本当は自分も来ている学校なので、私は別にいいけど…ミケーレとライナはそのうち通うことになるかもしれないからね。

 カフェテリアのところまで来た時に、なんだか人だかりができていて、気になって覗いたら…。なんと、ライルとマリアンジェラが二人でアイスクリームを食べていた。

 周りの人だかりはCMを見たことがあるにわかファンである。

 動画とか撮られまくり、そんなこと気にせず、まるで二人だけの世界…。

 って、え、君たち…なんでそんなにいちゃいちゃしてるわけ?

 ライルがスプーンですくったアイスをマリアンジェラにあ~んして食べさせてた。

「おいしい?」

「うん。」

「あ、ほらここについてるよ。ちゅ」

 って、今、口のとこにチューしてただろ…。おい。ついつい心の中で口調が男になってしまった私だったが、顔にも出ていたようだ。

 横にいたアンジェラも私と同じように白目がちになっていた。

「パパ、すごい怖い顔になってるよ。」

 抱っこしていたミケーレに言われて、ハッと我に返るアンジェラだった。


 校内ツアーはすぐに終わり、アンジェラがライルを尾行しようとしているみたいだ。

「あっちに行こ、あっち。」

 とさっきのカフェテリアに行こうとする。

 その時人だかりはカフェテリアから中庭に移動中だった。

「あ、アンジェラ、あれ、あれじゃない、大勢移動してる。」

「あ、あぁ…そうかな。」

 またこそこそとあとに続くと、恋人繋ぎで手を繋いだライルとマリアンジェラが楽しく笑いながら歩いていた。


 中庭に到着すると、ライルがこちらに手を振り、そこにいた大勢もこちらに注目する。

「姉さん、アンジェラ、こっちだよ~。あと5分でコンサート始まるからね~。」

 とってつけたようなセリフだ。普段『姉さん』なんて呼ばないじゃないか。

 しかも、やたらとさわやかだし。茶番だ、どうかしてる。

 アンジェラが私にだけ聞こえるような小さい声で言った。

「ライルは変わってしまった。あれは相当な女たらしだ。」

「…う、確かに…。」

 自分の娘には近づかせたくない部類の男であることは間違いない。

 ただの何かの計算でやってるのであればいいが、本気の女たらしだと洒落にならない。


 場内にチャリティコンサートが始まるとアナウンスが流れると、マリアンジェラは私たちのところに戻ってきた。

「パパ、ママ~、アイス食べたよ~。」

「マリー、その大きさで外でパパ、ママと呼ぶのはやめなさい。」

 マリアンジェラはペロッと舌を出して反省してるふりをしている。

「マリー、あんなところでチューしたらダメでしょ。」

 ミケーレのジョブが入った。

「あれはチューじゃないって、ライルが言ったもん。」

 こりゃダメだ…。そういえば、以前からマリアンジェラはライルに対して女の目線で見ていたところがある。ライルで寝ているときに添い寝されていたり、寝ているところにキスされたり…。


 チャリティコンサートが始まった。

 クラシックメインで、吹奏楽とピアノの演奏を行うという。

 寄付の箱を数カ所設置しており、集まったお金は動物保護団体に寄付されるそうだ。

 このことは、自分にも記憶がある。ピアノを弾いてくれと言われ、慈善活動じゃないとダメだと返事をしたからだ。

 まずは、吹奏楽器とピアノでの合奏がはじまった。


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