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28. アダムの暴走

 八月三日火曜日、夏休みであること以外は特に何もない日常の一日だ。

 朝食後、アダムが駄々をこねて母様を困らせていた。

「もっと一緒にいたいの~。」

「アダム、ほらお仕事だから、無理なのよ。」

「抱っこ~。」

「一回だけよ~。」

「ぶー。」

 最近、アダムは反抗期みたいだ。

 アダムをどうにか引きはがし、母様は仕事へ行った。

 機嫌の悪いアダムに、裏庭でサッカーでもしようと提案する。

 どうせ暇だしね。本当のところ、アダムはサッカーが何かわかっていなかったようだ。

 ボールをクローゼットから出すと、アダムはうれしさが隠し切れないような顔をして犬になって裏庭へ走って行った。わかりやすいやつだ。


 裏庭でアダムを相手にサッカーボールを蹴ってやる。

 ストレス解消するように犬のまま追いかけて行っては、ボールをかじって持ってこようとする。

「うーん、アダムさぁ、サッカーボールは蹴った方が面白いと思うんだよね。」

 アダムは犬の姿のままちょいちょいボールを前足でつつく。

「いや、その、人間の姿じゃないとやっぱり蹴れないよね。」

「早く言って~。」

 そういいつつ、アダムは幼児の姿へ変わる。

 しばらく、ボールの蹴り方を教えたりしていたのだが、急にアダムの機嫌が悪くなって怒り出した。

「ライル、大きいからずるい。僕じゃちゃんと蹴れないし~。」

 え、うまくできないことを僕に八つ当たりしてくる。

「そんなこと言ったって、仕方ないだろ、元々おまえの方がチビなんだから。」

 こっちもちょっと強めに言ってしまった。

 その時だ、アダムは急にギャン泣きを始めた。

「アダム。やめろよ。僕が泣かせてるみたいじゃないか。」

「わーん。僕のこと、チビって言ったぁ~。わーん。」

「ごめんって。悪かったよ。じゃ、サッカーはやめて違うのにしよう。」

「やだー。サッカーがやりたいー。」

 正直、手に負えない。

 仕方がないので、下手に出てなだめる。

「ほら、抱っこしてあげられるのは小さいからだしさ。小さいのっていいことだよね。母様も大きかったら抱っこしてくれないしさ。」

「うん。ぐすん。」

 落ちてるボールを拾おうと横を向いた時だった。

 みるみるアダムが大きくなって、僕と同じくらいの背恰好になった。

「え?ええっ?」

 どうやら大きささえどうにかなれば、サッカーができると体が判断したのだろうか?

 僕と同じくらいの大きさになった。

「アダム、すごいな。急に五才分くらい大きくなったぞ、服がパッツパツだけど。」

「うん。サッカーしよ。」

「あぁ。」

 僕たちは暑い中くたくたになるまでボールを蹴って遊んだ。

「アダム、僕もう限界。暑いし、死にそう。家の中で少し休みたい。」

「あーい。休む~。」

 どうも中身は幼児のままらしい。


 家の中に入り、かえでさんにジュースを出してもらう。

 くーっ、生き返る。

 正直普段運動不足の僕にはキツイ。

 へばってベッドの上でグダグダしてたら、いつの間にかお昼ご飯の支度ができたと

 かえでさんが呼びに来た。

「はーい。今行きます。」

 そういや、アダムはどこに行ったんだ?さっきから姿を見ていない。


 ダイニングに行くと父様と母様がもう戻ってきていて、席に着いていた。

「あれ?アダム見なかった?」

「そういえば、まだ来てないわね。」

 仕方がないのでアダムを探す。

「アダム~、お昼ご飯だよ~。」

「あ~い。ふあぁ~。」

 といつもとちょっと違う寝ぼけた声が父様と母様の寝室から聞こえてきた。

「アダム、また母様のベッドで昼寝してたのか?」

「うん、疲れてねちゃった。」

 と、そこに寝っ転がってたのは、どっからどう見ても大人の男、しかも全裸で。

 付け加えるならば、髪の色以外は父様とウリふたつ。

「ぎゃー。」

 僕は、つい奇声を発してしまった。

「父様、ちょっと来てください~。母様は来ないで~。」

 僕は思わず父様を呼んだ。


 父様が部屋に入ってきて、僕と同じリアクションをする。

「ぎゃー、誰?誰?その裸の…。」

「アダムらしいです。」

 シーツで大事なところはちょっと隠して、ほっぺを少し赤くした大の大人のアダムが恥ずかしそうに小さい声で言う。

「あい。」

「アダム、どういうことだい?」

「えっとーサッカーしたくて、大きくなりたいなぁって思ったらライルと同じくらいになって、お洋服べたべただったしきついからぬいだの。その後、お昼寝しちゃったの。」

 言うことは、変わってない。幼児のまま…。

 どうする、父様。そこへ、僕たちが遅いから気になったのだろう、母様が来てしまった。

「あーん。お母上~。」

 アダム、ためらわずに母様に抱きつく。しかも、ちょいちょいおっぱいを触っている気がする。

 母様は目が点。からの、白目に移行中。

「アダム、ちょっと待て。そんな恰好で急に抱きつかれたらびっくりするだろう?」

「なんで~?抱っこ~。」

 はい、きたー。母様、すでに意識が飛んでいます。

 父様は母様をベッドに寝かせると、アダムをとりあえず母様から引き離す。

 目のやり場に困りながら、父様は自分の下着や洋服をアダムに着せる。

 服を着終わったアダムは、父様に並ぶと本当に同じ背丈になっている。

「やだ~、お母上といっしょがいい。抱っこ~。」

 いい年した男の姿でだだをこねる。参ったね。


 父様は作戦を変更した。

「アダム、一回犬になってみようか。ね?元の大きさになるかもしれないし。」

「うん。」

 アダムは渋々、姿を変える…つもりなんだが、全然戻らない。

「あーん、できなくなった~。うぇーん。」

 やばい、やばいよ。さすがの父様も大人の人間のアダムを母様と同じベッドには寝かせられないということで、僕の部屋へ連行した。


 僕の部屋に行ってもアダムは泣き止まず、小さくもならず、犬にもなれず。

 父様は困り果てていた。

「ライル、何かいい方法はないかな?僕は早く食事を済ませてまた仕事に戻らないといけないし。

 かといってアダムをこのままにしておくと、杏子のベッドにこのまま入ろうとするし…。」

「あ、そうだ。イヴに聞けば何かわかるかもしれませんよ。」

 僕はイヴをケースから出して話を聞く。

「イヴ、知ってたら教えて欲しいんだけど、アダムが大きくなっちゃって、元に戻れないんだ。

 どうしたらいいと思う?」

「…。多分ですが、色々な要因が重なっていると思われます。強い願望、エネルギーの大量消費その結果のエネルギー切れ。それか、時間切れ。」

「ん?時間切れ?それの意味はよくわからないかったが、なるほど、サッカーしてエネルギー切れはあり得る。

 とりあえず、昼食を食べさせよう。」


 二人がかりでアダムをダイニングに連行する。

「アダム、とりあえずご飯食べようね。」

 僕が言っても泣いてて食べる気配がない。

「ほら、アダム。あーん。」

 父様がフォークで食べ物をアダムの口に運ぶ。

「あーん。」

 おぉ、つられて食べた。しかし、恐ろしい絵面だ。いい年の男があーんしてもらって、しかも食べさせてる方はまるで双子の兄弟ときた。

 あぁ、こっそりビデオにでも撮りたい。

 そこにかえでさんがスープを持ってきて、その様子を見てお盆ごとガッシャーンと落とす。

「旦那様…、ど、どういうことでございますか?ら、徠人様…?徠人様、あぁ…。」

 かえでさんはそう言ってその場に泣き崩れた。

 ん?徠人様?誰、それ?

「あ、かえでさん。これは、アダムだよ。ちょっとサイズがね調整できないようでね。驚かせて申し訳ない…。」

「…。」

 かえでさんはこの家の不思議な現象に慣れているのか無言で割れた食器を片付けていた。

「はい、あーん。」

「あーん。」

 やっぱり中身はアダムのままだ。アダムは父様に食べさせてもらって結構うれしそう。

 大人分の食事をきれいに平らげ、とりあえず、機嫌が直ったようだ。

 ここで、父様は仕事に戻る時間になる。

「アダム、僕は仕事に行くからね。おとなしくライルの部屋で遊んでなさい。いいね。」

「あーい。お父上。」

 同じくらいの年の男にお父上とか…まじヤバい。母様のスマホ、どこにあるかな?

 見つけたら動画を撮りたい。


 僕はアダムを連れて自室に戻り、疲れない程度の遊びで相手をする。

 とりあえずオセロかな。

「ほら、アダム。これ教えてあげるから、遊ぼうね。」

「なぁに、それ。」

「これはね、オセロって言うんだよ。」

 とりあえず、簡単にやりかたを教える。

「わかったー。やる~。」

 よしよし、食いついた。

 オセロをやり始めたのはいいが、三回ほど僕が勝ち、悔しさを本気で表すアダムにちょっと変化が現れる。

 考え事をするときの仕草が段々父様に似てきた。そして、オセロもいきなり強くなってきた。

「アダム、オセロも飽きてきたんじゃないか?」

「大丈夫よ。もうちょっとやりたい。」

 そして、六回目くらいには、もう僕はアダムに勝てなくなっていた。

 アダムの中で何が起きているのか…。


 結局、午後七時になり父様が戻ってくるまでオセロをやって時間を潰したのだった。

「ライル、アダム、晩御飯だよ。手を洗ってきなさい。」

 父様に声をかけられ、ダイニングに移動する。

 かえでさんはアダムの姿を見て、若干挙動不審だ。

 父様に僕が一つこっそり提案をした。

「父様、あの僕がアダムに命令してみるってのはどうでしょう?」

「あ、あぁ、そうだな。この状況のままだときついな。」

「やってみますね。」

 父様は、とりあえず昼食の時と同じように、アダムに食べさせ始める。

 さて、うまく効けばいいのだが…。やってみよう。

「アダム、こっち見て。」

「あい?」

 僕は頭の中でアダムに命令する。

「アダム、おまえは今すぐおまえの本来の姿に戻り、命令されるまで、その姿を保て。」

 アダムの目に赤い輪が浮かび上がる。

「…。」

 あれ?姿が変わらない。そして、父様に食べさせてもらわなくても、普通に行儀よく一人で食べ始めた。

「ん。おいしいですね。このハーブソテー。かえでさんはやっぱりお料理上手だなぁ。」

 え?え?どうなっちゃった?幼児言葉じゃなくなってる?

「あ、アダム、他にもサラダも食べなさい。」

 父様も何か違和感に気づいたようだ。

「もちろんです。ん。こっちもおいしいですね。僕はかえでさんのポテトサラダが一番好きです。」

 ガッシャーンと音がして、かえでさんがまた何かを落として立ち尽くしている。そして、泣いている。

「ん?あれ、かえでさん、どうしたの?ポテトサラダ、もっともらってもいい?」

 アダムの言葉が終わるか終わらないかの時だ、かえでさんがアダムに駆け寄って抱きしめていた。

「徠人様。ずっとずっとお帰りを待っていました。こんなに大きくなられて…。」

 え?どういう展開?父様に小声で聞いてみる。

「父様、徠人って誰ですか?」

 父様はちょっと困惑気味に、食事を中断し部屋を出て廊下から僕に手招きをする。


「どうしたんですか、父様。」

「いや、徠人は僕の弟の名前なんだよ。」

「え?」

「もうずーっと前、五歳になるちょっと前に誘拐されてしまってね。戻らないままなんだ。」

「あ、そ、それは大変な話ですね。」

 ちょっとはかえでさんに聞いて知っていたが、知らなかったふりをしよう。

「徠人はね、かえでさんの作るポテトサラダがすごく好きだったんだ。いつもさっきみたいにもっともらってもいい?って聞いてたんだよ。」

「え?えぇっ?」

 もしかしたら本人の可能性もあるかも?と心の中で動揺する。なにせ、僕の家の家系は変わった能力を持っていることが多いらしいのだから。

「ライル、さっき何て命令したんだい?」

「あ、ええと、おまえの本来の姿に戻り、命令するまでその姿を保つように。と。」

「そうか…。じゃあ、かえでさんが言ってるのは、もしかしたら正解かもしれないね。

 さて、どうやってそれを確認できるかだよね。」

「はぁ。」

「いずれにせよ、杏子にはちょっと刺激が強いね。困ったなあ。」

 父様は食事を終えたら地下の書庫にアダムを連れて来るように言った。


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