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279. 嘘はつかないで

 ライルはクスッと笑って頬のトマトソースを拭き、マリアンジェラの口の周りのソースも拭いて言った。

「僕まで食べられちゃうかと思ったよ。クスッ」

 完全なタラシである。アンジェラが白目がちな目でライルを見ている。

 マリアンジェラは頬を赤くしてうっとりライルを見ている。

「ライル」

 徠夢が話しかけた。

「「何?」」

 小さいライルと大きいライルが同時に返事をした。

 そうだ、両方ライルだ…紛らわしい。大きいライルが小さいライルに言った。

「ねぇ、小さい僕。同じ人間が二人いると紛らわしいみたいだから、僕はリリィになっていることにするよ。」

 瞬時にリリィに変わると、マリアンジェラが固まってしまった。

 マリアンジェラがリリィをガン見している。まだ警戒しているようだ。

 リリィはマリアンジェラを落ち着かせようと頭を撫でるが、ライルのようにはいかない。

「ごめんね、こんなママなら要らない?」

 リリィが悲しそうに言うと、さすがにマリアンジェラも態度を軟化させて言った。

「ママ、ごめんちゃい。」

 ぎゅとハグして、マリアンジェラを席に戻した。

「全部食べられそう?お腹痛くならないようにね。」

「うん。」

 どうにか少しは落ち着いたようだ。

 自分はというと相変わらず食は進まない。久しぶりに食べるせいかもしれないし、内臓が結構ヤバかったせいかもしれない。まだ体中が痛む。少しでも食べられただけよしとしよう。

 皆はまだ食事中だったが、リリィは席を立った。

「少しベッドで横になるね。」

 立ち上がり、プレートを片付けて部屋に向かって歩き始めた。

 グレートホールから出る時、体に異変が起きた。

 顔には脂汗が浮かび、呼吸が荒くなった。次の一歩が前に出ない。

 壁につかまって歩みを止めた時、アンジェラが気付いたようで駆け寄って支えてくれた。

「リリィ、どうした、どこか痛むのか?」

「だ、大丈夫、だと思うけど…足が前に進まなくて…。」

 アンジェラが脂汗を出している様子に気が付き、リリィをお姫様抱っこで居室まで連れて行ってくれた。


「本当にだいじょうぶなのか?」

 アンジェラが心配そうに聞いてくれるが、本音で話すとまた反論されるだろう。

「うん、多分。急に食べたからかな。ごめんね。食事中に。ありがと。できたら食事終わってからでかまわないんだけど、お爺様を呼んでもらえる?」

 アンジェラが未徠に電話をかけて食後に来てもらえるように約束をした。


 10分ほど経って、未徠が来た。

「リリィ、どうしたどこか具合でも悪いのか?」

「実はとても最悪なの。熱で脳が溶けてて、内臓がただれているから。」

「なっ、どういうことだ?」

「45度を超える熱があったんだもの、仕方ないわ。」

「何かできることはないか?」

「大丈夫、どうにかごまかしながら過ごしていくつもりだから。

 でも、本当に体がダメになったら、どうしようって考えちゃって…。せっかく体の要らない存在になれたのに、家族は納得してくれないんだもん。とりあえず自分で治してみるから、ちょっと立ち会ってもらえる?」

 リリィはそう言うとドアの鍵をかけさせて、未徠の前で分身体を出した。

 オレンジがかった金色の光の粒子がリリィから出てライルの姿に実体化する。

 ライルの姿の分身体は、その体を、見た目は普通の人間だが、生身の体ではないと説明した。

 まだ生身の体を有している方のリリィに分身体のライルが手をあて、癒していく。

「リリィ、卵巣と子宮は大丈夫そうだよ。やっぱり、脳の損傷がひどいね。

 ここだけ、時間を戻してみるとかはどうかな?記憶は核の方にあるから、脳は損傷さえ治せば腐食することもないだろう。」

「時間を戻った後は、大丈夫だと思う?」

「わからないけど、大丈夫じゃないかな…。もう覚醒は終わっているし、あくまでもその体は付属物的な位置にあるからね。」

 そう言いながら白い光を脳に当てていく。リリィとライル、本人同士の不思議なやりとりを見て未徠がドン引きだ。

「お爺様、ごめんなさい。変なところ見せて。私達、何か困ったことが起きたらバラバラに行動できるように独立した存在になったのだと思うの。」

「実は、多分この先、いつかわからないけれど、何かとてつもなく恐ろしいことが起きるという前提で僕たちが上位覚醒したんだと思う。」

 これからしばらくはライルが別行動で探っていくつもりだと、徠夢に告白した。

 一通りできる限り治した後、ライルは戻って行った。


「リリィ、本当にライルと別人格になっているのか?」

「うん、目が覚めてからは自分の中にライルはいないってわかっている感じなの。その代わりすぐ後ろにいてくれてるってわかってるの。情報は共有してるしね。」


 その時、ドアが激しく叩かれた。

『ドンドン、ドンドン』

 未徠がドアのカギを開けると、そこにはアンジェラがいた。

「どうした、騒がしいな…。」

 未徠が言うと、アンジェラが駆け込んでリリィに言った。

「脳の損傷がひどいって本当なのか?」

「え?どうしてそれを…。」

「リリアナから聞いた。」

「あぁ、まぁ、そう。そうよ。高熱で脳が溶けちゃったみたいで。だから体を維持するのが大変なのよ。いつまで持つかわかんないってのも本当のこと。

 あ、でも今ちょうど試したのが、ちゃんと機能しているみたいで、しばらくは大丈夫そうよ。お爺様、ありがとうございました。もう大丈夫です。」

 そう言うと、リリィはベッドに横たわった。


 未徠が部屋を出て行き、アンジェラが残った。

 アンジェラがリリィが寝ている脇に座ってリリィの髪を触りながら言った。

「リリィ、もしまだ何か私に隠していることがあったら嘘をつかずに言ってくれ…。」

 ず、ずるい。こんなこと言われたら嘘なんかつけないよ~。

「うーん、まだはっきりとはわからないから、言うかどうか迷ってたんだけどね。

 何かこの先、すごく大変なことが起こりそうって、感じ取ったの。そのための上位覚醒と分離だと思うんだ…。」

「やっと落ち着いたと思ったのにな…。」

「そうだね。」

 アンジェラの手を取って自分の唇に押し当て、チュとキスをした。

「り、リリィ…。」

「あ、ご、ごめんね。嫌だった?」

「い、嫌なんかじゃないよ。ずっと不安で、苦しかった。本当に戻って来てくれたんだよな…。」

「アンジェラ…。」

 アンジェラは優しくリリィを撫でて眠りにつくまで側にいてくれた。

 スヤスヤと幸せそうに眠るリリィを見てアンジェラも安堵した。

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