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27. 新たな能力

 八月二日月曜日、今日は平日なので父様も母様も動物病院で十時から仕事だ。

 朝八時には朝食を全員で終え、僕とアダムは自室に戻った。

 昨日城跡に行った目的である、自分の祖先についてレポートを書こうと机に向かって頭をひねる。

 うーん。これは能力を使って知ったことでも嘘でなければ書いてもいいのかな?

 とりあえず、レポート用紙に書き始める。

 江戸の末期頃、領主朝霧家は城に住んでいた。わかっているのはその時の城主であり領主の名前、えーっと朝霧長次郎っと。妻の名がたえ。

 そして息子緑次郎。娘が「みね」と、「りく」と、「なつ」。

 詳しい年月は不明だが、賊に押し入られ一家惨殺の上、火を放たれ城が消失、緑次郎は難を逃れた後、長次郎の妹が嫁入りしていた商家の鹿島屋に養子として迎え入れらるが、姓は朝霧を名乗る。

 その後、緑次郎二十歳で従妹である「たか」と結婚した。と。

 えー、それで娘、「鈴」が誕生っと。

 娘が七歳の時に病にかかり、奇跡的に治った。

 それを治したのが異国から来た薬師、亜津徠竜と言われている。

 その後、徠竜は朝霧の婿養子となり、現在の朝霧の家のある場所に薬局今でいう医院を建てた。っと。

 それ以来、うちの家系は医者とか獣医が4代続いている。

 こんなもんかなぁ?あとは市の資料館に展示してあった伝説の元になってるってことぐらいか。

 一通り書き終えて、ふと出窓のプラケースを見る。

 そういえば、しまった!昨日イヴをケースにしまってなかった。慌てて中を確認する。あれ、いた。ちゃんとケースに戻ってる。

 安堵のため息をつくと、女の子の声で頭の中に声が聞こえた。

「ライル様、私は逃げたりしませんよ。ご心配なく。」

「えー、イヴ?いや、どうやって戻ったのかなって、思ってさ。」

「必要な時は、自分で外に行きますので、大丈夫です。」

「それって、いいのか悪いのか…。」

「出られるからライル様の行った先にも駆けつけることが出来たのですよ。」

「あ、そっか。」

 妙に納得である。

 そこで、ちょっと疑問をぶつけてみた。

「あのさ、イヴ。こんなこと聞いて申し訳ないんだけどね。」

「はい。」

「イヴには、どんな能力があるのか教えて欲しいんだけど…。」

「問題ありません。基本的には暗いところでの動態感知。

 あと、制限はありますが、同じくらいの質量の小動物へ姿を変えることが出来ます。」

「すごーい。ねえ、ねえ、何に変われるの?」

 イヴはくるくると丸まって白い塊になったかと思うと、白い小鳥になった。

「ピィー。」

「すごいよー、イヴ。空も飛べるね。」

 イヴは元の姿に戻って少し頭を持ち上げて言った。

「あまり長い時間は難しいので、せいぜい一時間といったところです。アダムの様にずっと人間の姿というわけにはいきません。あれは異常です。」

「えっ、異常って…。アダム、ある意味すごいのかな?」

 それにはイヴは答えなかった。

 僕はもう一つ質問を追加する。

「イブはさ、目が赤く光ったんだけど、あれってどういうことが出来るとかってあるの?」

 イヴは少し考えた様子で、その後話し始めた。

「赤い目は精神を操る力があると言われています。蛇は他の動物を捕食していますので、目が合った時に相手の精神を掌握し、動きを止めます。ある程度の命令を聞かせることも能力のエネルギー量によっては可能かと。」

「それって、アダムの聴覚みたいに、僕も使おうとすれば使える?」

「私の能力はすでにライル様に繋がっているはずです。

 使おうと思って試してみてはいかがでしょうか。こういった能力は個体との相性もあるので、やってみなければ、わかりません。」

 とは言ったものの、試すところがないな。

「ありがと、イヴ。すごい参考になったよ。何か食べたいものがあったら言ってね。」

「大丈夫です。度々外で好きなものを食べておりますので。」

「そうだったんだ~。ははは…。」


 僕はさっそく日記のノートにイヴからの情報を書き込み、どんな実験ができるか考えてみた。

 なんだか理科の実験みたいで楽しい。

 そうだなぁ、じゃあまず、精神の掌握ってのを試してみよう。

 実験台はアダムにしようかな。

 そうだ、おやつにドーナツを買ってきて、食べるのを我慢させるってのはどうかな。ふふふ。僕は一人で薄笑いを浮かべて、実験の案をノートに書きならべる。

 他にも、そうだなあ…。

 夕食の途中で急に母様がピアノを弾きだすってのは、どうだろう。うわ、楽しそうだよ~。

 あ、でも怒られたら嫌だから、事前に父様には相談しておこう。


 午後になり、ダイニングでの昼食時、母様が席を立った時に父様に相談してみた。

「ライル、これは何だかいたずらの様で素直にやっていいとは言いにくいね。」

「でも、父様。赤い目の能力がどんなことをやれるというのは、こういう方法でしか試せないと思うのです。」

「まぁ、そうなんだけれどね。」

「わかりました。父様がダメというなら、僕はやりません。」

 父様は、額に手をやりしばし考える。

「ライル、ではこういうのはどうだろう。

 先に僕が同じことを言ってみるよ。アダムにドーナツは食べてはいけない。とね。

 それで言うことを聞かなければ、ライルが同じことを念じてみてくれないか。」

 比較もできるし、その方がいいと僕も同意した。

 今夜、食事の時に決行だ。

 かえでさんに頼んで、ドーナツを買ってきてもらおう。


 午後七時、全員揃っての食事が始まった。

 ちょっと不自然だけれど、夕食の食べ物と並んで皿に盛ったドーナツがテーブルに置かれる。

 思った通り、アダムはドーナツに目が釘付けだ。

 アダムがドーナツの皿に手を伸ばそうとしたその時、父様がストップをかける。

「アダム、ドーナツは今はダメだよ。ちゃんと他のものを食べてからにしなさい。」

「ぶー。」

 あれ、言うこと聞いちゃうんだ…。これじゃ、実験にならないな。

 と思った瞬間、アダムがさっと手を伸ばしてドーナツを掴む。今だ!

「アダム、こっち見て。」

 言葉と同時にアダムがこっちを見た。

 僕は口には出さずに心で念じる。

「ドーナツを皿に戻せ。その後、かえでさんにミルクをもらいに行ってこい。」

 父様は僕とアダムの様子を見守る。

 アダムの碧眼に赤い輪が浮かび上がる。

 父様は一瞬ごくりとつばを飲み込んだような気がする。

 直後、アダムはドーナツをそっと皿に戻し、かえでさんの方へ歩いて行った。

 ふぅ~。うまくいったのかな?

 アダムはミルクを持って戻って来た。そして、椅子に座り直すといきなりドーナツを掴んでぱくっと食べた。

「アダム~。ダメって言われたでしょ~。」

 母様に言われて渋々一口かじったドーナツを返す。

 これじゃ成功か失敗かわからないよ。

 父様も苦笑している。


 次は母様だ。

 相手は大人だ。そんなに簡単にはいかないと想像しつつ、父様が最初のアクションを始めるのを待つ。

「んんーっ、あ、あの~杏子。」

「なあに、徠夢君。」

「そういえば最近、杏子のピアノ聞いてないなぁ~って思っててさ。」

「そうねぇ、最近ピアノにも触ってないわね~。」

「急に聞きたくなっちゃって。今弾いてくれないかなぁ。」

「え?何言ってるの徠夢君、今食事中よ。無理に決まってるでしょう。」

 父様、撃沈。そこで、僕の番だ。

「母様。」

「なあに?」

 僕は母様に目が合った瞬間、アダムの時と同じように口には出さずに心で念じる。

「今すぐピアノを弾くんだ。一番得意な曲を最初から最後まで。終わったらテーブルに戻ってこい。」

 母様の目の中に赤い輪が浮かんだ。

 ガシャン、母様が手に持っていたフォークとナイフを皿の上に少し音を立てて置いた。

 母様はすくっと立ち上がると、口の中に入っていた食べ物を咀嚼しながらダイニングの入り口を出て玄関の前のホールに行き、置いてあるグランドピアノの蓋を開け、椅子に座ると同時にピアノを弾き始めた。曲は英雄ポロネーズ。

 母様は最後まで弾き終わると、ピアノの蓋を閉め、まっすぐダイニングの自分の席に戻って来た。

 座る瞬間、目の赤い輪が消えた。そして何事もなかったようにフォークとナイフを取り、食事を再開する。

 父様、目が点になっている。多分、僕も。

 どういうリアクションをしていいかわからない。

 食事を終え、父様は僕に書庫に来るように言って先に席を立った。


 僕は少しアダムと母様の様子を見ていたが、時に変わった様子はない。

 一旦部屋に戻り、日記のノートを持って書庫に行く。

 父様の言う通り、ちょっといたずらをしたような気分だ。

 書庫に着くと父様が苦笑いをしながら言った。

「ライル、これはヤバい能力だよ。こんな事が出来ることが知れたら犯罪組織に狙われたり、自分が犯罪者になるかもしれない。絶対に口外しない、悪用もしないと誓っておくれ。」

「もちろんです。父様。」

「さっき、この能力、アダムには効かなかったのかい?

 おまえの目は一瞬だが全体が赤くなっていたんだけれど。」

「いえ、効いたと思います。効いたときには目に赤い輪が浮き出るようです。

 ただ、指示がドーナツを置くことと、牛乳をかえでさんにもらってくる。

 とだけにしたため、またドーナツを掴んで食べてしまったのかと…。

 母様の時は、ピアノの得意な曲を最後まで弾いて、席に戻るまでを指示してみました。」

「なるほど。だから急にフォークやナイフをガシャンと置いて行ったわけだ。細かく指示すればするほど、自然にふるまえるのかも知れないね。」

「この能力は同じような能力を持っている僕にも有効なんだろうか。」

「父様に試してみてもいいですか?」

「あ、あぁ。激しくないのにしてくれるなら。」

「わかりました。」

 僕は父様の目を見て念ずる。

「両手を頭の上に持って行ってにゃんこの耳ポーズをとれ。」

 父様の両目に赤い輪が浮き出た。

 すっと両手が上がり、きれいににゃんこの耳ポーズを取る父様。

 思わず、ぷっと吹き出してしまう。その瞬間。

「うわあっ。何?何?手がどうしてここに…。」

 父様は大慌てだ。僕は冷静なふりをして言った。

「父様にも有効な様ですね。」

 父様には、絶対にいたずらしないようにもう一度念を押された。


 僕はさらに自分の意見を父様に伝える。

「父様、僕の場合はイヴの能力をもらったようなんです。

 なので、最初からこの能力を持って覚醒した場合、こんなもんじゃすまないほどの力が使えると思うんです。」

「アズラィールの事を言っているんだね。でも、自分で封印したのならちゃんと理性で解決できる範囲であるのではないのかな。」

「そうですね。また何かアズラィールの日記に変化があったら教えて下さい。」

「あぁ、もちろんそうするよ。」

「ところで、父様の能力なんですが、動物の体内を透かして見たり、修復をする以外にどんなことが出来ますか?病気も治せますか?」

「僕の場合はね、その体をスキャン的なことで見るのと、傷や炎症を治したり骨をくっつけるというところだね。癌や内臓疾患は見つけることは出来るが、その場合は、外科手術を行ったり、その病気に合う薬を出したり、手術の後に手術痕の治癒を促すことは出来るけどね。」

「僕のとはちょっと違うんですね。」

「ライル、どう違うんだい?」

「緑次郎の娘 鈴を治した時は、腕ごと腹の中に、こう、ずぶっと入れて中から塊をがばっと取り出しても、腹には傷がありませんでした。」

 父様は口が開いた状態で固まっていた。

「そ、それは仙人級の技だね、ライル。

 腹に手を突っ込めるってことは…。逆に相手の内臓を握りつぶしたりもできる。ってことにならないか?」

「いや、父様。そんな、怖い事言わないでください。」

 正直、この発言には二人とも冷や汗ものである。


 そんなこんなで、ちょっと能力の解明が行われた気がする。

 日記のノートにそれらをアップデートして部屋に戻った。


 部屋に戻りベッドでゴロゴロしながら自分の能力についてもう一度考える。触った物や人の記憶や情報を得ることが出来るのはなんとなくわかった。

 問題は、その物に関わる人間が命に関わる場面に直面しているところに転移してしまうことだ。

 その物を離せば元の場所に戻るが、現在とは限らないところにまで行ってしまうのが非常に不思議であり、恐怖である。

 あと、触ったときに目が光った人や動物の能力を使えるようになることだ。

 そういえば、母様からもらった能力とは何なんだろう。

 明日、探ってみよう。そんなことを考えながら案を練っているうちに寝落ちしてしまった。


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