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268. おとぎ話の続きには(4)

 聖堂まで走ってきたアンジェラは、未徠と徠夢に絵本の事を話した。

 この世界とは別の並行世界である場所から届いた絵本だと言うことを。そして、つい先日その絵本を読んだ時には無かった、続きが描かれていることを…。

 そして、さっき自分がリリィを失った喪失感から、衝動的に塔の最上部から身を投げてしまったことも告白した。

 アンジェラには一つ引っかかっていることがあった。

「未徠、徠夢、聞いてくれ。私は今まで何度も何度も命の危険にさらされてきた。

 戦争や、私を支配しようとする権力者、魔女狩りの役人たちによってだ。そして生きているのが辛いと思った私自身によって、命を絶とうとしたことも一度や二度ではない。

 でも、その度にライルが、リリィが私を救ってくれた。命を助けるだけじゃない、優しく言葉をかけてくれ、て…、もう、こんなことしちゃダメだって…。」

 アンジェラはもう泣きすぎて、言葉の続きが出てこないほどの状態だった。

「泣かないでくれよ、リリィだってお前が泣くのは嫌だと思っているはずだろ?」

 未徠はそう言ったが、アンジェラの話は終わりではなかった。

「違うんだ…、さっき私が塔から飛び降りた時に、なぜマリアンジェラが私を助けたのか…。

 なぜ、私のところに来たのがライル、リリィじゃなかったのか…。答えは一つじゃないか?って。もう、この世にライル、リリィが存在しないのではないかって…。」

「どういう意味だ?」

 徠夢が聞き返した。

「今までは、過去でも、未来でも、どんなときにも来てくれたんだ。だから、今、どこかで、ライル、リリィどちらかわからないけど、私を助けられない状況にあるんじゃないかって、そう思うんだ…。」

 未徠と徠夢にはとうてい理解の及ばない話だった。

 目の前に、棺に入ったリリィがいるではないか、確かに息も脈もない、もう死んでいるであろうリリィが、どうやってお前を助けに来られるのだ?二人はそう思ったが、後ろで聞いていたマリアンジェラは少し違った。

「パパ、マリーはパパの言うことわかるよ。ママは、どうしてもパパの事あきらめないんだから、絶対来るはずだよね。もう一つの違う世界にまで行ってもう一人の瑠璃リリィを治すくらい、パパのことが大好きなんだよね。」

「うっ…。」

 アンジェラがまた鼻水を流しながら泣いている。

「パパ…確かに、変だね。どうして来なかったんだろう…。あと5mでぐちゃぐちゃになるところだったもんね。」

 辛辣な言葉も、本当なので皆黙って聞いている。

「マリー…。」

「パパ…。」

 アズラィールに鼻水を拭かれ、少しきれいになったアンジェラにマリアンジェラが歩み寄った。

「一緒に行ってあげる。探しに、きっと、今、どこかでライルかリリィが困ってるんでしょ?」

「あぁ…、私はそう思っているんだ。」

 二人は、ただ絵本の内容を信じるってこと以前に、何か起きているのでは…と感じたのだ。


 マリアンジェラがアンジェラの手をとった。

 マリアンジェラは意識を集中して、ライルの場所を探した。マリアンジェラの能力はライルが持っているものと同等のものが多い、一度触れたことがある者の場所へ、同次元であれば転移可能だ。

 目の前の景色が変わった。真っ暗だ。ひんやりしていて、光源が全くない。

「マリー…」

 アンジェラがか細い声で娘を呼んだ。手を繋いではいるが、今の状況を知りたい。

「ぱ、パパ…。あせった~、」

 マリアンジェラがそう言った時、アンジェラはポケットからスマホを取り出し、ライトをつけた。

「こ、ここはどこだ?」

 かなり狭い空間だ、周りは土、岩、そしてコンクリートが頭上に広がっている。

 そのコンクリートには大きな亀裂が入っており、一部に穴が開いていた…。

 その穴を通って、上部に進む。

「こ、これは…あの宗教団体の支部ではないか?」

 アンジェラがそう言うと、マリアンジェラが頷いて言った。

「このコンクリートみたいな床と壁、私の能力が通り抜けられないみたい。だから、外の隙間に出たんだと思う。」

 そうか、転移するとその先にあるものに邪魔されても自動補正さながら、人が存在できない様な場所では少しよこにずれて実体化されると言うわけだ。


 少しずつ不安を抱きながらも進んだその先に、スマホのライトに照らされた先には、建物の崩壊で首の骨が折れた男が一人と頭部から血を流し、それでも対峙した相手を動けなくしたのか、その横でうずくまったまま意識を失っている小さいライルがいた。

「ライル…、ライル…どうしてこんなところに…。」

 マリアンジェラがライルから記憶をコピーする。

「パパ、小さいライルと一緒にママを助けに行ったのね。その後、小さいライルが一人であちこちの宗教団体の拠点を同じ方法でつぶして回ったみたい。

 でも、ここで、その首折れたやつに後ろから棒で殴られてしまったみたい。」

 アンジェラはマリアンジェラの手を離すと、愛おしい何かをそっと包み込むように小さいライルを抱き上げた。

「マリー、頼む、聖マリアンジェラ城へ、戻ってくれ。」

 意識のない小さいライルを抱き、片手でアンジェラと手を繋いだアンジェラが言った。

 三人は光の粒子に包まれて消えた。

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