267. おとぎ話の続きには(3)
アンジェラは以前読んだ絵本に何か自分が見落としていた部分でもあるのかと思ったが、まさか、続きの話がそこに描かれているとは思いもしなかった。
アンジェラはアズラィールに促されるまま、絵本を読んだ。
『王子様は、冷たくなった天使の唇に口づけをして、そのまま川に身を投げてしまいました。
死んでしまった王子の体は川から引き上げられ、教会で眠る天使の隣に置かれました。
王子様の顔はとても穏やかで、国民は皆王子の死を嘆きました。
王子が死んで3日後、天使の体は粉々に飛び散ったかと思うと、大きな不死鳥の姿へと変わりました。天使は死んでいなかったのです。より多くの人々の役に立つために、力を蓄え、変化したのです。』
「ふーん、そうなんだ。」
ミケーレは微妙に納得のいかない様子で続きを読むようにアンジェラを促した。
『しかし、復活した天使の前に横たわる王子様の死んだ姿を見て、天使は嘆き、悲しみ、神様に王子様を生き返らせて欲しいと頼みます。
神は天使の望みを叶える代わりに、天使の記憶を全て消し、違う姿にするという条件を出しました。男の子だった天使は女の子の天使に姿を変えられ、記憶を全て消され、山の中へ飛ばされました。天使がわかっているのは、この国に留まり、人々のために手助けをすることが自分の役割だということだけです。自分が天使であることも覚えていません。』
「パパ、これ、ひどい話だよね…。」
ミケーレは若干涙目だ。
『王子様は、神様の力により一日後に目を覚ましましたが、そこにはもう天使はいませんでした。王子様は家臣たちから天使は生きていると聞きましたが、いくら探しても王子様の天使は見つかりませんでした。
数年が経ち、王子様は王様になりました。王様になっても、天使を探し続ける王に周りの者達もあきれていました。』
『ある日、王は山の中へ入り、天使を探していました。そこには、小さな山小屋があり、中には若い娘が一人で暮らしていました。プラチナ色の髪が長く、瞳が海のように深い青色の美少女でした。
王は身分がわからない様に粗末な格好をして山に入っていましたが、崖から滑り落ちてしまい、汚れた上にひどい怪我を負いました。
それを偶然見つけた山小屋に住む娘は、怪我を負った汚れた青年に恋をします。
怪我が治るまでと、毎日優しく世話をしてくれる娘に王も心を惹かれていきます。』
『王の怪我が治り、山小屋を去る日、王は王であることは告げずに娘に結婚を申し込みます。
娘は、私には何もないけれど、それでも良ければ、と申し出を受けました。
三日経ち、王が結婚のためにたくさんの家臣を引き連れ娘を迎えに行きました。
しかし、娘は城に行くことを嫌がりました。
王は娘の嫌がることを押し付けることなく、諦めて山を下りることにしました。
でも、せめて最後にと一度だけのつもりでキスをしました。』
『その時です。娘の背中には翼が生え、娘の記憶が全て戻りました。
王は、その娘が自分の探し求めていた天使であると知りました。天使も自分がいるべき場所は王の側だと理解しました。
二人は二度と離ればなれにならないと誓い合い、城で王と王妃として長く国を治めました。
その後、二人には二人の王子様と二人のお姫様が生まれ、末永く幸せに暮らしました。』
最期まで読み終えたアンジェラに、アズラィールが話しかける。
「なぁ、アンジェラ。これが全部お前たちの話とは思わないけど、もう少し待ってみたらどうだ?もしかしたら、奇跡が起きるかもしれないだろ?」
アンジェラは、絵本を読んでいる最中から、鼻水と涙でぐちゃぐちゃになっていた。
その鼻水を娘のマリアンジェラがティッシュを物質転移させ、触らないようにしながら拭いていた。
しかし、そんなことはお構いなしのアンジェラは急に体の向きを変えてベッドから下りた。
「ぎゃっ。」
鼻水が吸い込まれないくらいめっこりついたティッシュが、マリアンジェラの顔面を直撃した。
「…っ、マリー…。」
「パパのばかぁ~。」
アズラィールの懐に飛び込み、アズラィールの服で顔をぐりぐりと拭うマリアンジェラを見て、アズラィールも苦笑いだ…。
アンジェラはマリアンジェラをすまなそうにチラッと見ながらも、絵本を持ったまま聖堂へ走って行った。
アンジェラの部屋に残されたアズラィールはミケーレとマリアンジェラを抱っこしてアンジェラの後を追いかけたのだった。




