265. おとぎ話の続きには(1)
10月18日、日曜日。
皆で聖マリアンジェラ城に避難してきてから2週間が経った。
その日、朝早く、アンジェラはリリィの体を拭いてあげようと水を汲み、タオルを濡らして絞り、リリィの頬にタオルをつけた。
「…。リ、リリィ…。」
アンジェラの口からは嗚咽と共に自分の妻を呼ぶ絞り出すような声が漏れた。
リリィの体の熱はすっかり冷え、そこに横たわっているのはまるで石でできた人形の様な冷たさだった。まつ毛の一本一本まで、白い色へと変化してしまったアンジェラの妻は、ベッドの上で安らかな顔で眠りについていた。
体のどこ部分を触っても固く、弾力性は全くない。
そのしなやかな指も、可愛らしい唇も、もう開くことはない。
「うぉーーー。」
まるで地鳴りの様な唸り声をあげ、アンジェラが立ち上がり、外に飛び出してしまった。
アンジェラの声に驚いた未徠と徠夢がアンジェラとリリィの居室へ入った。
そこには石像のように白く、光沢があるリリィが横たわっていた。
「やはり、ダメだったか…。」
未徠は残念そうに、しかし、結果はある程度予想がついたと言う様な言い方をした。
念のため、医師として最後に死亡の確認を行った。
徠夢は部屋の入口を少し入ったところでうつむいたまま、それ以上近づけなかった。
城の管理人に頼み、遺体を安置するための立派な棺桶を用意してもらった。
未徠と徠夢とアンドレでリリィを棺桶に入れ、城内の聖堂へ運び込んだ。
ギリギリまで子供達には知らせずにいた。
アンジェラは傷心のあまり、城の塔の上に自分の翼で飛んで行ったまま、膝を抱えて座り、一人湖を眺めてはしくしくと泣いているようだった。
誰がアンジェラに、どんな声をかけられると言うのだ…。
アンジェラが塔の中で、歌を歌っているのが聞こえてくる…。
『会いたい 心でそう願っていても 君は
僕らが まだ出会っていないのだと 言うよ
瞳 閉じれば ほら 君の声が聞こえる
すべての 希望を捨てて生きて行けたら
君に 会えると 信じられるのなら 何も要らない
すべての のぞみをあきらめたのなら
君が 僕を 愛してくれるのなら 何も要らない
もう 見えないよ 君の 笑顔さえも
僕らは どうして 出会ってしまったのだろう
こんなに 苦しい 想いするのなら さよならを君に』
声はかすれ、悲しみはこの歌詞に現れていた。
いつも歌っているアンジェラの持ち歌に心情を書き加えてた様だ。
その歌声を聞き、何が起きたか察したのか、ミケーレ、そしてライナが別の部屋から走ってアンジェラの居室に飛び込み、そこにアンジェラとリリィがいないことに驚き、皆にアンジェラの所在を確認しまくっている。
見かねたアズラィールが子供達に言った。
「アンジェラは塔の上だ」
「おじいちゃん、僕、これ見つけたんだ。家から持ってきたおもちゃと一緒にあった。」
ミケーレはアズラィールに絵本を渡した。




