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26. 正義と悪の間

 僕は、右の耳の中がくすぐったくて目が覚めた。

 ん?右に体を回転させると…

「わっ。わー。イヴ、びっくりさせないでよ~。」

 僕の右の耳の穴をイヴがピロピロと舐めていた。

「お声をかけたのですが、お目覚めになりませんでしたので、強硬手段を取らせていただきました。」

 僕は自分の家の裏庭のど真ん中に横たわっていた。

「ライル様、すぐにご両親にお知らせしないと、ご心配されていると思います。」

 ん?心配?

「あー、そうだった。火事、火事でさ。あ、ここ家っていうか、さっきここまで走ってきてさ。あ~、そういうことか、場所はその場所ってことかな?

 あ、早く父様に連絡しなきゃ。」

 僕はかえでさんに父様に電話してもらい、家に戻ったことを知らせた。


 十五分ほどして父様と母様とアダムが戻って来た。

 父様は無言で僕を抱きしめると僕にだけ聞こえる小さい声で言った。

「ライル、あぁ、心配したよ。何があったんだい。すぐに地下書庫で話を聞かせておくれ。」

 僕は黙ったまま頷いた。

 城跡で約二十分間、父様と母様、そしてアダムで僕を探し回ったようだ。

 僕と父様はそのまま地下へ移動し、僕は父様に何があったかを話した。


 あれは、あのアダムが見つけたものは、多分小刀のつかだった。触ってしまったその先には、小刀のつかの部分を握った僕がいて、そこは炎が燃えさかる城の中だった。

 そこには、すぐ足元に三歳くらいの男の子がいて、全身にかなりのやけどを負い、意識もなかった。

 そして、僕はその子をその場から外に出し、その子の体の内部を癒した。

 自分の意識がなくならないように力をセーブしながら、すぐに現在の家のあるこの場所へ

 子供を連れて移動し、家の中にいる人に、大声で朝霧だと名乗り顔を隠して助けを求めたこと。

 人が出てくる前に全力で男の子の癒しを試みたこと。

 そこで、多分力尽きて気絶し、刀のつかから手を離したため家に戻ってきたこと。

 それを聞いた父様は一つ興味深いことがあると言った。

「この家の裏庭で意識を失って、ここに帰って来たんだね?」

「多分、そうだと思います。」

 父様は僕が城跡で手にした刀のつかをポケットから取り出した。

 ハンカチに包んでいたそれは、少し焦げたような痕がある。

「持って来たんですね。」

「あぁ、放置しておくわけにもいかないからね。」

 父様はそれを透明なビニール袋に入れて、書類が入っている箱の中に一緒に保管することとした。

「ライル、その男の子は朝霧緑次郎だと思うかい?」

「はい。多分…。」


 そこで、僕は1つ心に引っかかっていることを父様に告白する。

「父様、今回のことですが。僕は正しいことをしたのかどうかわからなくなりました。

 あの子は、きっと僕がいなければ死んでいた。いや、もうほぼ死んでいた。

 僕が無理に生かしたとも言えるんじゃないかって…。」

 父様が僕の手に手をのせて優しく答える。

「ライル、何が正しいかは正直僕にもわからないよ。でもね、さっきその子を助けなかったら、僕らは今こうして話していることもないんだよ。

 その子はアズラィールと同じ、僕たちの祖先でもあるんだからね。そして、その子は救われたんだろう?」

「…。」

 確かに、僕があの子、緑次郎を助けなければ、僕たちは消えてなくなってしまうのだろう。

 しかし、自分の行動にこんなに責任を感じるのは正直に言うとかなり重い。

 十日ほど前に始まったこれらの不思議な体験は何かもっと重大な理由があってのものなのではないかと僕は感じ始めていた。

 なぜこんなことが次から次に起こるのか…。

「父様、僕が正義だと思っても、他の人には悪となる可能性もあるんじゃないかって思うんです。」

 父様は少し驚いたような顔をした。

「人の命を助けることが悪になるなんてこと、あるとしたら、世の中が狂っていると思うよ。少なくとも僕は、ライルが人の命を助けたこと、誇りに思ってるよ。」

「ありがとう、父様。」


 僕は書庫に置きっぱなしになっていた日記のノートに今日の出来事を書き加えた。確かに、北山先生のこと以外は自分の祖先に関わることばかりだ。

 今回は消耗はさほど大きくなかったのか、昏睡状態にはならず、すぐに回復できた。

 念のため、午後は自室でゆっくりと休み、少し早い夕食の後、僕は色々考えを巡らせているうちにいつの間にか寝落ちしていた。


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