257. 脅威への対抗策(5)
家に戻り、クローゼットの中でリリィになった。部屋着に着替えていつものようにダイニングで夕食を食べようと冷蔵庫をあさる。今日はいつもより遅かったので、24時を過ぎていた。
なかなか調べも進まない、今回わかったのはウィリアムがSNSで僕の事を天使様などと書いたことが事の発端だとわかったことくらいだ。
冷蔵庫の中には冷えたチョコレートと飲み物とマヨネーズとジャムくらいしかない…。
その時、パントリーの中からガサゴソと音がして、リリアナが出てきた。
「あ、え?ん?」
思わず、変な声を出してしまった。リリアナが大きなターキーのもも肉を口にくわえていたのである。リリアナはこういう人間くさいところをめったに見せない鉄壁の女なんだけどな…。
リリアナが僕の前にプレートを置いた。どうやら僕の夕飯の取り置き分らしい。
「ありがと。」
僕がそう言うと、リリアナが空いた手にターキーのもも肉を持ち直して、頬を赤らめたまま言った。
「あ、これリリィの分ね。まだターキーがたくさん残ってるから、パントリーの冷蔵庫見てね。」
「うん。リリアナ、体調どうなの?」
「そうね、お腹が異常にすくのよ。マリアンジェラはいつもこういう感じなのかしら?」
「お腹の赤ちゃんのせいかな…。」
「ふーん、そうなのね。でもリリィはそんなに食べてなかったわよね?」
「あんまり覚えてないんだ。ずっと安静にしてて、確かにそんなにお腹はすかなかったかも…。」
僕は夕食を食べながら、豪快にターキーにかぶりつくリリアナを見て、少しホッとした。
そこにアンドレとアンジェラが来た。アンジェラが僕に声をかける。
「お、リリィ帰ってたのか。」
「少し前にね。」
その時、アンドレが真面目な顔で、と言ってもいつも超真面目なんだけど、僕の側まで来て言った。
「リリィ、明日一緒に朝霧に行ってくれないか?」
「え?どうしたの?」
「今日、ライナを連れて行ったときに、小さいライルが少し気になることを言いだしたんだ。」
「どんな?」
「今のままの能力じゃ救えないとか、なんとか…。みんな死んじゃうとかも言ってたな。」
「わかった。よくわかんないけど、明日一緒に行くよ。」
アンジェラがニヤニヤして僕を見ている。なんだろう…。
「どうしたの、アンジェラ、ニヤニヤしてさ。」
「リリィ、これを見てくれ。」
アンジェラは僕に手に持っている物を手渡した。それは、あの黒い羽を模したアクセサリーだ。今までのとは少しデザインが違うものが多い。髪留めやクリップの形の物も。
「え、これ新作なの?」
「まぁ、デザインもなんだが、何か有事の時にはこれで居場所がわかるようにGPSタグをつけてもらったんだ。私とアンドレとリリィのタブレットで検索可能なように設定しよう。」
「へー、これで行方不明の時に探せるっていうことか…。」
なるほど、僕とリリアナとマリアンジェラしか転移ができないので、その3人がいなくても皆の居場所が特定できれば少し安心感が増す。
警察への捜査依頼もスムーズにできるかもしれない。
「さすがに指輪やイヤーカフにはつけられなかったんだ。腕輪とバレッタ、カチューシャ、ブローチなどだ。あとペンにも仕込んでもらったからポケットに入れられる者はこれでもいいだろう。」
「いいね、とてもいいアイデアだよ、アンジェラ。」
アンジェラも褒められてうれしそうだ。
「じゃあ、明日、これを持って未徠達にも渡して来よう。」
「そうだね、ライナと子供達も一緒に連れて行こう。」
「リリィ、それからもう一つ。以前から考えていたんだが、ライナをうちの養子にしてはどうかと思っているんだ。」
「あ、うん。それさ、一回父様と母様の前で、ライナに確認してからでもいい?
二人がいない所で言い含められたとか思われても嫌だし、ライナが今現在、どう思っているかと言うのも確認しなきゃいけないと思うんだ。」
「あぁ、そうだな。明日、それも一緒に話してみよう。」
僕達はお互いの報告を終え、それぞれの部屋で眠った。




