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254. 脅威への対抗策(2)

 9月28日、月曜日。

 翌朝、アンジェラとくっついて寝ていたら、また、足元から割り込んできたミケーレに邪魔をされた。

「ママ、帰ってきたら最初にミケーレにチューしてくれないと怒るよ。」

「はい、すみません。」

 ほっぺにむっちゅとキスをしてあげた。すごく喜んでいる。今日はマリアンジェラが来ない。

「マリーは?」

「ベッドで泣いてた。」

「え?」

 慌ててマリアンジェラのところに行った。本当に泣いていた。鼻水も涙もぐっちゃぐちゃで…。

「マリー、どうして泣いてるの?おいで。」

 抱っこしてなでなですると、目をこすりながら、じっとこちらを見つめて言った。

「ママ、ごめんちゃい、おりこうさんにするから、いなくならないで…。」

 どうやら自分が悪い子だから僕が子供のライルになって日本に帰ってしまったと思った様だ。


 朝食をとっているときにアンドレとリリアナに情報を共有した。

 僕が体調不良でしばらく休むことになるとアンジェラが学校に連絡してくれていたようだ。

 都合がよかった。まず、セーフハウスの様な誰にも知られず僕らが隠れることができる家を購入することから始めなければ…。

 アンドレとリリアナが「ちょっと出かけてくる」と言って一時間ほど留守にしている間、子供たちを乳母に任せ、アンジェラはドイツにいるマルクスやルカ達の会社と自宅にセキュリティカメラが設置されているか確認、それらへの接続方法を聞いた。

 事情を伝えたので、皆協力してくれるようだ。

 続いて、アンジェラがアメリカの家の清掃を、例の清掃業者に依頼する。三日後の正午に清掃開始と頼んだ。彼らがこれから起こる犯行に加担しているならば、彼らの本当の素性を知る必要がある。


 アンドレとリリアナが戻ってきた。アンドレの手には、ユートレアの王令が記された巻物があった。

「何だ?これは…。」

 アンジェラがアンドレに聞くと、アンドレは今まで見せたことのないどや顔で王令を広げて読んだ。

「ユートレアの王、オスカーの命により、以下の城を下記の物の所有とする。

 一、聖マリアンジェラ城  所有者:マリアンジェラ・アサギリ・ライエン

 一、聖ミケーレ城 所有者:ミケーレ・アサギリ・ライエン

 二人を正当な王位の継承者と認め、城を授ける。

 尚、城の管理は所有者名を公開せず、譲渡等は一切行えないものとする。」


 アンジェラが聞いた。

「アンドレ、どういうことだ?」

「アンジェラ、これは父オスカー王からのお礼のしるしだ。」

「お礼?」

 リリアナがかみ砕いて説明してくれた。今まで、王太子アンドレの命を救い、隣国との戦争でも自国民に一人も犠牲者を出さず勝利に導き、毒殺されそうになった王族を救ってもらったお礼をしたいとオスカー王がずっと言っていたというのだ。

 国が大きくなり、元々のユートレア小国の城は王太子であるアンドレとリリアナの専用の城となり、実際の城は新国土の中心地へ移転した。

 国土はかなり広く、要塞としての目的もあり、東西南北に一か所ずつ城を立てる計画があると言う。その二つを、マリアンジェラとミケーレに最初からくれると言うことらしい。

「この城は、500年前に着工したものだが、中は近代的に作り変えられるようにしておく予定だ。場所を教えるので、後でリリィとアンジェラに同行してもらいたい。」

 うまく、所有者をごまかしていけば、今急に物件を探すより断然都合がよい。

「アンドレ、じゃあ、追加でいくつか設備を増やしてほしい。」

「わかった。メールで送ってくれ。また伝えに行ってくる。」

 子供たちが戻って来てから、子供達を日本の朝霧邸に預け、アンドレとリリアナ、アンジェラとリリィの四人で着工したばかりの城の場所を訪ねた。

 そこで、アンジェラのリクエストを書き込んだ紙をそれぞれの場所の建築担当者に渡す。

 どうやら下水や上水道のためのスペースやケーブルを這わせる空洞の指示や、浴室に関してのリクエストをしたようだ。

 一度現代に戻ってきた。そして、同じ場所を現代で訪ねた。

「うっわ。すげー。」

 僕は思わず少年モードで話してしまった。リリアナの視線が痛い。

 降り立ったそこは旧ユートレア国の国土の西に位置する『聖マリアンジェラ城の塔の上』だ。

 そもそも国が海に面していないのだが、城の半分は湖にせり出しているように作られていた。

 白っぽい化粧石を使い、ハクチョウを思わせるような建物はまさしく天使が住む城にふさわしい。しかし、入り口は閉ざされ、管理人の親子が敷地内の邸宅で生活し、城の中をきれいに保っているらしい。

 管理人の家系は城で元々働いていた忠実な家臣を選び、アンドレ達のことは知っているということだった。夏の避暑地として最高な雰囲気だ。

 最初は管理人に入れてもらったが、ここの入り口は現在は網膜認証で行うとの事で、4人の網膜を登録してもらった。一回中に入っておけば、網膜認証も転移するから必要ない。


「中を一通り確認してから必要なものを一覧にして後から運ぶことにしよう。」

 少なくとも日本の朝霧邸に住む家族、徠神たち、ドイツのマルクス達全員が住むことには問題がない広さであると考えられる。


 同様に聖ミケーレ城にも行った。

「ほぉ、こっちはこっちですごいな。」

 アンジェラが感心するほどの、こちらは城と言っても大きな邸宅レジデンスと言った感じだが、丘の上に立つそれはとても美しい建物だった。

 中には先ほどの城で登録した網膜認証がそのまま有効だと言っていた。

 こちらの邸宅は普通の居住空間の他に、地中に同じくらいの地下空間があり、外部から知られることなく使用可能だと説明があった。

 内部を確認すると、地上部分は豪奢な中世ヨーロッパ調の邸宅だ。地下部分は最新の設備が整っており、完全防音、自家発電装置、シアターまで作ってあった。

「誰の趣味だ?」

「さぁ…。最新の設備をと指示してはいましたが…。」

 しかし、これだけのものを長年維持していて、ほぼ使っていないってのは、勿体ない。

 そんな事を呟くと、リリアナがそれに反応した。

「お城の役割なんてそんなものよ。今は平和な世の中だけれど、戦争のための見張り塔や、城壁が必要だったんだもの。それなりに役目は果たしていると思うわ。」

 確かにこの城の周りには高い城壁がぐるりと国境に沿って造られている。

 一通り見た後で、外からの転移を試し、問題ないことを確認した後で家に戻った。


 四人で子供たちを朝霧邸に迎えに行く。

 朝霧邸の自室に転移すると、そこには小さいライルも来ていた。

「あ、あれ?リリアナちゃんが二人もいるの?」

 小さいライルが驚いたように言った。リリィの姿で会うのは初めてだっけ?

「僕はライルだよ。」

 そう言いながらライルの姿になる。ビックリした顔をして固まったので、リリィの姿に戻る。

「リリィでもあるんだよ。」

 小さいライルは少し考えた後で、口を開いた。

「リリィちゃんの羽を一枚ちょうだい。」

「どうして?」

「あのね、一人ひとり羽の色が違うの。リリアナちゃんのは少しグレーの色が根元に混ざってて、アンドレちゃんのは青い色が光の反射で見えて、マリーちゃんのは、真っ白で、ミケーレちゃんのは、クリーム色が混ざってて…。ライナのは羽の根元にオレンジの色が入ってるんだ。みんな違って面白いから、だから集めてるの。」

 へぇ、初耳。確かに少し違うな…。僕は翼を出して背中を小さいライルに向けた。

 カサカサとさぐっているようだったけど、ぶちっと音がして羽を抜いたようだ。

「いてっ。」

 結構痛いじゃないか…。すぐに小さいライルはアンジェラの方を見た。

「大きいおじさんも羽ちょうだい。」

 うるうるのお目目で見上げられ、アンジェラは痛いのは嫌だけど、渋々了承していた。

 どうやら、翼持ちは全員小さいライルのこの収集癖の餌食になっているらしい。

 小さいライルは肩にかけていたバッグから写真を入れるようなクリアフォルダーを取り出し、机の中からマジックを取り出して、クリアフォルダーのポケットに僕の名前を書き込んだ。

『リリィ(ライル)』

 そしてもう一つ、『大きいおじさん』。

「大きいおじさんじゃなくて、アンジェラだよ。」

 僕がそう言うと、『あ』と言って、マジックで書き足した。

『あんじぇらちゃん』

 そこにいた大人は小さく『ぷっ』と吹き出した。

「アンジェラにちゃんつけたのはお前が初めてだぞ。」

 アンドレが楽しそうに言った。小さいライルはニコニコしながら羽をフォルダーにしまった。

 まさか、ここで採取された羽が、あの封印の間に皆を助けて連れて来られることに繋がっていたとは、この時思わなかった。

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