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252. 新たな脅威

 僕はまず最初にアンジェラを癒した。しかし、傷を癒しただけでは足りなかった。

 彼の体はいたるところにメスが入れられた痕があり、腎臓や肝臓の一部などが切除されていた。肝臓などは修復可能だが、除去された腎臓などは癒すことはできなかった。

 僕の怒りと憎しみは頂点に達した。

 まだ、その相手がわかってもいないと言うのに…。


 こんな事をされる前に戻って原因を排除するほかないだろう。

 僕はアンジェラだけではなく、リリアナやアンドレ達のここに至るまでの記憶を自分のものとした。しかし、アンジェラの記憶から、アメリカの家で食事をとった際、食事に何かを盛られ、意識がなくなったらしい。全員一度に眠らされ、拉致され、子供たちは最後まで意識を取り戻していないようだ食事をした記憶を最後に眠っている様だ。

 たった一人、アンジェラだけが尋問のために敢えて眠らされていなかったようだ。


 その時までの数か月、僕は日本の朝霧邸に行ったまま、そこで消息不明になった。という連絡があったようだ。

 まさしく、今この場にいることが消息不明の原因であろう。いや、そのように思わせるべきなんだと思う。


 よく考えれば、アンジェラのつまらない子供じみた態度が、僕のネガティブな思考を増幅させ、今回の僕の若年回帰と記憶喪失を起こすというバッドトリガーとなった。

 しかし、そのバッドトリガーこそが、今回、僕が家族と離れ日本の実家に滞在し、拉致被害に遭うことから免れることができた原因と言ってもいい。

 今までもそうだった、無意味だと思っていたことがとても意味のある事だったり、偶発的に発生する事柄でさえ遠回しにでも必ず誰かの命を救ったりすることに繋がってきた。

 今回も、この不幸な出来事こそが僕の家族を救う唯一の機会なのだ。


 しかし、封印の間に家族が全員いて意識を失っている。と言うことは誰がここに運んできたんだろう…。他に転移のできる者はいない。

 僕は、日本の朝霧邸に戻り、祖父の未徠と父の徠夢に相談することにした。


 一度、元の時間の日本に戻る。予期せずリリィになってしまったので、子供用のパジャマはビリビリになってしまった。自室でリリィの服に着替え、父様とお爺様にメッセージを送った。

『記憶が戻った。至急相談したいことがある。』

 二人からはすぐに返信が来た。すぐに地下書庫で話し合うことになった。

 父様は地下書庫に入ってくるなり、僕に抱きついて「記憶が戻ってよかったな」と言った。

 リリィの姿の僕にそんなことしたのは初めてだった。でもその後の発言はいただけなかった。

「それで、離婚するのか?相談てそのことなんだろ?」

 嬉しそうな顔で言われ、ちょっとがっくりする。

「違う。そんなんじゃない。」

 そう反論しているときにお爺様が入ってきた。

「よかったな、リリィに戻ったのか?安心したよ。」

「離婚はしない。そんなことより、大変なことがこれから起こるみたいなんだ。」

 僕はさっき見た状況を二人に記憶を見せて共有した。

「な、なんと酷い。」

「そ、それで、今、皆は?マリーやミケーレはどうなっている?」

「お爺様、皆、生きてはいるよ。でも臓器を摘出されたり、血を抜かれたり、翼を切除されたりしていて、欠損部分は元には戻らない。」

「リリィ、どうするつもりだ。」

「一度、さっき行った時間に行って、ここ、朝霧邸を見てくるよ。封印の間にはイタリアの家族しかいなかった。父様やお爺様にまで何かされていたら困るからね。」

「その後はどうする。」

 父様が僕に食いつくぐらいの勢いで聞いた。

「犯人を見つけて排除するよ。絶対にあんなことさせない。」

「わかった、協力する。」

「じゃあ、ちょっと2,3分待ってて。」

 僕はそう言ってさっき封印の間にいた時間へ転移した。その時間の地下書庫へ行ったのだ。

 ホワイトボードに色々と書かれた情報、セキュリティカメラの映像を印刷した写真、調べた結果が残されている。

 家の中を確認するが、誰もいない。セキュリティカメラの映像をできる限り古い物までスマホにコピーしてきた。

 徠神の店へも行った。VIPルームに転移するが、客が一人もいない。店内から入り口に行くと、張り紙が一枚貼ってあった。

『都合により閉店しました。』

 これは深刻だ。イタリアの家族だけじゃない、全員がいなくなっている。

 徠神の店のセキュリティカメラの映像もスマホにコピーした。

 アメリカの家も同様にセキュリティカメラの映像をコピーした。


 お爺様と父様の待つ実家の地下書庫へ戻った。5分ほど経ってしまったが、二人は待っていた。

「待たせてごめん。」

 僕は父様のタブレットを借り、スマホの映像を転送する。

 まずは、イタリアの家だ。

「今日はまだ9月28日、日曜日だよね?」

「そうだ。」

「映像の最終日、僕がアンジェラ達を救出した日がこの日なんだ。」

 映像のタイムスタンプは1月15日だった。

 イタリアの家の映像からチェックを始めた。1月に入ってからの人の出入りは無かった。

 イタリアで最後に家族が映っていたのは12月20日だ。

 全員でダイニングに集まり、転移でどこかに出かける様子が映っていた。

 次にチェックしたのはアメリカの家だ。アンジェラの記憶から、アメリカの家で薬を盛られたと思われる。

 12月20日にイタリアから転移してきたのは、まさしくこの家だった。

 その日は何事もなく家族だけで食事をしている。

 翌日は皆でどこかに出かけて夕方食事を済ませて帰ってきたようだ。

 12月22日、アンジェラに一本の電話が入った。内容まではわからない。

 翌日12月23日、クリスマスパーティーを開くようで、ケータリングの業者が食べ物を持って家の中に入ってきた。

「これか?」

 父様が叫ぶ。そうだった。

 パーティーが始まる前に席順を確認する業者の男、その指定された席の家族のところには右のトレーに乗ったカトラリーを、それ以外の者の席には左のトレーに乗ったカトラリーを置いている。食事ではなく、食器に何かを塗り付けているんだ。

「どうする、リリィ。」

 父様が僕に判断を仰ぐ。

「父様、これはまだこれから先に起こることなんだよ。大丈夫、まだ時間があるから。もっと調べないと根絶やしにできない。」

「そ、そうだな。」

 映像では、招待された客が帰り、ケータリングの食器や食材も片付けられ、業者がいなくなった後で、家族は睡魔に襲われ、それぞれのベッドで寝てしまっている。

 その後、更に一時間ほどして、玄関の鍵が開き、見たことのある人物が入ってきた。

 一度遭遇したことのある掃除を外注している業者のおばさんだ。

 おばさんは、6人ほどの帽子をかぶった部下に指示して僕の家族を次々と運んでいく。

「あ、このおばさんは清掃の外注業者だ。見たことがある。」

「きっと拉致グループの仲間だ。」

「そうだね。」

 家族を連れ去った車は大きなワゴン車2台だった。門に隠して取り付けてあるカメラで走り去った方向は確認できたが、ナンバーは隠されていてよく見えない。

 清掃業者の女は、残った仲間と共に証拠隠滅の清掃を始めた。


 次にチェックしたのは朝霧邸の映像だ。

 12月22日から一日ずつ進めていく。12月24日正午頃、宅急便を装った帽子をかぶった男が、玄関口でかえでさんをスタンガンで気絶させ、そのまま室内に侵入した。

 物音に気付いたお婆様と母様もスタンガンで気絶させられた。

 三人を使っていない部屋に縛り上げた上で閉じ込め、物陰に隠れた男が昼の休憩時間に医院から戻ってきた未徠を殴り倒し、縛り上げた。徠夢も同様に気絶させられ、縛り上げられている。三人の女性を残し、お爺様と父様だけが侵入した男の仲間と共に連れ去られた。

 三人の女性達は、数時間後に目を覚まし、警察に通報し、暴行と拉致の捜査が始まったらしい。

 徠神たちは朝霧邸で起きた拉致被害とほぼ同時刻に複数の男たちに襲われたようだ。

 たまたまクリスマスの予約ディナーのみの営業で、その時間は仕込みのため、お店を閉めていたところを侵入されたらしい。

 スタンガンと鈍器で殴られていた。

 店の貼り紙は、お婆様が連絡の取れなくなった徠神たちの安否を確認しに店に警察官を同行して行った際に、警察の人に促されて貼ったようだ。


 この感じでは、ドイツでも同じことが起きていそうだ。

 あいにくドイツのセキュリティカメラ事情とかまでは分からない。

 僕はお爺様と父様に言った。

「ちょっとアンジェラに相談してくる。多分、解決するまで帰らない。

 アンジェラ以外には『突然失踪した』と言っておいて。何か変なこととかあったら僕とアンジェラにメッセージを送って。僕も何かわかったらメッセージを入れるから。」

 二人は僕に同意してくれた。

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