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251. バッドトリガー(4)

 目の前が真っ暗になったと思った瞬間、僕は少し柔らかい物の上に落ちた。

『ドサッ』

 暗闇に目が慣れてくると、それが何かわかった。

 背がすごく高い、黒髪の天使。そのうつ伏せに倒れこんでいる背中の翼の上に落ちたのだ。

「わっ、ごめんなさい。」

 目が少し慣れてきたが、暗くて何がなんだかわからない。

 そう言えば、パジャマのポケットにスマホを入れていた。スマホのライトをつけてみる。


 そこには、薄いマットの上にあのアンジェラおじさんがうつ伏せに横たわり、翼を出した状態だった。

 腕にはたくさんの注射針の痕があり、白い半そでの病衣みたいなものを着ている。

 本人に意識はない。

 周りを見渡すと、真っ暗なこの部屋にはドアがあるが、ドアの上部の窓の部分には鉄格子がはまっていた。

 むき出しの便器、床はコンクリートであまり綺麗とはいえない。

 僕は状況がよくわからず、とりあえずアンジェラおじさんを起こそうと思った。

 息はしている、心臓も動いていそうだ。

「アンジェラおじさん、起きて。ねぇ、ここどこなの?どうしてこんなところにいるの?」

 少しアンジェラを揺すって声をかけ続けたら、アンジェラが少し目を開けた。

 スマホのライトで自分の顔を照らす。

「僕のこと知ってるんだよね?アンジェラおじさん、起きて。」

 アンジェラはもうろうとする意識の中、僕を抱き寄せて僕の頬にキスした。

「最期に会いに来てくれたんだな、私のライル。」

 ものすごい量の100年以上の記憶が僕に流れ込んでくる。

「ア、アンジェラ…。」

「ライル、愛しているよ、ずっと前から。そして、これからも…。」

「しっかりしてよ。」

「もう、私はダメだ。家族も皆殺され、実験に使われた。私も皆の元に行く時が来たようだ。幻でもお前に最後に会えてうれしいよ。」

 話しかけても、もう僕の事を幻としか思えないみたいだ。

 アンジェラがかすれるような震える小さい声で歌を歌い始めた。


『会いたい 心でそう願っていても 君は

 僕らが まだ出会っていないのだと 言うよ


 瞳 閉じれば ほら 君の声が聞こえる


 すべての 希望を捨てて生きて行けたら

 君に 会えると 信じられるのなら 何も要らない


 すべての のぞみをあきらめたのなら

 君が 僕を 愛してくれるのなら 何も要らない


 もう 見えないよ 君の 笑顔さえも


 僕らは どうして 出会ってしまったのだろう

 こんなに 苦しい 想いするのなら さよならを君に』


 途中からは聞いたことのない歌詞だった。

 もう、僕をあきらめたことを意味しているのだろう。今は一体いつなんだ?

「アンジェラ、ごめんね。辛かったね。僕が悪いんだよ。

 僕が全部忘れちゃったり、日本に行っちゃったりしたから…。」

 アンジェラは弱々しく瞼を少し開け、黙って僕を見つめていたが、囁くように言った。

「ライル、最期にキスを…。」

「え?」

 僕は子供で男の子で、アンジェラおじさんは大人の男で、二人の関係は僕にはっまだよくわからなかった。流れ込んできた記憶はまるで映画のワンシーンのように全部にストーリーがあったけれど、それが自分の体験したものだとは感じられなかったし、とうてい信じられなかった。少し、迷ったけど、かわいそうなおじさんを見ていたら、僕にできることがそれくらいしかないと思った。

 僕はアンジェラの唇に唇を重ねた。

『チュッ』とキスをしたとき、二人の間に真っ白い光があふれ、僕の体は炎に包まれたように熱くなり、背が伸び、翼が生え、髪が伸びた。僕は、リリィの姿になった。

 その一瞬後、二人は今までいた場所ではないところに行った。

 そこは封印の間だった。


 床に横たわるアンジェラ、意識は混沌としている。驚いたことに、そこにはリリアナ、アンドレ、ミケーレ、ライナ、そしてマリアンジェラもいた。

 僕は、アンジェラとキスをしたことにより、全てを思い出した。子供の姿になってしまった時までの記憶を思い出したのだ。

 しかし、ここに同居している家族全員が意識を失い倒れていることの理由はわからなかった。

 僕は家族の無残な姿を見て、怒りが込み上げてきた。

「一体誰が僕の大切な家族にこんな事を…。」

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