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248. バッドトリガー(1)

 フロリダのホテルのスィートルームで家族全員で豪華な食事をとった。

 いくらアンジェラ関連のホテルでも、部屋代とか食事代とか、目が飛び出るくらいの金額に違いない。以前からずっと考えていたことなのだが、僕は働いたことがない、いつも家族にお金を負担してもらっている。贅沢するのは気が引けるのだ。


 食事の後、アンジェラからCM撮影で得たギャラを振り込んであるという口座のカードと残高証明が僕に手渡された。

「事務所の取り分はちゃんと引いてあるからな。」

 受け取って残高を見て仰天…。90000ドル。日本円で一千万円を超える。

「ちょちょ、ちょっと多くない?」

「そんなことないだろう…、人気が出たらこれの5倍はいくぞ。その気があるなら他の依頼も受けるぞ。どうだ?」

「ははは、今のところはもういいです。」

 芸能人って儲かるんだね。おかげで、しばらくお小遣いには困らないよ。

「ライル、今回のブランドは今から一年分のスニーカーと衣装を無償提供してくれるそうだ。

 来週、事務所に届くからもらっておけ。」

「どうして、そんなのもらえるの?」

「お前が実際着用しているのがSNSにでも載ったら、宣伝効果があるからだろう…。」

「なるほど…。」

 そこにマリアンジェラがポツリと一言。

「マリーのは?」

「あるぞ~、ほら。」

 アンジェラがカードと残高証明を取り出した。ほとんど同じ金額だった。

「ひゃっほーい。お金持ち?」

「そうだな、でもこれはパパが預かっておくからな。失くしたら大変だから。」

「あい、あーい。キャプテン。でも、アイス買うときは、そこから出してくれるんでしょ?」

「そうだな。いいだろう。」

 アンジェラが楽しそうに笑っている。

 食事が終わって少し休んでから、皆でイタリアの家に転移した。アメリカでは夕方でもイタリアに帰れば深夜である。疲れのせいか、お風呂に入って上がってからはあっという間だった。

 皆、すぐに寝落ちした。


 3、4時間経っただろうか、家に戻ってからリリィになって爆睡していた僕も、ふと寝返りを打った時にアンジェラがいないことに気が付いた。

 僕は少し心配になってキッチンで水を飲んだ後、アンジェラを探してあちこち覗いた。

 書斎、倉庫、客間…。アンジェラはアトリエにいた。

 アトリエのソファに座って、スケッチブックに何かを描いているようだった。

 邪魔しない方がいいかな、と思い、そーっと頭を引っ込めて寝室に戻ろうとしたら、アンジェラから声をかけられた。

「どうした?目が覚めたのか?」

「あ、うん。何してるの?」

「私の日記みたいなものだな。」

 そう言って、手招きをするアンジェラの横に座ると、開いたままのスケッチブックを僕に手渡してくれた。

 中には、今日の撮影の時の様子だろうか、マリアンジェラが僕にキスしようとしているところが描かれていた。

 マリアンジェラのいたずら子っぽい笑みと僕の恥ずかしそうな顔、生き生きとしている。

「すごくいいね。色鉛筆なの?」

「もう、本格的な油絵とかは描くつもりがないんだが、その一瞬というか、忘れたくない思い出を時々こうして描いているんだ。」

 絵も素敵だけど、それを自然に話すアンジェラがめちゃくちゃカッコイイ。

「ううっ。」

「どうした?リリィ、どこか痛いのか?」

「なんか、胸が苦しい。」

「救急車呼ぶか?リリアナの方がいいか?」

「や、ちょっと、待ってよ。アンジェラのことが好きすぎてここがズキズキしただけだから…。」

 そう言って、胸の辺りをおさえると、アンジェラが僕をじーっと見つめて言った。

「お前がそう言うことを言うときに限って悪いことが起こる。」

「え?そ、そうなの?」

 予期せぬアンジェラの発言に目が点に…。

 なんだか雰囲気がめちゃくちゃ下がって、普通に片付けて寝ることに…。

 そう言えば、今までも『好き』とか『愛してる』って口に出すとアンジェラの機嫌が悪くなってた気がする…。気のせいじゃなかったんだ…。


 とりあえずベッドに入った後、アンジェラに謝った。

「あの、アンジェラごめんね。なんだか気にしてること気づかなくて、思ったことそのまま口に出しちゃって。今度から言わないように気をつけるね。」

 本当はそんなこと、我慢して言わないとか言うのが変だと思ったけど。

 言わなきゃいけない気がして、背中を向けてるアンジェラにちょっとだけ手が触れるくらいで、言った。

 アンジェラは何も言わなかった。僕の方にも向いてくれなかった。

 何だか悲しくなった。今までの5年間の自分を否定されたようなそんな気持ちになった。

 リリィとライルに分離しているときに感じたような虚無感が僕を襲った。

 お腹の中にざわざわした物が大きくなって、さっきの好きって言う気持ちとは違うズキズキが僕の心を包み込んだ。


 気が付いたら、僕は寝ていたようだ。嫌な夢でも見たのかな…。不思議と何も感じなかった。

 すごく疲れていたことは覚えている。

 まだ眠たいな。今日は何曜日だっけ?また外は暗いしね。もうちょっと寝てからでも大丈夫かな?

 僕はまたウトウトして寝入ってしまった。

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