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245. 犯人逮捕と鉄の胃袋の女

 やっと整理がつき、家に帰ったのは朝に近い時間だった。

 森に行ったり、縄で捕縛したり、物陰に隠れたり、結構サバイバルな一日だったせいか体中が筋肉痛で、着ていたパジャマとルームシューズもドロドロだった。

 今度からは服くらいはちゃんと着て行こう。

 なんだか、テレビに出てくる様なスーパーヒーローみたいにはいかないもんだね。

 しかも、マリアンジェラにすごい助けてもらったし。

 あれ、祈るだけでできるのかな?今度機会があれば試してみよう。と言っても、そうそう毒を盛られることもないでしょうけど。


 浴室にそーっと入り、一回全部脱いで、シャワーを浴びた。

 なんだか500年前のユートレアは同じ季節でもやたらと寒かったな…。

 シャワーを終え、バスローブを羽織り、髪を乾かしたら、面倒でそのまま寝室に…。

 アンジェラを起こさないように、コソコソとベッドにもぐりこんだ。


 9月23日水曜日。

 朝、目が覚めたらアンジェラはもうベッドにいなかった。

 時計を見たらもう朝の10時を過ぎていた。

「もう起きなきゃ、ヤバい。」

 顔だけ洗って、バスローブから部屋着に着替える。急いでダイニングに行ったが、もう誰もいなかった。

「もう散策に行っちゃったか…。」

 なんだかむなしさが一挙に押し寄せる。仕方ない、寝不足で授業中居眠りするよりマシだからね。

 ラップのかかった朝食を一人で食べ、片付ける。

 とりあえず、アンジェラに電話をかけた。

「アンジェラ、ごめんね。遅くなって朝寝坊しちゃった。」

「あぁ、大丈夫だ。あと30分ほどで家に戻るぞ。」

「じゃあ、待ってるね。アンドレ達は今日の昼間には帰ってくるって言ってたよ。」

「そうか。」

 なんだかアンジェラの電話もそっけない気がして、若干落ち込む…。

 まぁ、仕方ない…。子供を三人も世話して、更にガキっぽい僕の相手では疲れるに決まっている。ふと、自分がもっと小さい時はどうだったか…思い出そうとしてみた。

 あれ?なんだかよく思い出せないな…。僕ってどんな子供だったっけ?

 そんなどうでもよいことを考えているうちにアンジェラと子供たちが帰ってきた。


「ただいま~。おかえりなさいですぅ。」

 ミケーレが変な挨拶をする。

「おかえり。」

「あ、ママ~。」

 猛烈ダッシュしてきたミケーレをキャッチしてぎゅってする。

「ママ~、マリーはぷんぷんなんだからっ。」

 マリアンジェラはご機嫌が悪いらしい。

「マリー、どうしたの?ハグは?チューは?」

「ハグよりアイスがいい。」

「え?」

 アンジェラが苦笑いをしながら教えてくれた。

「マリーがアイスを一箱全部食べて、それでもまだ足りないと言うから、今日はもうないと言ったら、ママが好きなだけ食べていいって言ったのに、と怒ってひどかったんだ。」

「えー?一箱は食べすぎじゃないの?」

 マリアンジェラ、ご機嫌悪いまま手を洗い、ソファにふて寝中。

「アンジェラ、マリーだけじゃなくて、オスカー王もアイスが食べたいらしいわよ。目を輝かせて、アイスとは何だ?って言うから、次に持たせるって言っておいたんだよね。」

 アンジェラもアンドレと同じような苦笑いを浮かべている。

 ライナが黙って会話を聞いていたが、急に僕のところに来て僕の服の裾を引っ張った。

「ん?どうしたの、ライナ…。」

「だっこ」

 どうしたのかな?いつもはスーッと子供部屋に行くんだけど。

 抱っこして、今日は何が獲れたか聞いてみた。

「今日はね、アサリ。パスタにしてくれるって。」

「うわぁ、いいね。僕もアサリのパスタ、大好き。」

 嬉しそうにライナも頷く。


 あっというまに学校に行く時間になった。また、家の方に転移して学校まで歩く必要があるため、少し早めに出なければいけない。

 クローゼットでライルになり、着替えを終えて転移する。髪をボサボサのまま来てしまった。

 慌ててももう手遅れだ。

 今日も職員用の入り口から入る。直接教室まで止まらずに進んだ。

 教室の前でウィリアムが待ち伏せしていた。

「ライル、あの…。」

「何?」

「警察が訪ねて来たりした?」

「来たよ。不審者について、色々聞かれた。それが何か?」

「あ、いや別に…。あ、実は…僕の知ってるやつが犯人だと思うんだけど…。」

「思うんだけど?って?」

「SNSで知り合ったやつでさ、天使を信仰している新興宗教の信者らしいんだ。」

「うさんくさい感じだね。」

「あぁ、そうなんだ。僕もまさかあいつらが宗教に関わってるとは思わないからさ、君のことを見つけたっていうことを名前とかは書かずに呟いたら、色々聞かれて…。どうやら、僕を監視していたみたいなんだ。」

「君は自分は事件に関わっていないと言いたいのかい?」

「関わってなんかいないよ。利用されたんだと思うし、そう考えると君に申し訳ない。」

 こんな時、女神アフロディーテの心を読む力があったら、嘘を見抜けるんだけどな。

 そう思った時、僕の体から白い光が…。でも周りにいる人たちには見えていない様だ。

 ウィリアムの考えていることが頭に伝わってくる。

『とにかく、ライルが怪我しなくてよかった。』

『今後ライルに関しての情報はSNSにアップしないように気を付けないとな。』

『新興宗教、こえーな。首切るとか異常だろ。』

『本当にごめんなさい、天使様。』

 なるほど、嘘ではないらしい。

「わかった。SNSとかに上げるのはやめてくれよ。」

 僕はそれだけ言って教室に入った。

 ベスが声をかけてきた。

「ライル、何かあったの?」

「僕の寮の部屋の前で事故があったらしいんだけど、その前から不審者がうろついてたんだよ。」

「それで警察が来てたりするのかな?」

「多分ね。僕もここ数日は寮に行ってないんだ。」

 担任の教師が来て二人の会話はここで終わった。


 少し学校に慣れてきたせいもあるが、授業の内容は、簡単でつまらないものだった。

 英語で進められること以外は内容的には日本と同等か、それより簡単なものもある。

 人と会話することがあまり好きではない僕にとって意見をぶつけ合うような授業はあまり居心地は良くなかったが、日本のように友達同士でつるむような感覚とは違い、個々人で独立した環境は人間関係が楽に感じられた。

 とりあえず、このままこの学校でやっていけそうかな…。


 帰宅時間、まだ寮の部屋の前は使えないらしい。

 不便だ。家からここまでの徒歩が非常に面倒だ。特にスポーツの時間の後が辛い。

 シャワーを浴びる前に移動しなければいけない。ドロドロで汗まみれだ。

 僕はまたスーパーマーケットで飲み物と食べ物とアイスのボックスを2種類買って家へと歩いた。僕がスーパーに寄るのには訳がある。

 ここを何時に通って家に帰ったのかという証拠をわざと残しているのだ。


 スーパーを出て、住宅街に差し掛かった時だった。

 背後からつけてきている人物がいるような気配を感じる。

 僕はスマホを取り出し。走りながら電話をかけた。

「リリアナ、今あとをつけられてるんだ。アメリカの家に転移して、そこから出て右に曲がって僕の方へ近づいてきてくれないか?もし僕が何かされそうになったら、少し離れたところから援護してくれないか?転移とか見られないように気を付けて、あと、知り合いにあったりしたらリリィとしてふるまって欲しい。」

 早口で言うと電話を切った。あと2ブロックで家の前だ。

 遠くに、リリアナが家から出てきたのが見える。

 後ろから近付いてきた人物が、リリアナの姿を見て少し離れた。

「ライル、今日は早いのね。」

「姉さん、ただいまー。これ買ってきたよ。」

 とスーパーで買ったアイスを渡す。

「あ、お義父さんのだね。」

「そう、後で持って行ってあげなよ。」

 僕はリリアナの手にさりげなく触り、彼女の記憶から見えた背後の男達の顔を見る。

 一人はこの前部屋の前に来た男だった。もう一人は知らない男だ。

 皮の手袋をしているあたり、拉致しようと近づいてきたのだろう。

 僕はスマホを操作し、ビデオ撮影を開始しながら、さりげなく周りが映るように手に持ったスマホを後ろに組んだ手に持ったり、腕を組んだりした。映っていればいいけど…。

 僕とリリアナは家に到着し、門を通り、家の中へ入った。

 家の中からセキュリティカメラをチェックし、まだ男が家の周りの路上駐車している車の陰に隠れていることを確認した。

 この前警察官にもらった名刺の電話番号に電話をかけた。

「すみません、ライル・アサギリと言いますが、この前、僕の寮の部屋のドアを叩いていた男が家の周りをうろついています。学校を出たあとからついてきていたようです。

 この前家に来てくれた警察官の方に伝えていただけますか?」

 そこからは、早かった。たった2分でパトカーが到着し、男たちは捕らえられた。


 首を切った犯人が捕まり、結局切った方も切られた方もウィリアムの言っていた新興宗教の信者で、天使を彼らの神として崇めているらしいことは分かった。

 崇めてるなら捕まえようとするなよ、と思うのだが、他にも信者がかなりいるらしく、学校の外に出る時には僕に警察官が護衛としてついてくれることになった。

 そんな話を警察官と玄関先でしているときに、家の中が騒がしくなった。

「やったー!チョコチョコ、チョコチップの~アイスぅ。」

 マリアンジェラの声だ。ぎょっとして2階を見上げると、アンジェラ、アンドレ、マリアンジェラ、ミケーレ、ライナまで、全員集合している。

 どうやらリリアナに助けを求めたのを聞いていて、全員で転移してきていたらしい。

 子供たちはパジャマ着てるし。

 アンジェラはテラスからずっと見ていたらしい。いざとなったらマリアンジェラに頼んで排除するつもりだったようだ。


 オスカーにと思って買ったアイス2箱は家族みんなのお腹に収まってしまった。

 特にマリアンジェラはストロベリーとチョコを箱の半分ずつ食べていた。

 まさしく、鉄の胃袋を持つ女である。

 アンジェラは、こちらで雇っている従者に連絡し、明日の朝から食事はこちらでとるので準備するようにと指示していた。

「アンジェラ…僕のために…。」

 そう思ったのだが、今週末の撮影のため、金曜には来ようと思っていたから、少し前倒しにしただけと言って僕が気おくれしないよう配慮してくれていた。


 リリアナは姿が見えないと思ったら、イタリアの家から僕の夕食分として取り分けてあった食べ物と、アンジェラ達のワインとつまみを持ってきた。

 リリアナが電子レンジで温めなおしてくれたから、ヤバい匂いがぷんぷんしてくる。ゴルゴンゾーラチーズのラビオリだ。

 お腹がぐぅ~と鳴った。

「早く食べないと、マリーに食べられちゃうよ。」

 ミケーレが教えてくれた。そっか、いつも僕の分、隠してあるって言ってたもんな。

 こっちにいる間はライルのまま過ごすことになるだろう。


 その後、何事もなく木、金曜日の学校を終え、家に帰ったときに護衛でついてた警察官が家に入る直前に話しかけてきたため、そこで立ち話をすることになった。

「ライル・アサギリさん、色々ご協力ありがとうございました。

 事件が解決しましたので、もう寮の部屋を使っていただいて大丈夫ですよ。」

 月曜日の朝学校に行った後から寮の部屋には入ってもいいという話だった。


 長い一週間が終わり、忙しい週末に突入した。


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